「川井憲次ナイトショウ」レポート
2003.03.15
左から、司会の桑島さん、押井監督、若林音響監督、西村監督、川井さん、千葉さん
行って参りました、新宿ロフトプラスワン「川井憲次ナイトショウ」! 会場は超満員。バンダイビジュアル桑島さんの司会でナイトショウは始まった――
第1部
順番にゲストを呼び、巨大な色紙にサインを書き入れていってもらうスタイル。この色紙は、第3部の質問コーナーに採用された方にプレゼントされる。
◆ゲスト1 V社のS氏

川井さんとは「コスモスピンクショック」で初めて仕事をしたが、アマチュアバンド時代にも大会で出会っていた。他の仕事は「人魚の森」「1ポンドの福音」「逮捕しちゃうぞ」など。

「コスモスピンクショック」について

S氏は阪神ファンだったため、挿入歌「アンドロメダおろし」が製作されることになる。この曲にはS氏や川井さんもコーラスで参加。

V社は川井さんのギャラを「うなぎ」で払ったこともあったらしい。

年賀状のやり取りもしている。“かもめーる”の余りを使用し、内容は「うんこ」などの単語を連発するだけのものが多い。

通常レコーディングの際は、曲の前に「M何番です」などのクレジットを録音する。川井さんはこのクレジットにコントを盛り込む遊びを導入。ミキサーのF氏をも巻き込んだコントは回を重ねる毎にグレードアップし、曲の長さよりも長くなっていった。さらには曲をまたがっての連作という膨大なものにまで発展したが、その内容と言えば実にくだらないものだった(良い意味で)。

・クレジットコントの一部が流れる

川井“コンコンコン”(マイクを叩いてノック音を再現)
F氏「入ってます」
川井「うわっ、臭いなー。うんこですか?」
F氏「うんこじゃない!」
川井「うんこでしょう?」
F氏「うんこじゃない!!」
川井「じゃあ、M39でしょう?」

(おおむねこんな感じ)

このコントシリーズはくだらなさの中にもこだわりがあり、すべてマイク一本の一発録りがモットーだった。このコントのネタを考えるために徹夜することもしばしばとか。

「ダイ・ガード」は田中公平氏との共同作業だったが、打ち合わせは一瞬で終わったという。

田中「ここと、ここと、このカッコイイとこ、オレやる。ケンちゃん悪役の曲ね」

川井「はい」

最後にS氏は巨大色紙に「うんこ」のサインを残して、別会場で行なわれている「ガオガイガー」完結打ち上げ会へと旅立っていった。

※補足 「いけいけケンちゃん」(作詞:とまとあき 作曲:田中公平)という曲があるらしい。

◆ゲスト2 三ツ矢雄二

ポニーキャニオンから出たCDのバックバンドや芝居の劇伴をやってもらっていた。川井さんは三ツ矢さんの仕事をきっかけに、次々と業界の仕事をこなしていくことになる。そんな川井さんを見て三矢さんは、

「ああ、俺の川井さんが……! もう別の人のモノになってしまったのネ!」

当時の三ツ矢雄二写真集(ヌード含む)が登場。“友達と撮ろう”のコーナーでは、若かりし川井さんとも撮影。

6月14日土曜から、東京芸術劇場で「Mother」再演。当時の曲+新曲あり。

川井さんは当時、キングレコードの社歌も作ったらしい。その一部を三ツ矢さんが歌って再現。「きんきんきんぽこきんぐれこ〜ど♪」

三ツ矢さんのビデオ「モアイの告白」(1984)の劇伴を担当

川井「懐かしいですね」
三ツ矢「俺、あのビデオ持ってますよ。βですけど」

三ツ矢さんは芝居の劇伴をお願いする時、振り付けに合わせての曲発注などもしている。

終始三ツ矢さんがマシンガンのように喋る。川井さんも桑島さんもほとんど喋れなかった。

最後は写真集にもサインを残し、プレゼントに加える。

◆ゲスト3 千葉繁

声優として以外に川井さんとは「デビルマン」「御先祖様万々歳!」「不帰の迷宮」などで音響監督として仕事をした。

千葉さんが川井さんに発注する音楽メニュー(作って欲しい曲の依頼書)は独特で、

「ケツから聴くような曲」
「ケツから松茸」
「鎖骨が震えるような曲」
「今夜は未亡人」
「脳みそからウジが湧く」
「肛門からキノコ」

など、謎の言葉のオンパレード。千葉さん曰く「この音楽メニューで曲が創れる川井さんは天才だ」。

「御先祖様〜」の録音は都立大にある3畳のスタジオで録音された。タバコを吸うと酸欠になり、時々川井さんは帰らぬ人になっていたという。

千葉さん曰く、「不帰の迷宮」では永井一郎さんに歌ってもらいたかったとのこと。

川井さんはスタジオで浴衣を着ている。浴衣はヒモだけでなく、ガムテープでも止めてあった。

川井さん曰く「ガムテープで止めないと、気付いたらヒモだけになってることがあるので」

川井さんはここで一時退場し、休憩時間に。

第2部
押井守、若林和弘、西村純二が登場。この3人は川井さんの麻雀仲間。ここで押井さんが開けようとしたお酒の瓶の炭酸が破裂するハプニング。色紙にも被害が及ぶ。

◆押井守

川井さんと初めて出会った印象は「ホントにコイツで大丈夫かな?」。しかし外見の印象と曲のギャップに驚く。「音楽=その人の人格ではない」と思った。「音楽をやる人間は不謹慎でなければならない」。

