トニー比嘉さんインタビュー 大空のレースに挑む
Posted in—いつごろから、また、どんなきっかけで、エアロバティック(曲芸飛行)をやりたいと思い始めたのですか
私が小学校5、6年生のころ、沖縄ではさまざまな航空機(民間やミリタリーなど)が上空を飛び、それらを見る機会が多くありました。「どうしてあんなものが飛ぶのだろう」「飛ぶことは気持ちいいだろうな」と興味を持ち、私なりにその世界について勉強し始めました。
そして、模型飛行機を作ることも、飛ぶことができる身近な物として真剣に取り組みました。その過程で、大空を自由自在に飛ぶことができるエアロバティック飛行を知り、世界選手権の存在も知りました。自分の好きなように飛行機を操り、大空を飛ぶことは、まさしく究極のパイロットになるということだろうと思いました。
沖縄の白い砂浜、白い雲、コバルトブルーの海、そして手が届きそうで届かない青い深い空を、キャンパスにして飛べたらどんなに痛快で愉快なことかと、心がときめき、夢がどんどん膨らんでいったのです
—愛機「Tango Tango」もそうですが、「ピッツ/Pitts」という複葉機について、どんな特徴があるのか、簡単に教えてください。
ピッツは1960年代から70年代半ばまでは世界選手権クラスのエアロバティック競技会で活躍していました。現在では競技用機としてはトップクラスでの活躍は難しくなっていますが、複葉機独特の見た目のかわいさから、今でも根強いファンがいます。
最新鋭の単葉のエアロバティック機と比べ、翼が2枚あるので空気抵抗が大きく、加速性が悪いのです。また、上下に翼があるために視界が著しく悪くパイロットに高い操縦技術が求められます。特にランディングは、前方が見えないためとても気を使います。レースでは、ほかの飛行機の位置を確認するのが非常に難しいです
—「Tango-Tango」に、毎年、改造を施されていますが、今年はどの部分が改良されたのでしょうか
必ずしも毎年改造しなければならないことはないのですが、これまでは昨年を除いて、何らかの改造を施してきました。ただ、改造については事前に公開しないことにしています。リノに来てくださるファンの方へのお楽しみです。予定していた改造を直前で取りやめることもあるので。
ただ今年は、エンジン、プロペラ、機体においてそれぞれに改造をしているということをお知らせしておきます
—レースに出場するにあたり、どんな意気込みで臨んでいるのですか
とにかく安全第一です。決して無理はしません。そのうえで、これまでよりも少しでも速く飛ぶことを毎年の目標としています。ですから、私にとってはクオリファイのタイムがとても重要です。レースでは、先行機を常に抜くという姿勢で臨んでいます。そして、もちろん、楽しむことです。
—今回で、7度目の出場ですが、慣れはありますか、また毎回違うことは何かありますか
確かにレースの手順など慣れる部分もありますが、これまで全く同じレースはひとつとしてありませんでした。風や気温などの自然環境や一緒にレースするパイロットたち、そして自分の乗っている機体も、全く同じ状態ということはあり得ません。それだからこそ、毎年、毎レースを楽しむことができるのです
—レースの見どころを教えてください
バイプレーンクラスは、機体は小さいのですが接近戦が多く見れます。ライバルとの機体間隔も時にはわずか数メートルになることもあります。ですから、パイロットの高い操縦技術に加え、パイロット同士の信頼関係も非常に重要な要素となります。
また、ヒート1、ヒート2、ファイナルと3回のレースで順位が決定しますから私の場合、ヒート1、ヒート2でなかなか抜けなかった先行機を、ファイナルのラストラップで抜く、というような、思わず大声援のレース展開が多いのです。ファンの方には毎年楽しんでいただいているようです。
リノ・エアレースとしては、世界最速のモータースポーツであるアンリミテッドクラスが何といっても一番の見どころです。地上15メートルを時速500マイルで競う迫力のレースです。
(聞き手・田中真太郎)