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カムイが、、いたから、、今の、、
ピエールが、、ある。。

ピエールのカムイ時代の、、
恋と呼ぶには、、あまりにも、、
せつなく、、哀しい物語。。



カムイ恋伝 海の男の色ざんげ

                                        
文  ピエール
                                      挿絵  ある

信じてもらえないかもしれないが、これまでにつきあった女性は1人きりだ。
その女性、Cちゃん。

知り合ったのは19歳のとき。
ぼくは浪人中だった。

高校時代、とある女子高の人たちと文化系サークルを作って、
卒業したあとも活動を続けていた。
そこの発表会が終わってしばらくたったころ、
仲間に呼び出された。

「カムイ君を好きだって人がいるんだけど」
ステージに立ったぼくを見て一目惚れしたそうだ。
物好きな。
「Cちゃんていうの。会ってみない?」

ぼくには好きな人がいた。
同じサークルのリルさん。
フランス人形みたいな美人だった。
東京の大手プロダクションが「ぜひ芸能界デビューを」と、何度か説得に来たほどだ。
美しさを鼻にかけることもなく、やさしくて思いやりがあった。
物静かで清楚な人だった。
ぼくにとっては高嶺の花。完全な片思い。

「おれな、好きな人がおるんや。すまんけど断わってくれる?」
「リルさんでしょ」
「それは秘密です。ムホホ」
「会うだけ会ってみたら?」
「んー、まあやめとくわ。おれ荒野の素浪人やし、遊んどる場合ちゃうから」
「気に入るかもよ」
「いらんいらん。うまいこと断わってくれ」
「リルさんがいいのね。あの人もてるから無理よ」
「いやいや。まあまあ。はは」

ところがこいつ、策略を用いてCちゃんとぼくを引き合わせる。
意外にかわいらしい子だった。
でもぼくはリルさんが好き。Cちゃんは目に入らなかった。


翌年、めでたく受験に合格。
故郷から何百キロ離れた町で1人暮らしを始めた。
大学にはかわいい女の子がたくさんいたが、リルさんのことが忘れられない。
生まれて初めてのラブレターを書いた。

結果は撃沈。というか轟沈。
ショックだったが、こればかりはどうしようもない。
高校3年のときから胸に秘めていた恋はあえなく潰れた。

で、このへんがずるいところなんだが、
リルさんに振られてやっと気づいたCちゃんの存在。
いやですね。身勝手ですね。

しかし、
こっちがだめならあっち、というのではあさましすぎる。
3ヶ月ほど時間をおいた。
いや、格好をつけるのはやめよう。
失恋から立ち直るのにそれだけかかった。そういうことだ。

そして夏。帰省。
例の仲間に連絡して、Cちゃんの電話番号を教えてもらった。
すぐに電話。
「よかったらぼくとつきあってください」
「ハイ」
これが始まりだった。

今でいう遠距離恋愛だが、
ふつうの場合は好きあった2人が離ればなれになってやむなく遠距離恋愛になる。
ぼくらは、
つきあい始めた当初から遠距離なわけ。
これはなかなか進展しない。

貧乏学生のこととて、
そうたびたび帰省はできず、といって市外電話もままならず。(当時は電電公社で高かった!)
いきおい文通がメインになる。
週に3通4通は当たり前。
体が離れているぶん、心をひとつにしたくて書きに書いた。
友人でも気の利いたやつは、みんな彼女と半同棲していた。
ぼくはいかにも時代遅れだった。


帰省のたびにデートを重ねた。
といっても健全コース。
公園、映画、喫茶店。でなければどっちかの家。
もちろん家族がいる。
ぼくはクルマを持っておらず、Cちゃんの家は門限がきびしかった。
悪さをしようにもチャンスはない。

というか、Cちゃんもぼくも非常にうぶで、大それたことができなかったのだ。
ホテルなんてあなた、とてもとても。
そんなこんなで、手を握るのに何ヶ月もかかった。

初チッスはさらに1年ほど後。
デートの帰り道、暗がりを通ったとき。
まあちょっと計画的ではあったが。
すいません。
女性を抱きしめたのは初めてだった。
膝がふるえた。
それからは何かにつけてチッスした。
しかし、
それ以上の行為はご法度。2人の間に暗黙の了解があった。

あるとき、
下宿先にCちゃんが遊びに来てくれた。
方向音痴なのに、国鉄を乗り継いで。

部屋に案内して、向かい合ってすわった。
おたがい緊張しまくり。
せまい室内で2人きりになったのは初めてだ。
ちょっとそういうムードになりかけたが、
ぼくは結婚前に手を出してはいかんという古い人間。
Cちゃんも身持ちの固い女だ。
抱きしめて、チッスして、まあそれくらいで満足だった。

