きょうのコラム「時鐘」 2009年10月30日

 自殺を装った殺人事件はよくある。他殺を装った自殺もないではないが、これは難しいという。例えば自分で自分の首を絞めても死ねない。死ぬ前に気絶してしまうからだ

問題の34歳の女の事件とどこか似ている。交際していた男性の死亡は、自殺を装った他殺の疑いが強まっている。女が練炭を購入したり、睡眠薬の成分が被害者の体内から検出されるなど状況証拠は真っ黒だ

一方で矛盾だらけ。練炭購入跡がネット画面に残り、ブログでわざわざ私生活を伝えている。現金を引き出す姿は防犯カメラに映っているという。自分で自分の首を絞めているようにしか見えない

秋葉原の通り魔事件や共犯者を募って女性を殺害した事件など、ネット絡みの事件が多発している。画面にいくら証拠が残ろうが、バーチャル・仮想現実だと思いこみ、実像と虚像の区別がつかなくなっていく。便利なネットは、犯罪を誘発し、罪の意識を薄める麻薬のようにも思える

その一見甘味な「薬」の常用者があふれ、残虐な事件を次々引き起こす。今やネット画面は仮想でも虚像でもない。現代社会の実像だ。