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この件は、前にも述べた。(理由の説明。)
→ 簡易検査はやめよ
詳しい話は上記にある。要するに、簡易検査をすれば、それだけ薬の処方が遅れる。そのせいで、重症化して、死者が出やすくなる。だから、インフルエンザの患者には、簡易検査をするべきではない、ということだ。
そもそも、タミフル・リレンザは、発症後 48時間以内の処方が推奨されている。なのに、簡易検査をして、わざわざ時間を遅らせるのでは、とんでもない。
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これで話は片付いたと思ったのだが、現状では、簡易検査が延々と続けられている。朝日新聞・投書欄 2009-10-27 にも、困った患者の例があった。
子供に高熱が出て、受診したが、診察拒否みたいな状態になってしまった。というのは、発熱直後では、簡易検査の信頼度が低い。そこで、もっと熱が出てから来い、と追い返された。しかし、翌日は休日で、翌々日も休日だ。(連休だ。)仕方なく連休でも働いている救急病院に行ったが、患者は既往歴があるので、救急医療の対象とはならない。ここでも追い返された。というわけで、三日ぐらい診察を受けられなかった。
この患者は、三日もたったのだから、たぶん、解熱しかかっていて、もはや治療の必要はなくなっているはずだ。ただし、もし重症化している場合だと、手遅れになる危険がある。
つまり、こういう状況が、いまだに延々と続いているわけだ。簡易検査を名分とした治療拒否。(やっている医者はそれが正当な医療だと思い込んでいるが。)
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そもそも、簡易検査というのは、まったく必要性がない。
・ 発熱直後には、陽性の反応が出ない。(無効)
・ たとえ陰性でも、本当は感染している可能性が、かなりある。
・ A型か否かを判定する必要はない。(B型でも話は同じ。)
・ A型だとしても、季節性インフルエンザ(タミフル耐性)かもしれない。
・ 検査をすることで、余分なコストが大幅に上昇する。
要するに、簡易検査をする意味は、何もない。
・ 検査で陽性ならば → 抗インフルエンザ薬の投与
・ 検査で陰性ならば → 抗インフルエンザ薬の投与
(様子見、は間違い。)
つまり、どっちみち、「抗インフルエンザ薬の投与」である。投与するか否かは、患者の症状によってのみ決まり、簡易検査の結果には左右されない。
したがって、簡易検査をしてもしなくても、結果は同じなのだ。簡易検査をすることには、まったく意味がないのだ。
( ※ ただ一つ意味があるのは、医者が余計な検査をして、診療報酬を稼ぐことだけだ。……これが本音かな。)
──
とにかく、簡易検査には、メリットが何もない。それでいて、「治療が遅れて重症化の危険」というデメリットは、確実にある。だから、簡易検査をするべきではないのだ。
この件は、アメリカではすでに周知されているようだ。NHKの番組のまとめ記事を紹介しよう。
番組では、そのきっかけとなったアメリカの症例が紹介されていました。──
その患者さんは1週間ほど高熱が続いたため病院を受診したけれど、このときの検査では新型インフルエンザは陰性という結果が出たそうです。エックス線では軽い肺炎の症状が見られたものの、命にかかわるものではないと診断されていました。
が、その後急激に肺の機能が低下。エックス線でも肺のほとんどが肺炎の状態になっていたので、再度詳しく検査したところ、肺の奥の組織に新型インフルエンザが発見されたそうです。
このことから、「検査の結果を待っていたのでは手遅れになるケースがある」ということで、対応マニュアルが修正されたそうです。
これは今回の新型インフルエンザに特徴的なことと言えるようです。
通常の季節性インフルエンザでは気管支で増殖して症状が出ることが多いのですが、新型インフルエンザは肺の中まで到達し、そこで増殖するケースがあるため重症化することがあり、その分、診断も難しくなるということのようです。
( → 紹介 )
このことが理解されているので、アメリカではまともになっている。一方、日本ではダメだ……と書こうとしたのだが、実は、日本でも、政府は正しい方針を(一応)示している。9月10日付の事務連絡には、こうある。
簡易迅速検査やPCR検査の実施は必要でなく、つまり、厚労省は、「簡易検査は必要ない」とはっきり明示しているのだ。なのに、一般の病院は、それを無視している。どうなっているのか?
