09 - 25 - 2009

「同じレース一つもない」飛行機パイロット・トニー比嘉 〜誰よりも早く飛びたい〜

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tony.jpg (写真左から)複葉機部門に出場した「タンゴタンゴ」/トニー比嘉さん

 世界最大規模の飛行機レース、リノ・エアレースに日本人パイロットとして唯一出場。愛機、タンゴタンゴ(複葉機ピッツ)が翼を休めるハンガー(格納庫)には、ひっきりなしにファンが足を運び、声を掛けていく。ほんの10分前には複葉機部門の決勝を戦っていたとは思えぬほどの穏やかな笑顔と人なつこい語り口で一人一人の質問に丁寧に答える。
 7度目の出場となった今回は、直前まで新しいプロペラのテスト飛行をしていたため会場入りが遅れ、練習飛行の前日、当地に到着とあわただしかった。疲労が蓄積していたたが、「仲間とも会えて、元気が出た」といい、最終レースを終えたこの日も、「逆に元気が残っていて、まだできる」と笑う。
 レースは命の危険がつきまとうバトル。いっしょに飛ぶライバルたち、天気、風、飛行条件は毎回違い、「まったく同じレースは一つもない」という。
 「一番タフなのは、(会場の)スタッドエアポートは、コースの中のいろんな場所で風の強さ、方向が違うところ」
 厳しい条件の中で、パイロットは最速のスピードを出すために全力を注ぐ。特に操縦するピッツは60年代に活躍した機種で、操縦にはさざまな苦労も伴う。スロットルとミクスチャー(燃料レバー)でエンジンのフルパワーを出すために常に調節する必要がある。同時に肉眼で目前の状況、順位、前方をいく飛行機の乱流、そしてコースを規定しているパイロンに気を配りながら先の先を読み、操縦桿を操り、動きを判断する。技術と経験はもちろん、勘が要求される。
 「音、バイブレーションを身体で感じながら、1ミリ単位で燃料を送ったり、引いたりしていいところを探す。でも効果はすぐには表れない。コース上で一番スピードが出るところにきて、さっきのアジャストメントがよかったと分かる」
 ベテランでも失敗することがあり、失敗すれば急激にスピードは落ちるという無情な世界だ。
 1979年に初めて見たリノ・エアレースに心を奪われ、25年後に夢を実現した。
 「あこがれ。見てしまった以上はこの世界に入りたい思い。どうしてもそれを変えることはできなかった。あこがれを現実にしたいという気持ちが強かったんですね」。そして夢を実現した今、「誰よりも速く飛びたい」という思いがタンゴタンゴをさらに加速させる。
 そんな勇姿にあこがれるファンが現地はもちろん、日本からも応援に訪れる。強い思いを秘めて大空で戦うパイロットと愛機、タンゴタンゴの周囲にはいつも人がいる。       
(田中真太郎)

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