Cちゃんは下宿に4回来た。
もちろんいつも日帰りだ。
彼女のひざ枕でぼんやりしながら、
卒業したらこの子と結婚するんだろうなと、漠然と考えていた。


さて、そろそろぼくのいやな部分をお話しせねばならん。

帰省したときのことだ。
いつものように健全なデートをして、Cちゃんを家まで送り届けたあと。
妙な疑念がわいた。
(おれはCちゃんとリルさんを比べてないだろうか)
考えてみればその通りだった。
いつもいつも、Cちゃんの中にリルさんの姿を探している。
愕然とした。

こんな失礼な話があるだろうか。
Cちゃんはぼくを信頼しきっているのに、ぼくは心の中でリルさんを追い求めている。
代用品。
そんな言葉が頭をよぎった。
払っても払っても頭に浮かんできた。
ひどい自己嫌悪だ。

それからというもの、
Cちゃんの屈託のない笑顔を見るたびに自分を責めた。
このままつきあっていてはいけない。

ちょうどそのころ、Cちゃんと同居しているおばあさんが入院した。
Cちゃんを最もかわいがっていた人だ。
1度お見舞いに行ったが、
すべてを見透かされているようで目を合わすことができなかった。
あなたの大事なお孫さんを、ぼくはだましています。

数日後、Cちゃんと遊園地へ行った。
おばあさんの容態は良くなかった。
遊園地から帰ってみると、おばあさんは亡くなっていた。

Cちゃんが大好きだったおばあちゃん。
ぼくのせいで死に目に会わせてあげられなかった。
ほかの女を思い続けている最低の男のせいで。
もはや取り返しがつかない。
腹を切っても許されない。


あまりの重荷に、ぼくは卑怯なことをした。
Cちゃんから徐々に遠ざかったのだ。
文通は途切れがちになり、
何通か手紙をもらってようやく返事を書くといったありさまだ。
それも短い文面。
Cちゃんはすぐに気づいた。
下宿まで尋ねてきた。国鉄を乗り継いで。

「リルさんのこと、やっぱり好き?」
「そんなことないんやが」
嘘をついた。
「じゃあ、ほかに好きな人ができた? おなじ大学の人?」
「そんなんと違うんや」
「正直に話して」
「ごめん。ほんまごめん」
理由も言わず、ただ謝った。
Cちゃんは静かに微笑んでいた。

「じゃあ私、帰るね」
「駅まで送るよ」
「いい。ひとりで帰る」
「でもな」
「ひとりがいい」
2年ちょっとの交際は、こうして終わった。
大学3年の秋だった。



最初に書いたとおり、まがりなりにもつきあった女性はCちゃん1人です。
ゆえに罰ゲームはこれでおしまい。
ファーストラブと言えますかどうか。
R18になってませんね。
前回の罰ゲームで逃げを打ったのは、逃げたというより書けなかったのですな。あはは。

これでは納得してもらえますまい。
どうしてほかの子とつきあわなかったか、説明させてもらえますか。
もうちょっとご辛抱ください。


Cちゃんと終わって、さあ今度はリルさんだ。
そんなふうに気持ちを切り替えられる性格だったら、ぼくの人生も少しは違っていただろう。

Cちゃんと別れて2年間、ひそかに謹慎した。
リルさんに連絡するのを自ら禁じた。
そんな事をしたところで、罪滅ぼしになるはずもない。
だが、Cちゃんの気持ちを踏みにじっておいて、
すぐ後にリルさんに言い寄るなんてできなかった。
これ以上卑怯になりたくなかった。

しばらくして、同級生から人づてに告白された。
同じ過ちはもうごめんだ。
はっきりと断わった。
ぼくの心に住んでいるのはリルさんだけ。
その思いは誰にも明かすことなく、卒業を迎えた。

ぼくは故郷に帰った。
就職して1年ほどすぎたころ、謹慎を解いてリルさんに電話した。
20歳のときに振られて以来だ。
リルさんにはすでにいい人がいるようで、結婚の噂も出ていた。
電話してみて、噂は本当らしいと確信した。

それでもいいから一緒にごはん食べよう。だめならお茶でも。
とにかく会ってくれ。1時間だけ。
ぼくは必死だった。
今をのがしたら、リルさんは結婚してしまう。

次の日、喫茶店で会った。
リルさんを笑わせようと頑張ったが、なけなしのギャグはことごとく空振り。
あっという間に時間がすぎた。

「そろそろ約束の1時間やな」
「うん」
「また会ってくれるかな」
「…………」
「一緒にどっか行こう。映画見よう」
「ごめんね、あたしね」
「ドライブは? エアコンついてない車やけど。はは」
「カムイ君、あたしね」
「わかったわかった。また今度。またいつか。うんうん」