……
医師が抗インフルエンザ薬による治療の開始が必要と認める場合には、治療にあたって簡易迅速検査やPCR検査の実施は必須でないこと。
( → 転載ブログ )
( ※ ただし、上記の事務連絡は「保健所」宛てであり、「一般の病院」向けではない。だから病院が知らなくても不思議ではない。……とするとやはり、厚労省に責任があるのかも。)
実を言うと、厚労省は、「簡易検査をするべし」という方針を前に示したことがある。
→ 豚インフルエンザの診断手順公表/厚労省
しかしこれは、4月の話だ。しかも話題は、「豚インフルエンザの診断手順」である。「豚インフルエンザかどうかを診断する」ための手順であって、最終的には PCR 検査による確認を必要とする。
これはあくまで、豚インフルエンザを確認・調査するための手順だ。以前は「調査」が目的だったから、それでいい。(簡易検査と PCR 検査をしてもいい。)
しかし、「調査」が目的の手順を、「治療」のための手順にまで持ち込んでしまったのが、誤りだ。
また、手順の前半だけをつまみ食いする、というのも、誤りだ。どうせ検査ならば、きちんと PCR 検査まで持ち込むべきだ。(ただしその間、治療をしなくてもいい、ということにはならない。)
──
まとめ。
簡易検査は必要ない。というか、してはならない。簡易検査をするせいで、処置が遅れて、患者が重症化して、命が奪われる可能性がある。ワクチン接種によって救われる命の数よりは、簡易検査によって重症化する命の数の方が多くなりそうだ。
実際、これまで報道された死者の例では、簡易検査をされたせいで治療が遅れたことが、死亡の要因だ、と思える例が多い。(後述。)
医者が間違った診療方針を取っていることが、死者増加の最大の理由だ。政府・マスコミは、この件をきちんと広報するべきだ。
マスコミは、「豚インフルエンザは怖い、怖い」と報道しているが、本当は、怖いのは、豚インフルエンザじゃなくて、医者の無知なのだ。医者の無知(および誤った治療)が人を殺す。
[ 付記1 ]
日本における死者の大半は、簡易検査をしたことで治療が遅れたことが、理由であるようだ。実例としての死亡の例は、次に記してある。(「簡易検査」という語句で検索するとわかる。)
→ 9月以降の死者の死亡経緯
→ 10月の死者の例(21人目)
→ 39度7分でも抗インフルエンザ薬を与えられずに死んだ例
→ 3回も簡易検査をして薬を与えられずに死んだ例
※ 早期に治療しても死んだ例も、もちろん多いが、治療を受けなかった
例も、とにかく多い。本当は、そういうことはあってはならないのだが。
[ 付記2 ]
感染症学会は、緊急提言で、「早期治療が重要」と述べた。
→ 日本感染症学会緊急提言
しかし、ここでは、肝心の言葉が抜けている。
「簡易検査は不要である」
という一文が。……この一文がなくては、提言はまったくの尻抜けだ。いくら早期治療をしたくても、簡易検査をしていたのでは、簡易検査が有効になるまで(つまりウイルスが増殖するまで)治療はできないことになる。だから、正しくは、
「簡易検査をしないですぐさま治療せよ」
ということだった。しかし、感染症学会は、単に「早期治療を」とだけ唱えた。かくて、その言葉は、有名無実と化した。尻抜けの提言。(抜けているのは、尻でなく、間かも。 (^^); )
[ 付記3 ]
厚労省の事務連絡を引用する形で、簡易迅速検査を「必要なし」「必須でない」と書く関係者もいる。
→ 和歌山市感染症情報センター
しかし、「必要なし」でなく、「してはならない」というのが、私の見解だ。関係者も、その旨を周知徹底してもらいたいものだ。
[ 付記4 ]
高熱を発した子供にタミフルの処方を頼んだら、医者に断固拒否された体験談がある。