川井さんの音楽は値段じゃない。音楽はその場のノリ、そこに居た人間などで変わってしまう。仕事以外の付き合いが重要。その作品に至るまでの付き合いの延長線上。

「ミニパト」の「涙の高速艇、出漁す」は、最初「軍艦マーチ」をイメージしていた。しかし実際に川井さんが作って来たのは全然違うイメージで、途中で演歌に移行する曲だった。初披露の日は皆その事実を知らず、川井さんがひとりほくそ笑んでいたと言う。結果は大ウケ、見事採用となる。

◆若林和弘

「ブルーシード」から川井さんと仕事。川井さんには「ギャグ」「シリアス」などの度合いをパーセンテージで表記した独自の音楽メニューを作って発注している。川井さんにはどんな仕事をまわしても大丈夫。どんな曲でもそこに必ず「川井憲次」が居るから。

・若林さんのリクエストで「おいら宇宙の探鉱夫」のクレジットコントが流れる。「超能力ネタ」が延々続く。内容はF氏が延々う〜んう〜んと唸っているだけ。「瞬間移動」ネタでは、スピーカーのLからRに声が移動するだけ。

◆西村純二

「らんま1/2熱闘編」で初仕事。「紅い眼鏡」のヘリのシーンを観て「カッコイイ曲だなー」「押井さん、いーなー」と思っていた。自分が映画を撮るなら絶対川井さんにお願いするつもりだった。「逮捕しちゃうぞ 劇場版」でそれが実現。西村さん曰く、「逮捕」の曲は「眼鏡」の曲よりカッコイイと思っている、とのこと。

「逮捕」のサントラ未収録曲が流れる「さくらばし破壊」のシーンは、公開一ヶ月前の試写会の時、曲が入っていなかった。試写会終了後に「このシーン寂しいね」「曲、創りましょうか?」のひとことで製作が決定。

結論:「麻雀はやっておくものだ」。


川井さんと千葉さんが舞台に復帰。麻雀の話で盛り上がる(ちなみに千葉さんは麻雀をやらない)。観客席最前列に居た高田明美が舞台上に上がるよう誘われる。川井さんがそれぞれのゲストについてコメント。


◆押井さんについて

麻雀での大人気ない鬼気迫る姿が印象的。

「Avalon」の曲の発注のときのエピソード。「10分の曲創って」「絵はどんなんですか?」「これから撮る」。

(押井さん曰く、「川井くんは絵が無いと曲が書けないのは知っていたが、一度川井くんの書いた曲から絵を創ってみたかった」)

押井さんの最新作「KILLERS」は6月中旬公開。本編は18分なので2曲創ってと言われた。しかしそのうちの1曲は16分だった。Macのデジタルパフォーマで一から創った最初の作品がコレ。

◆若林さんについて

もっとも信頼置ける音響監督
メニューがわかりやすい
(千葉さんが「すいません」とツッコミ)

◆西村さんについて

西村さんの作る絵は情緒がある。曲を創っていて楽しかった。

曲発注の音楽メニューには擬音しか書いていない。 「ここはドドーン」「ここはガガーン」とか。

「西村さん、さっきの逮捕しちゃうぞ未収録曲の分の“うなぎ”、未払いですよ(笑)」


桑島さんが中田秀夫監督について解説。川井さんが中田さんについてコメント。


◆中田さんについて

最初は「いかつい人」「コワイ監督」と思った。しかし福井さんがギャグを言った時、密かに笑っていたのを見て「いい感じの人だな」と思った。中田さんは時々ギャグを言うが、気付いてもらえなくて、「今、僕はギャグを言ったんですけど」と自己アピールしていた。ギャグのネタは家で考えてくるらしい。


押井さんは中田監督や他の監督の川井作品もチェックしている。

押井「しかし自分の作品に勝っている曲はない」
押井「川井くんは仕事を選んだ方がいい」
川井「だって仕事受ける前に絵は観られないじゃないですか」
押井「タイトルやにおいでわかるでしょ? 限りある資源は僕のために使いなさい」

 

第3部
会場に配られたアンケートをもとにした川井さんへの質問コーナー。
◆面白い文章は天然ですか?

