現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

新型用ワクチン―子どもにこそ必要では

 新型の豚インフルエンザの流行が、大都市圏を中心に勢いを増している。

 とりわけ気がかりなのは、重症になって入院する患者が、もっぱら子どもたちに集中していることだ。9歳以下が全体の6割を占め、14歳以下だと8割にのぼる。

 ぜんそくなどの持病がある人が重症になりやすいとされてきたが、これまでのところ入院患者の多くは健康な子どもたちだ。早めに手当てを受けたにもかかわらず、症状が急速に悪化して脳症などで亡くなることもある。

 今はまず、子どもたちの命を守るために万全を期していかねばならない。

 医療従事者以外へのワクチン接種が昨日から一部の地方で始まった。だが、厚生労働省が決めた順番では妊婦や持病のある人たちが優先で、病気を持たない子どもたちへの接種は12月上旬以降となっている。

 ワクチンには、感染を予防したり重症化を防いだりする効果が期待される。子どもたちへのワクチン接種をもっと早めるべきではないか。日本小児科学会や日本ウイルス学会などの専門家から、そんな指摘が出ている。

 東京都は今週、独自の判断で、就学前の幼児への接種を11月半ばに前倒しすることを決めた。持病のない幼児が脳症で相次いで亡くなり、危機感を強めていることが背景にある。医療従事者への接種が従来の2回から1回に変更されたため、その分を幼児に回す。

 ほかの自治体にも、同じような不安が広がっていることだろう。

 ワクチン接種の優先順位は、欧米や南半球などの状況を参考にして決められた。ところが、日本の状況はこれまでのところ、患者や死者の数が少ないことも含めて欧米とはかなり違う。

 学校から始まった流行が社会に広がり、持病がある人たちの命を脅かすと考えられてきたが、その重症例は幸いにして少ない。

 厚労省は早急に実態を把握し、ワクチンをどう使うか再検討すべきだ。新型インフルの本格的な流行は初めての経験である。科学的な根拠に基づいて柔軟に計画を見直す、臨機応変の対策が必要な場合もある。

 麻生前政権下では、厚労相直属のチームも含め、専門家による委員会がいくつもあって混乱を招いた。

 政治主導を掲げる鳩山政権はまず、専門家の意見をきちんと聞き、それを政策につなげる態勢を整えることに政治力を発揮してほしい。国民への正確で明瞭な情報提供も重要だ。

 日本小児科学会は厚労省に対し、地域での医療機関の連携に指導力を発揮することや、できるだけ昼間の受診を呼びかけることも合わせて要望した。

 昼夜の別なく奮闘している小児科医のために、子どもたちの命を救うために、できる限りの支援をすべきだ。

貸し渋り対策―金融のゆがみ正す契機に

 中小企業が抱える借金の返済猶予につながる新たな支援策を、鳩山政権がまとめた。臨時国会で「中小企業金融円滑化法案」の成立を図る。

 発端は亀井静香金融相の発言だった。それが、借金の返済を政府が強制的に猶予させる「モラトリアム」を意図したかのように受け取られ、論議を呼んだ問題の結末である。

 仕上がりを見れば納得がいく、という人は多いのではあるまいか。

 法案は、借り手企業が元本の返済繰り延べといった融資条件の変更を金融機関に申し入れれば、金融機関は誠実に対応するよう努める義務がある、としている。

 金融機関が返済猶予などに応じやすくなるよう、新たな信用保証制度を作るほか、返済を猶予したことが「不良債権の増加」とみなされないよう金融庁の検査基準を変える。

 融資条件を緩めることを通じて中小零細企業の資金繰りを支援し、経営の再建を経済全体の再生につなげようという狙いだ。

 ただ、これで金融機関の審査が甘くなったり、いずれ信用保証の代位弁済が増えたりすれば、国民負担につながりかねない。

 そうした弊害を避けるには、各金融機関が借り手企業とよく話し合って、経営実態をきちんと把握する必要があるのではないか。

 金融機関がそうした姿勢で臨むなら、長年にわたる日本の金融の「ゆがみ」を正すきっかけにもなる。

 日本の金融機関は90年代、不良債権を減らすため自己資本比率規制と金融検査基準を守ることにきゅうきゅうとして、融資先の財務諸表ばかりを重く見て融資するようになった。

 優良企業には各金融機関から借り切れないほどの融資話が殺到し、不振に苦しむ企業からは潮が引くように金融機関が遠ざかる。

 景気の良い時はそれでもまだよかった。だが、いったん不況になると、大企業には貸す一方、中小零細企業は「業績が悪い」との理由で敬遠する傾向が一段と強まった。

 日銀がいくら金融を緩和しても、生産が縮小して金詰まりになっている中小企業になかなか恩恵が及ばないのはこのためだ。

 不良債権を処理する過程で日本の金融は、借り手の人となりや企業の将来性といった数値に表れにくい経営実態を加味し「相手を信用してカネを貸す」という金融の大切な部分を衰弱させてしまったといえる。

 新法を契機とした融資条件見直しの過程で、このような体質を改める新たな取り組みが生まれるよう、関係者は大いに努力すべきだ。

 そうしてこそ、今回の騒動を実りのあるものにできるだろう。

PR情報