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きょうの社説 2009年10月31日
◎新幹線の需要再試算 国が行うのが筋ではないか
北陸新幹線金沢−福井など整備新幹線の未着工区間の早期新規着工を要望する沿線自治
体に対し、前原誠司国土交通相が需要予測などを試算し直すよう求めたことに違和感を覚える。整備新幹線の建設は国家プロジェクトであり、新規着工の是非を判断するための試算が必要なら、やはり国が行うのが筋ではないか。国交省は今年7月、金沢−福井などについて、収支採算性と投資効果は「おおむね(新 規着工の条件を)クリアできる」との見通しを示したばかりである。これらはいずれも需要予測に基づいて算出するものであり、前原国交相が将来の需要に不安を感じるなら、まず省内で、この見解を導きだすに至った過程を精査してほしい。 前原国交相は23日の定例記者会見で、自治体に再試算を要求する理由として「需要を 過大に見積もって、結果的に完成してふたを開けてみたら、なかなかそれに到達しないケースがある」ことを挙げている。こうした説明を聞く限りでは、事業主体である静岡県の需要予測の甘さが指摘されている静岡空港のような例と、国の責任で推進してきた国家プロジェクトである整備新幹線を混同しているようにも思える。谷本正憲石川県知事が、西川一誠福井県知事との懇談会で国交相の発言に疑問を投げ掛けたのも当然だろう。 昨年末、前政権は金沢−福井などの年内新規着工を検討するとの方針を打ち出したが、 前原国交相はそれを白紙に戻す意向を強調しており、先ごろ再提出した来年度政府予算の概算要求でも新規着工費の計上を見送った。政権が交代したのだから、前政権の整備方針をそのまま踏襲する必要はないという考え方は、まったく理解できないわけでもない。 ただ、整備新幹線に期待し、延伸を想定して各種施策を推進してきた自治体が少なから ずあるのも事実であり、それは前原国交相も承知しているはずだ。にもかかわらず、あえて整備方針の再考に踏み切る以上は、自治体を困惑させるようなややこしい言動を控えて責任をもって議論をリードし、なるべく早く明確な結論を出してもらいたい。
◎開業・勤務医の所得差 現場の対立感情避けたい
厚生労働省の医療経済実態調査によると、一般診療所の院長(開業医)の平均年収は2
008年度で病院勤務医の1・7倍という。政府はこの調査結果を参考に10年度の診療報酬改定で、開業医と勤務医の所得格差の縮小をめざす考えであるが、診療報酬の改定を議論する中央社会保険医療協議会(中医協)の委員人事で、長妻昭厚労相と日本医師会(日医)が激しく対立しているのは憂うべきことである。地域医療の現場では、かかりつけの開業医と高度な専門医療を行う病院医師が協力して 最適な治療を患者に施す「病診連携」の推進が重要なテーマになっている。病院の小児科医不足を開業医がカバーするなど、それぞれの労働環境に関する理解も深めながら役割分担をすることが必要になっているのであり、政権交代に伴う政府と日医の対立や所得格差論議が、医療現場における開業医と勤務医の対立感情を招くことがないようにしてもらいたい。 厚労省の調査では、08年度の開業医の年収が平均2522万円なのに対し、勤務医は 1450万円だった。収入格差はかねて問題視されており、勤務医の待遇を改善するため08年度の診療報酬改定で病院の再診料などが引き上げられ、前回調査時で1・8倍だった所得格差はやや縮まった。 鳩山政権は来年度改定で勤務医への配分をさらに厚くする方針であるが、従来の中医協 は日医の影響で開業医の報酬が優遇されてきたとの批判が強いため、長妻厚労相は中医協人事で日医推薦の委員を外し、日医と衝突するかたちになった。日医が長年自民党を支持してきたことを背景した政治的な対立がさらに激化して、診療報酬の議論がゆがめられることがないよう注文しておきたい。 所得格差に関して日医側は、診療所の経営リスクを負い、事業関連の税金や設備投資の 債務なども負う開業医と、経営に直接関与しない勤務医の収入を単純に対比できないと主張している。開業医と勤務医の収入の違いについては、平均年収額の比較にとどまらない緻密な議論が必要である。
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