審査員紹介

都市・建築の視点から

今村 創平 (建築家)

今村創平 電話は長らく通話という単純な機能のみを持つ装置でしたが、今日の多機能携帯電話には私たちの活動の先端が集約されています。同じように、エレベーターはビルの中での人の移動を助ける役割を担ってきましたが、今後、人と生活環境との新しい関係を作れる機械になるとしたら、どのようなことが可能でしょうか。
 都市をはじめとして私たちを取り巻く環境は、前世紀の間に大きく変わりました。それはひとつの達成ですが、しかし私たちといい関係を作れているでしょうか。
 経済、環境、安全など、今日いろいろな問題から来る閉塞感があるなかで、それゆえに社会全体が大きく変わる好機ととらえてはどうでしょうか。そうした変化を促す、創意にあふれた、大胆な提案を期待しています。

IMAMURA Souhei●1966年東京生まれ。1989年早稲田大学理工学部建築学科卒業。1990年から1992年までAAスクール(ロンドン)、1993年から2001年まで長谷川逸子・建築計画工房(株)勤務。2002年設計事務所アトリエ・イマム一級建築士事務所設立。2003年プロスペクター設立。ブリティッシュ・コロンビア大学大学院、芝浦工業大学大学院、工学院大学、桑沢デザイン研究所で非常勤講師を勤める。主な建築作品に「富士ふたば幼稚園」「神宮前の住宅」、著書は『Archi lab 2006 Japan』(共著)、『現代住居コンセプション』(共著)、『ヴィヴィッド・テクノロジー』(共著)など。
公式Webサイト[ATELIER IMAMU]:http://www.atelierimamu.com/

安全学の視点から

辛島 恵美子 (NPO法人安全学研究所理事)

辛島恵美子 安全配慮には幾つかのレベルがあり、よく見かけるのは行為の詳細が明確になった段階で追究し、検討されるものです。それに対して未来を切り拓こうと想像しようとするときに問われる安全配慮は「いかにすれば人として、人間としてよく生きることになるのか」の基本的哲学的問いと重なります。
 人はひとりで生きることなどあり得えず、したがってそれは個人的問いと同時に社会的問いでもあって、誇りを持って次世代にいのちのバトンと時代条件を引き継がせていくにはどうあるべきなのか、そう問いつつ生まれでる夢を期待しています。それは「サステナビリティー」のコンセプトに託された内容とも矛盾しませんし、いのちを真に輝かせる条件とは何であるか、何であるべきかの問いもまた「コミュニティーの活性化」「コミュニケーション」に託された内容と矛盾しないはずです。

KANOSHIMA Emiko●1949年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科基礎法学専攻修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科学際工学専攻博士課程満期退学。薬剤師。三菱化成工業株式会社、三井情報開発株式会社総合研究所を経て、NPO法人安全学研究所を設立し、現在、理事。著書に『薬と食べ物と水』(安全学入門シリーズ(理工図書、2007)など。

制作者の視点から

アニリール・セルカン (宇宙物理学者)

アニリール・セルカン 僕個人は、朝の通勤、通学ラッシュにより、人は一番頭が働く時間を無駄にしていると思っている。
 脳もまた、ストレスで始まった一日を快適な日に切り替えるためエネルギーを消費するだろう。
 そんなストレスから解放されたかったのか、エレベーターが垂直交通に道を拓いたように、昔の科学者は2次元から3次元へ交通手段を移動すること、いわゆる「50年後は空を飛ぶ車で移動する」という未来予想を立てた。私たちはまだ空を飛ぶ車で通勤をしているわけではないが、たとえそうなっていたとしてもストレスという面ではあまり変わらない日々であるような気がする。
 未来の交通を考える上で大切なのは、未来、人がどんなあり方を選び、結果どんなライフスタイル、環境、職場、社会となっていくかを考察し、様々な分野を統合していく多次元にわたる視点である。