あわてて席を立った。
リルさんの言いかけたことを聞きたくなかった。言わせたくなかった。
勘定を払って店を出るまで、
ぼくは一方的に話し、笑い、リルさんに喋らせなかった。
リルさんは目を伏せていた。

それでもあきらめきれず、何度か電話した。
リルさんは明らかに迷惑していて、
いくら誘ってもやんわりと断わられた。
時間と場所を一方的に決めて「待っとるから」と電話を切ったこともある。
もちろん来てくれるはずもない。
強引なやり方に、かえって印象を悪くしたことだろう。
もはや打つ手はない。
ぼくは完全にしくじったのだ。

竹内まりやのLPを買った。
リルさんが好きな歌手だ。
これを聴けば、少しでもリルさんに近づけると思った。
リルさんと同じ歌を聴いているだけでよかった。
毎日毎日くり返し聴いた。

そんなある日のこと。
サークル時代の女友達とめしを食った。

「カムイ君、今でもリルが好きなの?」
「どうかなー。ははっ」
「リルね、もう何年も前からつきあってる彼氏がいるよ」
「そらそうやろ。あれだけきれいな人やし」
「○○の公務員でね、わりとエリートみたいよ」
「ええやつ? 会ったことある?」
「あるよ。すごくいい人」
「なら幸せになれるやろな」
「うん。そう思う」

会話が途切れた。
ぼくはコーヒー茶碗の底をじっと見ていた。
奥歯をかみしめて耐えた。
まもなく27歳。女に涙を見せていい歳ではない。

「あとはカムイ君が幸せになってね」
「うん」
「いい人みつけて」
「おれは港港に女ありじゃ。ムホホッ」

町を出よう。
そう決心して別の仕事をさがした。
アパートもみつけて、いよいよ来週は引っ越しというとき。
もう1度だけリルさんに電話した。
しつこい男だ。

「リルさん。ぼくなあ、××県に引っ越すわ。むこうで仕事もみつけた」
「そう。よかったね」
「今日はリルさんを困らせたりせんから。最後に声だけ聞かせてもらおうと思うて」
「うん。ごめんね」
「謝るのはぼくのほうやんか。いつも困らせてばっかりで悪かったなあ」

リルさんと電話線でつながっている。
ぼくの言葉に答えてくれている。
この電話を切ったら、ぼくの知らない男と幸せになるだろう。
もう会うこともないだろう。
最後に言いたいこと。言っておきたいこと。

「ほな元気で」
「カムイ君もね」
「ありがとさん。じゃっ、バイビー」

電話ボックスを出た。
言いたいことは言えなかった。
リルさんの声がいつまでも耳に残っていた。

それから恋ができなかった。
何年たってもリルさんのことが忘れられない。
いいなと思う人がいても、
無意識のうちにリルさんと比べて、すぐに幻滅してしまう。

リルさんはそんな歩き方をしなかった。
リルさんはそんな言い方をしなかった。
リルさんはそんな笑い方をしなかった。
リルさんは。リルさんは。

もちろん頭ではわかっている。
ぼくはリルさんのことを何も知らない。
勝手なイメージを作り上げ、都合よく美化しているにすぎない。
それはわかっているのだ。
だけども、
リルさんのイメージは理想の女性像になってしまっていた。
美化の上に美化を重ねたマドンナ。
ほかの女性が色あせて見えるのは当然だ。
こんな状態でだれかとつきあうことは許されない。

30代のなかば。
古い女友達から電話があった。
ぼくに幸せになれと言ってくれたあの人だ。

「来月ね、サークル時代のみんなで集まるの。カムイ君も来ない?」
「リルさんも来る?」
「来るよ」
「じゃあやめとくわ。みんなには仕事が忙しいとでも言うてくれ」
「そっか。わかった」
「リルさん元気?」
「うん。子供も2人いて幸せにしてるよ」
「よかったなあ」
「こないだカムイ君の話が出たときね、リル言ってたよ。カムイ君はやさしいからって」
「ほんとかよ」

電話を切ったとたん、涙がぼろぼろ出た。
やさしいと言ってもらえた。それだけで嬉しかった。
リルさん。ぼくは。
アパートの畳の上で泣きに泣いた。


リルさんへの思いを断ち切れたのは38歳の冬。
人を好きになれた。素直な気持ちで。
GOさんもご存じのスーパーのレジ嬢だ。
あっさり断わられたが、
20年の苦しみから解放されたことを喜んでいただきたい。





感動の嵐 読者の声
ある 涙、でた。
切なくて。。。( -。-) =3
Luther
きんどーさん…
今の世の中、あなたみたいな男が
少なくなっちまいました…。
あなたみたいに、バカがつくくらい正直で、
あなたみたいに、バカがつくくらい純粋な、
そんな男が少なくなっちまいました。
そんな、バカな生き方が出来るあなたを
僕はむしろかっこいいと思いました。
ゆーか
いろいろあって男なんて皆信用できないー!
なんて思ってたけどやっぱいるトコにはいるんですね!

