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きょうの社説 2009年10月30日
◎トキの分散飼育 繁殖担う期待に応えたい
トキの来年の繁殖計画は、いしかわ動物園の2ペア4羽を含む21ペア態勢で取り組む
ことが専門家検討会で決まった。いしかわ動物園には年内にも佐渡から移送され、いったん絶滅したトキを野生化する国家プロジェクトの一翼を担うことになる。すでに繁殖実績のある佐渡や多摩動物公園(東京)とともに、全国的な関心が石川にも注がれることは間違いないだろう。それだけにプロジェクトに水を差すような失敗はできない。分散飼育は鳥インフルエンザなどによる再絶滅のリスクを回避するのが目的だが、多摩 動物公園と異なるのは、石川県では能登半島で生息していたトキが再び空に舞うという将来の大きな夢がその先に存在することである。 佐渡で昨年放鳥されたトキは本州にも定着し、この9月に2次放鳥が行われた20羽も 、佐渡で集団を形成するなど野生化はほぼ順調に進んでいる。石川県での放鳥も決して不可能な夢ではないだろう。移送直後には早速、春の繁殖シーズンを迎えることになる。技術的な分野を含め、飼育環境を万全に整えてほしい。 来年の繁殖計画では、佐渡トキ保護センターが11ペア、同野生復帰センターが6ペア 、多摩動物公園、いしかわ動物園が各2ペアとなる。今季より3ペア増え、分散飼育は石川県を加えて新たな段階に入る。 トキの餌場づくりなどに努力してきた佐渡では、分散飼育地での放鳥については今もな お賛否が分かれている。本州最後の生息地だった能登半島ならと理解を示す声がある一方で、自分たちがやってきたような熱意が他の地域にあるのかという思いも根強いようだ。そうした懸念を打ち消すためにも、まずは分散飼育を軌道に乗せ、繁殖の実績を重ねることが大事である。 環境省は2015年までに佐渡で60羽の野生復帰を目指しているが、放鳥を重ねて定 着地が本州にも広がれば佐渡だけに放鳥地を限定する意味は薄れてくるだろう。そのことを考えれば、今回の分散飼育はリスク回避という政策的な意味を超え、石川県にとっては歴史的な一歩をしるすことになる。
◎海賊対策に給油案 否めぬご都合主義の印象
北沢俊美防衛相が、インド洋で給油活動を行っている海上自衛隊の部隊を、アフリカ・
ソマリア沖の海賊対策に転用する案を示した。給油活動の根拠法である新テロ対策特措法が来年1月に期限切れを迎えた後の、新たな国際貢献策と位置づけているが、民主党はそもそも、海賊対策に海自の護衛艦派遣を可能にする現行の海賊対処法の制定に反対した経緯があり、ご都合主義の感も否めない。自衛隊の海外派遣に関して、岡田克也外相は、国連平和維持活動(PKO)の参加5原 則を緩和するよう主張しており、民主党衆院議員のアンケートでは、PKOや人道支援の国際緊急部隊活動にとどめるべきとの慎重派が7割以上を占めるという状況である。 一方、小沢一郎幹事長は、国連決議があれば自衛隊の武力行使も可能という見解をこれ まで示している。鳩山政権として自衛隊の国際貢献活動の在り方をどう考えるのか、定見を示してほしい。 鳩山政権は、インド洋での給油活動を「単純延長しない」と繰り返し主張してきた。海 賊対策への転用案は給油活動の「変則的」な延長とも言える。 インド洋で対テロ作戦に当たる米英などの艦船の中には、ソマリア沖の海賊防止活動を 兼ねている艦船もあるとされる。政府としては、海賊対策の給油活動は実質的にアフガン支援にもつながり、米国などの理解を得やすいという読みもあるのかもしれない。 しかし、そうした方向転換は国際社会からどう評価されるか。給油対象の外国艦船が実 態として対テロ活動と海賊対策の双方を行っているとすれば、テロとの戦いから逃げず、アフガン支援の意思を明確に示すインド洋での給油活動継続の方が、国際貢献策として上策のようにも思われる。 岡田外相は、普天間飛行場の嘉手納基地統合案を「個人の案」と言ったが、給油活動を 海賊対策に切り替える北沢防衛相の案も個人的見解の域を出ていないようだ。個人プレーが目立つ鳩山政権の外交・安保の「軽さ」は国内外の信頼を損ねる心配もある。
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