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きょうの社説 2009年11月1日
◎八田アニメ台湾上映 交流の果実を受け継いで
金沢出身の土木技師、八田與一のアニメ映画「パッテンライ!!」が日本に続き、台湾
でも上映されることは、烏山頭ダム建設に尽くした技師の功績を日台で広く共有し、交流を深める新たな一歩となろう。アニメという分かりやすい媒体によって石川県内の子どもたちに八田技師や台湾への関心が一気に広がったように、台湾でも交流の担い手である若い世代が八田技師を知ることはとりわけ大きな意義を持つ。台湾の若者はアニメや芸能界など日本の文化、流行に親しんでいても、日本の歴史や日 本人への関心には必ずしも結びついていないと言われる。八田技師の生き方は若い世代にも共感を広げ、日本へのより深い理解を促すことだろう。戦後、日本人の銅像が撤去されたなかで八田技師はなぜ残ったのか。命日に烏山頭ダムほとりで墓前祭が毎年営まれているのはどうしてか。映画をみればきっと分かるはずである。技師への感謝を忘れない嘉南平野の人々の思いが台湾全土に広がり、次の世代に受け継がれることを期待したい。 「パッテンライ!!」は昨年、金沢で公開後、全国の主要都市で上映されている。台湾 では「八田與一」のタイトルで今月4日に舞台となった台南県、9日に台北市で試写会が開かれ、13日から台湾全土の10館で吹き替え版が封切られる。 八田技師の墓前祭では、金沢の「八田技師夫妻を慕い台湾と友好の会」も参列し、嘉南 と金沢の人々との間で草の根交流が続いてきた。映画は地道な地域間交流の果実といえ、台湾全土での公開は「嘉南の父」「農業の恩人」といった八田技師の台湾側の評価を日台交流の大きな位置づけのなかで見つめ直すことになる。 台湾がアジアでもとりわけ「親日」と言われるのは、日本統治時代を知る日本語世代の 存在がある。世代交代が確実に進むなか、八田技師の再評価は新たな親日派を増やすことにもつながっていくだろう。 台湾では烏山頭ダム近くで「八田與一記念公園」の整備計画が動き出し、ダムの世界遺 産登録をめざす運動も始まった。映画公開はそうした新たな取り組みの絶好の追い風になるはずである。
◎子ども手当 地方負担はあり得ない
鳩山政権の目玉施策である「子ども手当」は、実施するなら全額国庫負担で行うべきだ
。財務省や官房長官から一時、地方自治体や企業などにも負担を求める声が挙がり、鳩山由紀夫首相がこれを否定したにもかかわらず、10年度予算の概算要求に「事業主や地方自治体の負担は予算編成過程において検討する」と明記された。財源不足に苦しむ財務省は厚労省を巻き込んで、あわよくば地方や企業に負担を押し付けようとしてくるだろう。地方負担が決まるようなことがあれば、石川県では約180億円もの負担増になる可能 性があり、富山県ともども県財政が破たんしかねない。企業負担も単純計算で、現状の児童手当事業主負担分の5倍以上に膨らむとの見方もあり、そんなことになれば地方経済に悪影響を及ぼすのは間違いない。地方や企業に負担を求めなければ実現できないくらいなら、実施を見送ってほしい。 そもそも民主党のマニフェスト(政権公約)で、子ども手当は全額国費を想定していた 。厚労省も全額国庫負担を前提に制度設計をしている。それでもなお予算総額を圧縮したい財務省を筆頭に、閣内には地方負担を求める声が根強くあるという。鳩山首相も「基本的には国費でまかなう」としながらも「地方に負担をさせるということは今、私の頭の中にあるわけではない」と含みを持たせる発言をしているのが気に掛かる。 子ども手当を全額支給するとなると、必要な財源は約5兆3000億円に上る。防衛費 を上回る財源をひねり出すのは極めて難しく、現行の児童手当を廃止し、所得税の配偶者控除や扶養控除の廃止分を充てるなどしても、新たな負担は3兆円は下らない。 財務省サイドからすれば、児童手当と同様、地方と企業への負担を認めさせることがで きれば、財源問題は解決に近づくと思うはずだ。だが、それでは地方財政と地方経済は、大打撃を受ける。これは、民主党が掲げる地方分権の考え方にもそぐわない。自治体が足並みをそろえて、全額国費負担を強く求めていく必要がある。
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