「そういう決まりなのでだめです。とかく規則をやぶると、あとでいけないことがおこるんですよね〜」
ありもしない規則を盾に、断固、治療拒否する話。なかなか面白い。
→ 体験談
被害を受けたすえの結論は、こうだ。
「みなさんも今後に備えて、プリントアウトしておいたほうがいいですよ」
なるほど。馬鹿な医者から身を守るために、理論武装するわけだ。
→ 厚労省の事務連絡(PDF。 1頁)
昔、「ベンチがアホやから、野球がでけへん」と言った投手がいた。今や患者は、「医者がアホやから……」と思っているのだろう。ともあれ、アホな医者に対抗して、正しい治療法を教えてあげましょう。
[ 補足 ]
「もし患者が(インフルエンザでなく)普通感冒だったら?」
という疑問が湧くかもしれないが、別に問題ない。
( ※ 以下の説明は、細かな話なので、特に読まなくてもよい。)
第1に、もし普通感冒にタミフルが有効であるなら、ちゃんと有効な薬を処方した(治癒効果が出た)のだから、それは正当な医療行為である。(別に目的外使用ということにもならない。検査していない以上、普通感冒かどうか判明していないのだから。)
第2に、もし普通感冒にタミフルが無効であるなら、メリットはないが、デメリットも生じない。つまり、「乱用しすぎたせいで、普通感冒のウイルスがタミフルに耐性をもち、危険化する」という、乱用の弊害は起こらない。なぜなら、もともと薬剤が無効であるのだから、もともとウイルスは薬剤に耐性があるからだ。
第3に、(簡易検査を受けないせいで)誤診があっても、別に問題はない。誤診があるということは、普通感冒をインフルエンザだと誤診したということだが、この場合は、「重い病気を軽い病気だと誤診した」のではなく、「軽い病気を重い病気だと誤診した」ことになるので、有害性はない。普通感冒ならば、特に処置をしないで、そのまま帰宅させるのが普通だ。そのかわりに、タミフルを誤って処方したとしても、特に問題はない。(せいぜい薬の副作用があるぐらいで、生命にかかわるような有害性はない。)
つまり、有効または無効であることはあっても、有害であることはない。ゆえに、普通感冒かもしれない患者に、タミフルを誤って処方しても、特に問題はない。
一方、普通感冒だかインフルエンザだかわからない患者に、簡易検査をすることは、明白な有害性がある。「処置が遅れて重症化させる」という有害性が。それは人の命にかかわる有害性だ。最悪の有害性。
医者が「間違いのない処置をしよう」と心がける結果、処置が遅れて、患者が死んでいく。だから、はっきり言っておこう。「簡易検査をする医者は、ヤブ医者だ」と。
彼らの方針は、こうだ。── 「検査は成功しました、患者は死にました」。
( ※ 本サイトをずっと読んでいる医者ならば、そんな馬鹿なことはしないでしょう。)
※ 以下は、はてなから飛んできた読者向け。
【 追記 】
> そんな馬鹿なことはしないでしょう。
と上で書いたが、さっそく、馬鹿なことを主張する医者が現れた。(出典は Google で)
簡易検査は必要ないのではなく、感度・特異度を理解の上に使うべき、というのが正しい。南堂氏には理解できないだろうが。そういう主張はあってもいいが、それはあくまで厚労省や米国医学界の方針に反する、個人的な独自の見解だ、ということをわきまえるべきだ。
だいたい、批判する相手を、間違えている。批判をするなら、同じこと(簡易検査は必要ないこと)を言っている厚労省や米国医学界に向かって批判するべきだ。「厚労省や米国医学界はトンデモだ」と語ることで、自分自身のトンデモ性を明らかにするといい。
まったく、自分が何を言っているのか、わかっているんですかね? 例によって誤読ばかりしているのか?
