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社説

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暫定税率廃止―間を置かずに環境税を

 各省庁から来年度の税制改正の要望が出そろった。鳩山政権にとって初の税制改正へ、議論が本格化する。

 焦点の一つは、ガソリン税などに上乗せされてきた暫定税率の扱いだったが、鳩山由紀夫首相は「暫定税率はいったん廃止する」と述べ、政権公約通り廃止する意向を明らかにした。

 そうなると次は、民主党がかねて掲げてきた、温室効果ガスを増やさないための新税はどうするのか。そこが注目点となる。

 暫定税率の廃止はガソリン1リットル当たり約25円の値下げにつながり、総額2.5兆円の減税となる。消費者にはガソリン値下げへの期待も少なからずあり、民主党の看板政策の一つだ。

 だが、ガソリンの大幅減税はガソリン需要の増加につながる可能性が強い。これは鳩山政権が掲げた「2020年までに温室効果ガスを25%削減する」という目標と矛盾する。12年までに6%減らすという京都議定書の目標達成さえ危ぶまれる今、採るべき政策とは思えない。

 民主党は政権公約に「将来的にはガソリン税などは地球温暖化対策税として一本化」することもうたっているのだから、こちらの早期導入とセットで検討すべきである。

 小沢鋭仁環境相は来年度の税制改正要望で、ガソリンなどに課税する2兆円規模の温暖化対策税の導入を求めた。この新税の制度設計を急いで来年4月の導入をめざすべきだ。

 もし鳩山政権が参院選対策として暫定税率の廃止だけを先行実施すれば、ガソリン価格はいったん下がるが、しばらくして新税の導入で再び上がる。

 昨春の暫定税率の一時廃止で石油業界や消費者の混乱があった。同様の混乱が再び繰り広げられるような事態は避けるべきだ。

 政権内でも暫定税率廃止と新税をセットで考えようとの動きも出ている。景気悪化で税収が激減しているためだ。藤井裕久財務相は将来の課題としてきた温暖化対策税の前倒しの検討を政府税制調査会に促した。

 鳩山内閣が政権公約で掲げた子ども手当などの新政策の財源の不足が心配されていることからも、減税だけ進めれば赤字国債の増発にますます頼らざるをえなくなるからだ。

 暫定税率廃止で8千億円の税収を失う地方自治体からも、その穴埋め策として「地方環境税」を創設してはどうかとの提案が出ている。

 こうした状況を考慮すれば、暫定税率の廃止に合わせて間を置かず温暖化対策税を導入すべきではないか。

 新税の導入に時間がかかるなら、暫定税率の廃止を遅らせればいい。将来を見据えた見地からエネルギー環境税制を作り上げていく。何よりもそのことが求められる局面だ。

関門海峡事故―海の難所を甘く見るな

 海峡や瀬戸、水道と呼ばれる海難の多発海域で、安全・安心な海上交通をいかに確保するのか。

 本州と九州の境にある関門海峡で、海上自衛隊の護衛艦「くらま」と韓国船籍のコンテナ貨物船が衝突した事故はその課題を改めて突きつけている。

 関門海峡でも、現場の関門橋付近は航路幅が約600メートルと最も狭い。潮流も速く、国内有数の難所として知られる。おまけに海峡を往来する船舶は1日約600隻にのぼる過密ぶりだ。

 海上保安庁の第7管区海上保安本部によると、管制などをする関門海峡海上交通センターにコンテナ船の前を航行する貨物船から、コンテナ船が接近したため「左を追い抜いて」と連絡が入った。センターはコンテナ船に貨物船の左側を追い越すよう助言し、貨物船には右に寄るよう伝えた。

 貨物船が助言に従い、減速すると、コンテナ船は追突寸前まで急接近し、左に急旋回した。センターは「くらま」に「異常に接近した船がいます。避けてください」と連絡したが、直後に衝突が起きた。「くらま」は乗組員全員が見張りなどにつく態勢だった。

 コンテナ船は向かい潮にかじを取られ、船体がほぼ横向きになった。このため、衝突せずとも航路脇に座礁した可能性が高い、と海保はみている。

 なぜ事故は起きたのか。海保と国土交通省の運輸安全委員会には事故原因を徹底究明してもらいたい。

 海保の直属機関である海上交通センターの情報提供のあり方も問われている。海保は「指示や命令ではなく援助措置で、従うかどうかは船長の判断」と説明する。一方「事故の原因につながった可能性は否定しない」とも述べている。

 来年7月の改正港則法などの施行に伴い、管制官の助言は一定の強制力のある「勧告」に格上げされる。これを契機に管制のあり方を再検討することも必要だろう。

 海上交通の難所とされる東京湾など全国11カ所の港、水域は、航路を熟知する地元の水先人を乗船させる「強制水先区」に指定されている。関門海峡もその一つで、護衛艦などを除き、通過する1万トン以上の船には水先人の同乗が義務付けられている。

 コンテナ船は1万トン未満で水先人は同乗していなかった。海保によると、昨年までの5年間、関門海峡では年に平均34隻が関係する衝突事故が起き、このうち9割以上が1万トン未満の船舶だった。だが、今回のような事故が起きない限り、注目を浴びにくい。

 関門海峡を通る船舶には現場に不慣れな外国船も多い。この際、夜間通航に限り「強制水先」の範囲を広げるなど、基準の見直しも検討すべきではないか。同様の問題が他の海域にもないか、国交省による総点検も必要だ。

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