『どうせ書くならリズムがあったほうがいいなと思って書いています』

桑島さんから「川井さんが文章を書くのは毎回とても苦労していると聞きました」とフォローが入る。

◆コンサートはやらないのですか?
『ライブをやるには、まず何を演るのか決めるのが大変。楽器構成も大変な人数になってしまいます。「攻殻」の曲だけとかいう風に絞ればできるかもしれないですね。みなさんが望むなら考えていきたいです』
◆お祭りについて語ってください。曲への影響はありますか?
◆体重は何キロですか?
『体重は68キロです。お祭りは“懐かしい気持ち”を確認するために行っています。自分の中の情緒を満足させるためです。仕事への影響というのはとくにありません。スケジュールに影響することはありますが……』
◆作曲の時に使う楽器は?
『ふつうのシンセです。エレピを弾きながら作曲しています。他の楽器はめったに使わないですね。メロは歌や口笛で創っています』
◆今までに使った大変な楽器は?
『「攻殻機動隊」の時のベンベンベンっていう弦楽器です。演奏しているとシャツが擦れる音が入るので、シャツを脱いで演奏しました。でもまだ何か擦れる音が入る。だからズボンも脱いでパンツいっちょで演奏しました』
シークレット・ゲスト

井上喜久子さん登場。会場から「お姉ちゃん」コールが起こる。

川井さんとは「らんま1/2」で初仕事。1st.アルバムは川井さんが作編曲を手掛けた。2nd.からは井上さんの作詞作曲で、川井さんは編曲のみ。井上さん曰く、「歌詞とメロディーが一緒になって出てきてしまうので、申し訳ないと思いながらもそのまま川井さんに渡しています。カセットレコーダーを持ち歩いていて、曲が浮かんだらその場で録音していて、そのテープをそのまま川井さんに渡しています」。川井さん曰く、「井上さんのテープを聴くと、録音された場所の背景の音も聞こえてくるんですよ。あ、今自動車が後ろを通ったなとか、あ、駅のホームに居るのかな、このモーター音は京急かな、とか……。一つ困るのが、歌っている曲のコードがどんどん下がってくることですね。曲の最後には最初と半音くらいずれていることが多いです」。

せっかくなので監督の西村さん、サスケ役の千葉さんを舞台に呼び、しばらくは「らんま」の思い出話しに花が咲く。

「らんま」で一番有名な川井さんの曲、某昼の番組でサイコロを振る時の音楽にずっと流用されていた「予告編音楽」のエピソードを披露。

川井「すべての曲を録り終えて機材を片づけをしようとしていたんですけど、ふと『主題歌のアレンジ曲は必要ないんですか?』と質問したら、『要ります!』との一言で録音が決定しました。で、僕がその場でピアノを弾いてパッと録音したんです」

そして第1部のゲストの三ツ矢さんが東風先生役だったことを思い出した川井さんが井上さんに三ツ矢さんの写真集を広げて見せる。三ツ矢さんのヌードを見た井上さんが悲鳴をあげる。

ふたたび今までのゲストを呼び戻し(愛犬のために帰宅した押井さん、三ツ矢さんは除く)、皆が一言ずつ挨拶。

そしてプレゼント抽選会。川井さんが抽選券を引き、サイン色紙と写真集がそれぞれ当選者に手渡された。

最後は、

「今日はありがとうございました。トークショウは初めてで、何をやったらいいのかわかりませんでした。ゲストの話に相槌を打つくらいしかできなくて……。でもまた機会があったらこういったイベントをやっていきたいと思います」

という川井さんの挨拶で幕を閉じた。

これがゲストのサインでうめ尽くされた巨大色紙
ちなみに今回集まった「川井憲次メーリングリストメンバー」は、会場で合流した方を合わせて12名。静岡や仙台から駆け付けたファンも。23時過ぎにナイトショウは終了したが、その後も7名が残り、24時間営業のファミレスへ移動。翌朝10時まで、好きなサントラ、好きな作品、音響の話、コード進行のパターンについて、コピーバンドやろうか等々、暑く語り合ったのだった(笑)。

【個人的雑感】

念願の川井さん単独イベント! 軽く100人は集まったように見えました。こんなにもたくさんのファンと同じ時を共有できたのは嬉しかったですね。

豪華ゲストの面々も素晴らしいのひとこと。自分が川井さんのファンになって16年になりますが、その「川井ワールド」を形成してきたスタッフが一堂に介したのを見るのは爽快でしたね。この一癖も二癖もあるゲスト陣をまとめあげた司会の桑島さんの力量も相当なものです。そして川井さんの楽しい裏話の数々、高田明美さんの鋭いツッコミ……。内容がヤバくてこのレポには自粛して書かなかったこともあります。

貴重な映像や音源を視聴できたのもよかったですね。とくに「クレジット・コント」には、腹がよじれました。

なんにせよ、川井さん、スタッフのみなさん、お疲れ様でした! 楽しいひとときをありがとうござました。千葉さんもおっしゃっていましたが、こちらとしても今回のようなイベントだったら、毎月でも大歓迎です。あとは「攻殻2」公開に合わせて「攻殻ライブ」が実現すればいーなー、と思います。