( ※ なお、この医者は内科医だという。あなたが患者としてこの医者にかかったら、「簡易検査が必要だ。簡易検査ができるように、ひどく高熱が出るまで待ちなさい」と言われて、処置されることなく、追い返されるだろう。先の投書欄の被害者のように。……だから、あなたが死にたくなければ、この医者にはかからない方がいい。というのは、この医者は遅かれ早かれ、患者を簡易検査によって死なせるからだ。)
【 参考 】
英文へのリンクを示しておこう。米国での公的見解がある。「簡易検査は不必要だ」という趣旨。
→ Testing For H1N1 Influenza Unnecessary
→ What to Expect From H1N1 Swine Flu Testing
→ 他のサイト(検索)
《 オマケ 》
上で米国の公的見解を紹介したのだから、さすがにわかるだろうと思ったが、上記の医者はわからないようだ。いまだに自説は正しいと言い張っている。もしかして、英語が読めないのかな? (^^);
どうしても自説にこだわりたいのであれば、「簡易検査は必要だ」と述べることの根拠を示せばいいのだが、それもできない。また、米国や厚労省を批判すればいいのだが、それもできない。単に個人の悪口を言うだけだ。悪口だけがあって、論拠ゼロ。
ま、論拠も示さずに悪口だけを言う、というのが、トンデモ医者の特徴だから、それも仕方ないのかも。自説を守るために患者を殺すトンデモ医者なんか、相手にするべきではないのかもね。
《 解説 》
実は、上記のトンデモ医者がどうして勘違いしているかは、私は前からわかっている。教科書の誤読だ。一般に、教科書にはこう書いてある。
「検査薬は、感度・特異度を理解の上に使うべきです」
これは、
「使うときには感度・特異度を理解するべきです」
という意味に解釈するのが正しい。ただし、これを、
「検査薬は、使う必要がなくても、感度・特異度を理解の上で使うべきです」
と誤読する人がいる。例のトンデモ医者は、そういう誤読をしているわけだ。「理解するべき」と解釈するべきところを、「使うべき」と誤読しているわけ。かくて「使うべき」というトンデモな結論を出す。
《 一般論 》
なお、一般論で言えば、次のように言える。
「特異度の低い検査薬は、それなりに使い道があるが、感度が著しく低い検査薬は、使い道がない」
インフルエンザで言えば、発症初期には感度が著しく低い。感染していても、陰性になるのが普通だ。このような検査薬は、ほとんど意味がないのだ。
なお、感度が低くても使い道があるという例外は、次の場合だ。
「症状がない場合」
つまり、外から見て感染しているかどうかわからなければ、(いくら感度が低くても)検査薬に頼るしかない。しかし、インフルエンザの場合には、初期のうちからかなりはっきりと症状が出ている。ここでは、「明白な症状があるのに、検査薬は陰性になる」というほど、著しく感度が低い。
症状の方が検査薬よりもよほど明白な識別法となる。感度も特異度も、はるかに上だ。とすれば、症状という明白な識別法を取るべきであり、感度の低い検査薬を取るべきではないのだ。
「感度も特異度もはるかに優れた方法(症状からの判断)よりも、感度の著しく劣る簡易検査の方を取る」
というような医者は、殺人医師といわれても仕方ないのだ。何しろ、その方針ゆえに、患者を死なせるのだから。
( ※ 現在の簡易検査薬は、あまりにも精度が低いので、発症初期ではほとんど「迷信」の域にある。とうてい近代科学のレベルにはなっていない。これは科学の装いをした迷信にすぎない。「ニセ科学」と言ってもいい。こういう「ニセ科学」を信じるような医者は、トンデモ医者と言えるだろう。)
( ※ ついでだが、ヤマカンで判断すれば、的中率は 50%である。しかし簡易検査薬で初期の患者を検査すると、的中率は 30%ぐらいだ。ヤマカンよりも低い。何もわからないよりも、もっと悪い。簡易検査薬は嘘をつく。)
《 余談 》
ついでだが、医者が簡易検査をしてもいい場合が、一つだけある。それは、ヤブ医者の場合だ。ヤブ医者は、患者を診ても、正しく診断できない。患者が高熱を出して、扁桃腺が腫れて、鼻がつまっていて、ゴホゴホと咳をしても、そういう症状から「インフルエンザの疑いが強い」と判断できない。それほど判断力のないヤブ医者であれば、検査薬に頼るしかないだろう。……その意味で、ヤブ医者にとっては、
「簡易検査は必要だ」
というのは正しい。少なくとも、ヤブ医者にとっては。
というわけで、上記のトンデモ医者は、「簡易検査は必要だ」と語ることによって、自分の能力がどのレベルであるかを、告白したことになる。
ただし当面、研究者向けの販売のみ。一般向け販売は来春。
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20091027AT1D2707H27102009.html