ANILIR Serkan●1973年ドイツ生まれで国籍はトルコ共和国。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻助教、ローマ大学・ナポリ大学・モントリオール大学客員教授、東京理科大学・筑波大学非常勤講師。1973年ドイツ生まれで国籍はトルコ共和国。現在、2001年NASA宇宙飛行士プログラムを終了、2004年トルコ人初宇宙飛行士候補に選ばれる。U.S Technology Award、ケンブリッジ大学物理賞およびAmerican Medal of Honorを受賞。現在は先端技術を応用し、インフラに依存しないで暮らせる空間技術「INFRA-FREE LIFE」を開発、研究している。
公式Blog:http://blog.anilir.net/

新領域デザインの視点から

田中 浩也 (慶応義塾大学環境情報学部准教授、デザインエンジニア)

田中浩也 人工環境や人工物のデザインを行うとき、私たちは、今までよりもっと積極的に、生物や生態系、生命プロセスなどから学ぶ必要があるのではないかと考えています。
 そして、移動や交通について考えるときにも、そうした方法は応用できるのではないでしょうか。生物は、それぞれが生息する環境条件(気候・地形・食物の在り処等)に適応するために、多種多様な移動能力を開花させ、発達・進化してきたと考えることができるからです。
 生物に宿っている原理にまで立ち返ってその本質を適切に抽象化し、工学的に翻訳した上で実体化する「バイオミミクリ(生体模倣)」という方法が、新しいデザインを生み出す突破口になるのではないかと思います。

TANAKA Hiroya●1975年生まれ。東京大学工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。
2005年より慶応義塾大学環境情報学部講師、2008年より同准教授、現在に至る。
研究室Webサイト[HIROYA TANAKA LABORATORY]:http://mountain.sfc.keio.ac.jp/~tanakalab

地域コミュニティーの視点から

小林 庸至 (株式会社野村総合研究所 主任研究員)

小林 庸至 現在、「コンパクト・シティ」「シュリンキング・シティ」など、都市をめぐるさまざまな概念が提示されていますが、そこで人がどう動くのか、どのような生活が送れるのか、誰も生々しいイメージを伴って語ることができていません。
 世界には、ポルトガルのリスボンや、ブラジルのサルヴァドール、チリのバルパライソなど、エレベーターがインフラとして機能している都市がいくつもあります。私たちにとって、都市は水平方向に広がるもの、というのが常識ですが、垂直方向に広がる都市があっても良いかもしれません。そうした都市では、新しいコミュニティーや人間関係が生まれるかもしれません。
 将来の都市のあり方を考えるヒントになるような、斬新なアイデアを期待しています。

KOBAYASHI Yoji●1979年愛知県生まれ。2003年東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修了。株式会社野村総合研究所にて、主に公共セクターに対する調査・コンサルティング業務に携わる。専門は、社会資本政策・都市政策。

メーカーの視点から

原田 豊(東芝エレベータ株式会社 取締役上席常務 統括技師長)

原田豊 過去2回の未来エレベーターコンテストでは未来都市に焦点を当て、移動手段としてのエレベーターのあり方やその姿について多くの提案をいただきました。
 一方で当社は、これまで『FUTURE DESIGN』を通して函館・西部地区や川崎の街路空間を取り上げ、その地域コミュニティーの未来の暮らしと、そこで活躍するエレベーターやエスカレーターの未来形を提案してきました。
 そこで今回、未来エレベーターコンテスト2009では、応募者の皆さまの身近な地域コミュニティーを取り上げていただき、その地域コミュニティーの資源や特徴を生かしつつ、持続的に発展させるための新しいエレベーター・エスカレーターのアイデアを募集します。
 単に利便性の追求ではなく、安全で、安心、そして地域コミュニティーの活性化に不可欠な豊かなコミュニケーションを実現する、皆さんからの様々なアイデアを期待しています。

HARADA Yutaka●1951年生まれ。九州工業大学工学部卒。株式会社東芝府中工場昇降機部長、東芝電梯(上海)有限公司責任者を経て、現在にいたる。


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