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常に動き続けているPLAYSTATION®3の画面

PLAYSTATION®3の電源を入れると、静かに立ち上がる起動画面。この起動画面を始め、PLAYSTATION®3のユーザーインターフェース全般を手がけたソニー・コンピュータエンタテインメントの平松修治のインタビューをお届けします。

「起動画面が静かなのは、PLAYSTATION®3のイメージのひとつが『常に動き続けている』というものだったからです。待機している状態から、「ちょっと触れたら、気がついた」そんな感覚を大事にしたかったのであえて派手な画面にはしていません。映画のシーンにたとえると、主人公が制御室に入って、タッチパネルに触れる。すると、ふっとシステムが目覚める……そんなイメージです。フェードインの仕方も試行錯誤して、徐々に輝度があがっていき、そのあとにロゴが表示されるかたちに落ち着きました。」

PlayStation®2の起動画面

PLAYSTATION®3の起動画面

「PlayStation®2の時は、コンセプトが「宇宙」だったのでスケール感とクールさが基調になっています。画面の中央にはフォトンのような光が飛んでいるのですが、あの光で宇宙をイメージしています。起動すると、メモリーカードの中のタイトル起動回数を読んで、画面の中に柱が立つのですが、この柱の数は当時のPlayStation®の一世帯あたりのゲームの装着率から割り出して、本数を用意しました。ゲームを遊んでいると、PLAYSTATION®3が登場する時期あたりに、柱が気持ちよく埋まるくらいの割合で、柱が立つようになっています。」

「PlayStation®2、PSX®、PSP®「プレイステーション・ポータブル」、PLAYSTATION®3と、だんだんさりげない立ち上がり方になっていますね。やはり、最初はこってりした起動画面を作っていたんですが、それをどんどん圧縮して、削ぎ落としていくうちに、シンプルで濃厚な多彩な意味が詰まったものになってきているんだと思います。 PLAYSTATION®3の起動音はオーケストラのチューニング音(調律音)です。80人ぐらいのオーケストラのイメージで、オーボエから音が始まり、楽器の定位なども正しく音源を作っています。かなり複雑な音作りをしているんですが、シンプルに聴こえるようにしています。 また、メインメニュー画面になると波のような映像が流れますが、これは画面の向こう側のネットワークにつながっているイメージ。動的に生成され、変化していきます。日付と時間に合わせて、背景の色も変化します。 ゲームソフトが立ち上がると「ちりん」という鈴のような音が鳴り、PLAYSTATION®3のロゴが表示されますが、あれはコンテンツの世界へ向かって、ゲートをくぐるような感じを演出したかったんです。」

XMB™(クロスメディアバー)〜ゲームの操作感をいかして

コントローラで気持ちよくメニュー選択ができるXMB™。横にずらりとアイコンが並び、ボタンを押すたびに高速で次から次へとメニューが表示されます。PLAYSTATION®3でも採用されている、このXMB™が生まれたきっかけとは。

「XMB™が初めて採用されたのはPSX®のときですが、ゲームのエンジンを利用して、インターフェイスを作るということがコンセプトでした。ゴージャスなグラフィックというわけではなくて、ゲームらしい反応性の良さを活かしたものを目指しています。ボタンを押すと、すぐに反応が返ってくる。そしてすぐに画面が変わる。スピードから生まれるわかりやすさ、きめ細かい操作というものを追求しています。 XMB™のアイデアは、PlayStation®2のDVD操作画面がヒントになっています。画面の上に半透明のアイコンが被さるように並んでいて、コンテンツを楽しみながら、操作するものですね。アイコンはハイビジョンテレビの16対9の横長を活かした、レイアウトになっています。」

PLAYSTATION®3のXMB™ 〜PSP®と同じインターフェイスを実現

ゲームに加えて、ブルーレイディスク、DVD、CDなどの映像・音楽ソフトの再生、インターネットブラウザなど多彩な機能を持つPLAYSTATION®3。XMB™は、PLAYSTATION®3でどんな進化を遂げているのでしょうか。

「PLAYSTATION®3の第一印象はとにかくパワフル。ネットワークや分散処理といった構想もあり、その強力な能力をどのように親しみやすく感じさせるかが大事だと思いました。 当初、XMB™以外のアイデアも検討されました。しかし、PSP®とPLAYSTATION®3はつながっていくという構想もありましたし、製品ごとにインターフェイスのロジックが違うと破綻をきたすので、同じロジックを受け継ぐためにもXMB™が採用になったんです。 PLAYSTATION®3のXMB™では、アイコンの質感にかなり凝っています。3次元で作ってあって、立体の法線情報がある。だから、画面上で浮き出て見えるはずです。 そもそもアイコンは、子どもからお年寄りまでがひと目で理解できるような、やわらかいデザインで統一しています。HDテレビでもそうでないテレビでも線がはっきり見えるような、しっかりとしたデザインです」

「XMB™のアイデアを考えるときは、20年後はどうなっているのだろうと考えるんです。リビングで楽しんでいるのはもちろんのこと、もしかしたらXMB™が表示されているのはテレビ画面じゃないかもしれない。もしかしたら、空中でピッとやっているのかもしれない。あるいは、映画の1シーンにXMB™がでてきたら、主人公はどのように使っているのだろうか……。そんなことを考えながら、イメージしているのです。」

「ミュージック」「ビデオ」機能

PLAYSTATION®3にはインターネットブラウザや写真を見るためのスライドショー、Super Audio CDも再生できる音楽プレイヤーなどが用意されています。

スライドショーの「フォトアルバム」

「インターネットブラウザは、まずPCを使ってきた人がストレスなく使えるようにデザインされています。タブブラウザとして、複数の画面を表示できます。ブラウザは今後も拡張しがいがある部分ですね。 写真のスライドショーには「ノーマル」の他に3つのスタイルを用意しています。「フォトアルバム」は、机の上に写真を置いていく雰囲気、手書きの良さや手触り感をいかしています。「ポートレイト」は、普通に見ていたら気づかないかもしれませんが、顔認識技術を採用していて、写真に写っている顔を中心にズームアップしたりしています。さりげなくドラマチックな感じがするものを目指しました。「スライド」は、昔のスライドプロジェクターのようなアナログ感ですね。若干、光源が動いて、スライドが切り替わる演出をしています。デジタル的な性能があがったからこそできるアナログ表現ですね。 音楽再生プレイヤーにはビジュアライザーがついていて、音楽にあわせて、色が変わり、音にあわせて波が起きています。多彩な見え方をしますがベースになるデータは実は1つです。複数のクリエーターが餅つきのような感じで、見た目の属性をかわりばんこに変化させていった経過をレコーディングしたものをシームレスにつなぎました。」

「PLAYSTATION®3はネットワークなどでのアップデートを介して、進化するハードになっています。僕らも休むことなく、ずっと作り続けていくつもりです」

平松修治(ひらまつ しゅうじ)

株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント コーポレートデザインセンター GUI/OSデザイングループ

1965年岡山生。京都大学文学部卒。1988年〜日本電子専門学校にてコンピュータグラフィックスの講師。1993年 ソニー・コンピュータエンタテインメント入社。制作部にてムービーの制作・プロデュースを行う。CGグループとして1999年SIGGRAPH Electronic Theater 入賞。同年からコーポレートデザインセンターにて“プレイステーション”ファミリー(PlayStation®2、PSX®、PSP®、PLAYSTATION®3等)のシステムソフトウェアのGUIデザインを担当。2004年XMB™(クロスメディアバー)GUIがグッドデザイン賞受賞。2007年PSP®のGUIがエミー賞受賞。