男の中にも信用できる人はいる!(確信
太郎
僕も3年忘れられずにひきづっていましたが
18年ですか
誰と出会っても比較してしまうんですよね
すぷ
他人とは思えません。
イタク感動しました
すわは 不覚にも、涙でちゃいました。(笑)

私、恋愛に関しては考え方がとてもドライで、
こんな風に人の話を聞いては感心してしまいます。
『どうしてそんなに1人の人をずっと思えるんだろう』って…。ずっと不思議だけど、
ずっと答えが出ないんですよね。(笑)

Cちゃんは本当にかわいそうだったと思いますけど、でもやっぱりしょうがなかったんですよね。
恋愛は2人が同じ気持ちでいないと成立しないものですから…。
私も同じようなことをした経験があります。

ただ私は、人生において恋愛はすべてじゃないけど、
とても良いものだし大切なものだと思っているので、
サムイさんにはもっとステキな恋愛をして、思い思われる幸せを感じて欲しいです。

When one door shuts, another door opens!
『一つの扉が閉まれば、もう一つの扉が開く』
ちぇり 切ない話ですね。涙出ちゃいました。

私も昔、、忘れられない恋がありましたなー。。
その人とは自然消滅してしまってね、今はもう吹っ切れてますが、
しばらくは他の人と付き合うことが出来なかったです。
カムイと同じように、他の人とその人を比べていた時期があって、
それで恋愛は出来なかったです。
カムイのように長くはなかったけど。
でも、カムイは偉いと思う。
そしてちゃんとカムイはCちゃんのことちゃんと思ってたよ。
ただ、リルさんと違う思いでCちゃんのこと思ったただけだよ。
Cちゃんにとってもカムイと出会えたことはいい事だったと思う。
その時は辛かったと思うけど。。

人との出会いって、どんな出会いだったとしても、人を少しずつ大きくしてくれるから。
私も少しずつ大きくなってると思う(笑)。。

いつまでも正直な純粋な気持ちをもったカムイでいて下さいね。

いい話聞かせてくれて有難うございます。(*- -)(*_ _)ペコリ
花音
好きな人が忘れられないその気持ち、よく分かります。
?(・・*)アタシも8年間、忘れられない人がいました。
カレを思っている間、別の人から告白される度に、
同じように切ない思いをしてもらってるのかと思うと、
断りきれず付き合ってしまっていたヒドイ女です。
付き合う度に自己嫌悪に陥っていた?(・・*)アタシですが、
同じことを何度も繰り返してしまいました。
カレを忘れるのに8年かかったわけですが、
今のダンナと出逢い、結婚してしまいました(笑)。
でも、やっぱり今もカレと会う勇気はないんです。
あー、カムイにつられて、
誰にも話したことないこと書いちゃった(笑)。
な〜ちゃん
花音、私もそういう経験あるよ。
好きな人には結局想いも伝えられなかったんだけどね(苦笑)
好きすぎて、私の想いが迷惑になったら悪くってさ。
で、他の人と付き合ってみても、やっぱしその人が好きだった。(今でも、もし・・・って考えちゃうよ)

って、ここは告白スレじゃないですね。。失礼しました!
カムイは、気持ち伝えられてよかったね。うらやましいよ。
まさみ 私もよまさせていただきました。
ものすごく泣きました。
カムイさんにそんな過去があったとは…
ってか、ほんと自分の恋愛が恋愛とよべないんじゃないか??
って思っちゃうぐらい情けないものです…。
なんか、ほんと勉強になったと思いました!!
LIME
カムイ・・・
どうも(o゜-゜o)ノ
読ませていただきましたよん☆
一途なんですねっ。
そういうのすごくいいと思う!
すごいいい恋愛ですよね!!
あたしもいい恋愛するぞっ☆
GO  馬鹿だよ、お前は。。





そして、、
カムイは、、
ピエールに生まれ変わった。。
好漢ピエールに、、
幸あれ。。



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