日本みたいになってしまうぞと英米の経済紙が警告

gooニュース・JAPANなニュース2009年10月28日(水)12:00

■本日の言葉「turning Japanese」(日本のようになる)■


英語メディアが日本をどう伝えているかご紹介するこの水曜コラム、今週は「みんな日本になるのを恐れている」という話題について。何がそんなに怖いのかというと、日本の失われた10年の二の舞を。よく言えば「歴史から学びましょう」ということなのですが…。(gooニュース 加藤祐子)

○日本みたいになってしまうぞ、とイギリスで

このところ英米両方のメディアで「日本になってしまうのかと心配だ」「日本と似ていて心配だ」という見出しをあちこちで目にしました。何事かと言うと、金融危機以降の各国中央銀行は資金の大量投入で景気刺激をねらったものの、それが実体経済の成長につながっていない懸念がある。それはまさにバブル崩壊後の日本の失われた10年に似てはいないか。とても心配だ——という論調です。

「今のイギリスは日本とよく似ていて気がかりだ(The UK has a‘disturbing parallel’ with Japan)」という見出しを付けたのは、27日付のフィナンシャル・タイムズ記者ブログ。何かというと、イングランド銀行(英中央銀行)金融政策委員会のアダム・ポーゼン委員が、そう発言したのだそうで(アダム・ポーゼンというと「日本経済の再挑戦」という著書で知られ、日本の金融危機に詳しいアメリカの著名エコノミスト)。

いわく、量的金融緩和政策(中央銀行による低金利の資金供給)が高インフレまたは持続的なインフレにつながるという証拠はない。懸念すべきは、インフレではないと。

量的緩和政策といえば、日銀が2001年3月から2006年3月まで実施していたものが代表的です。そして日本の金融政策を詳しく研究してきたポーゼン氏は、いま気にしなくてはならないのはインフレよりもむしろ、中小企業の資金不足だと指摘。量的緩和で供給した資金が、実体経済にまで下りていかないことが、何よりも問題だと警告しました。いよいよ景気回復の芽が出ても、その時点で中小企業に資金が回らなければ、せっかくの回復の芽が摘まれてしまう。これはまさに日本の「失われた10年」そのものだと。当時の日本と今のイギリスでは、異なる要素もあるので完全に同じは言えないが、少なくとも、いまのイギリスの金融業界の状況は1990年代半ばの日本とよく似ており、それがとても心配だと。

講演録(リンク先はPDFです)を読むと、「金融業以外の企業への資金提供について、英国と日本との気がかりな共通点(A disturbing parallel to Japan in UK funding of non-financial corporations)」という中見出しが太字になっています。いわく、金融再編で金融機関の数が減り、業績不振に苦しむ一握りの大手銀行しかいなくなった状態で、「too big to fail (破綻させるには大きすぎる)」銀行は生産性の薄いマネーゲームにばかり興じている。そのため、もっと資金を機動的に中小企業にもたらす仕組みがないと。イギリス金融業界のこの状況は、日本がせっかくの回復の兆しを活かすことができず、不況を長引かせてしまった1990年代半ばとよく似ていると。ゆえに、ともかく実体経済の成長を牽引する中小企業への資金提供が、スムースに行われるよう、金融制度の刷新が必要だ——というのが、ポーゼン氏のイギリスへの提言です。

「日本と共通点」という警告が効果的だったのか、経済紙ではないタブロイド紙のデイリー・メールもこれを取り上げました。「英国は『日本式の失われた10年』に直面している(UK is facing a 'Japan-style lost decade')」と見出しに掲げ、「機能不全に陥っているイギリスの金融システムには、日本の金融システムと『気がかりな共通点』があり、回復の兆しがあってもそれを脱線させていまうかもしれない」「20年近い経済停滞に苦しんだ日本と、共通点がいくつかあり、心配だ」とポーゼン委員が指摘したと紹介しています。

「20年近い経済停滞に苦しんだ日本と似ている」と言われてしまうと、イギリス人読者としては(日本のことをよく知らなければ尚更、日本を詳しく知っていればますますもって)、それはかなり気がかりなことと思います。

○日本みたいになってるぞ、とアメリカでも

イギリスでこういう発言が出たのと時期を同じくして、米ウォール・ストリート・ジャーナルでは26日付で、「アメリカ経済は日本式になりつつあるのか?(Is the U.S. Economy Turning Japanese?)」という見出しのオピニオン記事を掲載。香港拠点の投資グループ「CLSAキャピタル」の株式ストラテジスト、クリストファー・ウッド氏によるこの論説記事は、副題にやはり「FRBからのお手軽資金を得ても、銀行は消費者への資金提供を増やしていない」と、ポーゼン氏と同じようなことを言っています。

いわく、株式市場の世界では「Happy days are here again(幸せな日々が戻ってきた)」と。そして株価は上がり、投機的行動も戻ったが、その元手になっているのは安い米ドルで、消費と雇用が回復している証拠はほとんどない。米政府の市場介入もあり、「現在の米国経済は色々な意味で、1990年代日本のバブル後経済によく似ている。非常に緩和的な金融政策と低い信用需要が、高い失業率や、消費者のデレバレッジ(高リスクな債務を急いで手放すこと)と組み合わさると、景気不振の長期化につながることもある」と。

また米政府が「too big to fail (破綻させるには大きすぎる)」という理由で大手金融機関を公的資金で支えているのも、バブル後の日本で不良債権処理に何年もかかったことを連想させるし、同じように今また米国では、不動産市場の整理がなかなか進まないでいると。当時の日本同様、いまの米国では公的資金のおかげでマネタリーベースは急成長しているが、金融機関の貸出は減少。ゆえにアメリカはすでに、日本と同じような「流動性のわな」にはまっているおそれが強い。むしろFRBの量的緩和政策の恩恵を受けるのは、米国内ではなく、次に資産バブルが生まれるアジアの新興市場だろうと。

ちなみに、景気刺激策で市場投入した大量の公的資金が、超低金利ゆえに今や再び投機マネーと化して、実体経済に届かず、またしても市場価格ばかりが高騰しているのではないかという警告は、フィナンシャル・タイムズのジリアン・テット記者もこちらで発しています。恐ろしいことに、昨年秋の市場暴落は、次の大暴落の予行演習に過ぎなかったのではないかと。

○歴史からは学ぶべき

要するに米英の金融専門家たちが、今の状況はかつての日本みたいだぞ、気をつけろと口々に言っているわけです。日本についての報道というより、日本の「失われた10年」がどう米英で見られているかのご紹介でした。あるいは英米では、専門家以外はそんなによく知らない日本の経験について、詳しい人たちが「おい、この事例を見ろ。こんなことがあったんだから、参考にしようよ」と危機感を抱いて歯がみしている感じも伝わります。

アメリカでサブプライム・ローンによるバブルがはじけて信用収縮が起きたとき、日本の不動産バブルと同じじゃないかとあれだけ指摘されていたのに。そのバブル後の展開までもが日本と同じとあっては(そしてそれで、またしてもめぐりめぐって日本が被害をこうむるのでは)、日本が20年間も苦しんだ意味がありません。景気は循環するものなのだから。金融関係者には歴史から(しかもよその国の歴史からも)学んでもらいたいと、つくづく思います。
 


◇本日の言葉いろいろ

・turning〜 = 〜のようになる
lost decade=失われた10年
disturbing=気がかりな
too big to fail=破綻させるには大きすぎる

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「ニュースな英語」コラムの一覧はこちら

◇筆者について…加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。米大統領選コラム、「オバマのアメリカ」コラムフィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。

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