野宿者に関する東京都の調査について、「実情を反映していない」と疑問視する声が上がっている。都は今月23区の野宿者が過去最少の約2500人になったと発表したが、「派遣切り」などの影響で炊き出しに並ぶ人は増え、一時宿泊施設は空きがないのが現状。公園や河川敷のテントを数える調査方法について、支援団体は「実態把握に適していない。ネットカフェなどに寝泊まりする人も含めれば2倍くらいになるのでは」と指摘する。【市川明代】
都は96年から毎年夏冬の2回、公園、河川敷、駅構内などのテントや段ボール小屋を数える方法で調査を開始。21日「23区内の野宿者は2499人で昨年夏から146人減り調査開始以来最も少なかった。施策の成果が出た」と発表した。
しかし、8月にNPO法人「TENOHASI(てのはし)」が豊島区の公園で行った炊き出しには過去最も多い500人が並んだ。男性(42)は「化粧品工場で5月に派遣切りに遭い路上生活を始めた。ここに並ぶようになるなんて」と顔をしかめた。台東区の隅田川河川敷で「山谷労働者福祉会館」などの支援団体が行っている炊き出しでも08年秋から列が延び始め、今月4日には1年前の倍近い590人が並んだ。
野宿者の宿泊施設も不足する。ある区で生活保護を担当する職員は「施設に空きがないのでカプセルホテルを居住地として生活保護を支給するケースもある」と打ち明ける。別の区職員も「空きが出るまでネットカフェで待機してもらうことがある」と話す。
支援関係者によると、派遣切りなどで住む場所を突然失い、テントや小屋を設けない野宿者が増えているという。TENOHASIの清野賢司事務局長は「炊き出しには、ファストフード店などに寝泊まりする若者も並ぶ。広い意味でのホームレスの数は倍近くにはなっているはずだ」と指摘。山谷労働者福祉会館の中村光男さんは「実態をつかむのならテント数だけ調べるのでなく、夜間の聞き取りが必要だ」と話す。
都福祉保健局の担当者は「年ごとの比較を目的にしており、やり方を変えるのは難しい。現状では今の方法しかない」と説明する。
総務省の調査では9月の完全失業率は5.3%で最悪の状況が続く。また、気象庁によると11月1日から寒気の影響で全国的に冷え込み、野宿者にとっては厳しい季節がやってくる。
毎日新聞 2009年10月31日 15時00分(最終更新 10月31日 15時57分)