韓国横河電機株式会社
代表理事社長  帯刀 楯夫

韓国の空の玄関は仁川国際空港である。2001年3月29日に開港し、アジアの一大ハブ空港として将来への飛躍が期待されている。従来から使用してきた金浦国際空港は今や国内線専用空港となった。新空港は4千M級の滑走路が現在は2本、旅客ターミナルは4F建て、横幅が1200Mとスケールは大きく、初めて降り立った外国人は誰もが驚嘆する。それにつけても行過ぎた民主主義による成田国際空港の機能低下、貧弱さは国際空港とはとても呼べるものではない。

空港からソウル都心に向かう高速道路は片側4〜5車線と広く、一般道路に合流する漢江近くまでの30Kmは空港利用関係以外の車は走らない。法定速度は100Kmだが、スピード取締のカメラがあるせいか他の高速道路より秩序良く整然と走っている。外国人を送迎する空の出入り口としては申し分ない。
韓国は米国方式で右側通行、左ハンドルである。空港からはいきなりワンウェイの高速道路の為、訪問者の多くは気がつかないことが多い。

韓国人は気が早い国民である。兎に角、思い立ったらなり振り構わず走り出す。これは車に限ったことではない。慎重で石橋を叩いてもなかなか渡らない日本人とは違う。例えば、信号機のある交差点で青に変わる前にアクセルを踏む車は珍しくない。ひどいのは赤でも車がいないとあれば走り出す。歩行者横断専用に付けられた信号が赤でも、誰も渡っていなければ、どんどん走り出す。正直に止まっていようものならクラクションを鳴らされ、「早く行け」とばかり急きたてられる。「正直者が馬鹿を見る」のが韓国の道路事情だ。TV番組で日本と韓国の交通秩序を比較し、視聴者を啓蒙する?(笑って終わりと思うが)放送があった。交差点の停止線にキチンと止まる様子を見せるものであった。日本ではほとんどの車が停止線の前で止まり、線をはみ出さない。韓国は違う。殆どが停止線をオーバーし止まる。ひどいのは横断歩道上に正々堂々と止まる。歩行者は車の両脇を歩き、中には冷たい目でドライバーを威嚇するが、こんな人は僅かで、大部分が気にも留めずに車の横をすり抜ける。何故か?お互い様の精神なのだ。自分もハンドルを握れば、同じことをやるから?。

韓国の交通事故の死亡者は人口当たり世界一である。この不名誉な記録はここ数年更新中と聞く。しばらく韓国で生活すればこの事情が良く分かる。ポイントは「スピードと車間距離」である。「道路は広い」、「車の性能は良い」、「気が早い」、「兎に角急ぐ」、「車間を空けると割り込まれる」等の要因が重なるから事故は多くなる。分かり切ったことが日常茶飯事に繰り広げられる。これには全国規模での警察の厳しい取り締まりと、全国一斉安全運転啓蒙大キャンペーンが行われない限り、絶対に解消しない。仮にやったとしても性格までは変えられないので疑問は残る。

また、韓国でも女性ドライバーが急激に増加している。これも事故の増えた原因である。そもそも女性は車の運転に生理的に適応しない。日本で200万部のベストセラーになった「話を聞かない男、地図を読めない女」の英国のアラン&バーバラ・ピーズも強調している。これをいうと多くの女性から大反発を受けること間違いないが、敢えて私は言いたい。特にアジュマの運転は極めて自己中心的で、とっさの周囲の状況判断が出来ない。車庫入れ駄目、ミラーを見る余裕無し、パンクタイヤの交換も出来ないアジュマが子供を学校まで送迎する姿は、考えるだけでも恐ろしい。勿論、日本も全く同じである。

韓国の車の三悪はバス、トラック、タクシーである。特に乗合バスは秩序の無い傍若無人バスと言っても過言では無い。多くの庶民の命を預かる運転手としての自覚は全く認められない。給与システムに問題があるとも聞くが、精神構造を改造しない限りどうしようもない。次ぎはタクシーだ。個人タクシーは10年間無事故が条件になっているから、まだ安心だが、会社タクシーは安全性に問題が多い。給与システムが上納金制度を採用しているのも起因している。つまり、車を会社から借り、先ず上納金を6〜8萬W納め、それを超えた分が収入となる仕組み。会社は安定した収入を得られるが、本人はそれを先ず取り戻す為に急いで走り回る。売上が少ないと生活に直結する。従って、相乗りも積極的にやらないと稼ぎが増えない。かくして、会社タクシーは余裕もなく、スピード、信号無視、割り込みも当り前となる。 
ついでながら、私の経験からすると、会社タクシーの中でも極めつきの悪は野球帽をかぶった運転手だ。どんなにタクシーが拾えなくともこの運転手だけは避ける。

韓国の道路にも最高時速制限のため法定速度が定められている。毎日、車に乗る私の考えでは、この法定速度が高すぎる。日本との比較では20Kmは高い。大抵の車は法定速度の20〜40%増しで走るものだ。例えば50Kmとして実際に走る車は60〜70Kmである。最近の車は性能が良いからアクセルを踏むとすぐ50Kmはいく。韓国では一般道路でも60Kmの法定速度が多い。余程のカーブで無い限り40Kmの制限標識は見かけない。高速道路は無条件100Kmであり、殆どが120Km以上で突っ走る。バスが乗用車をそれ以上で追い越すのも珍しくない。道路が広い分スピードを出したくなるのは理解出来るが、その勢いを一般道路まで持ち込むからたまらない。やはりスピードが事故を誘引する元凶である。

韓国には1年に2回の大行事がある。旧暦の正月と盆だ。この時は約3000万人の
民族大移動となる。儒教の考え方が残る韓国は先祖への墓参が習慣である。特にソウル、プサンなどの都市圏には全国から人が集中し、行事があれば故郷の親元に集まる。家族を大切にする文化が無くなりつつある中で、韓国は良い習わしが残っている。しかし、この移動が大変である。飛行機、電車は1年前から予約で一杯。残るは車である。ソウルから
プサンは約450Km、約5時間で行くのが通常であるが、この時ばかりは12時間を裕に超える。高速道路が全て駐車場になると思ったら良い。凄まじいエネルギーの消耗である。ただ、高速道路のセンターライン寄りの車線はバス専用レーンとなっている。平日は専用ではないが、土曜の午後、日曜祭日はメリットがある。混んでいれば乗用車よりバスの方が早い。休日のバスが専用レーンを高速でビュンビュン走る様は壮観である。

前述したが、会社タクシーは「相乗り」を盛んにとる。タクシーの少ない夜間などはお客からすればあり難い。韓国に来て最初に驚いたのが、タクシーの助手席に人がおり、後部席に人が乗っていない光景だ。最初は運転手の家族か友人を乗せているのかと思ったが、実は単なるお客なのだ。その訳は途中で相乗り客を拾うので、後部座席は出入りが多い。従って、助手席ならその面倒が起きないという訳だ。特に奇異に見えるのは、助手席に女性客が乗車している時だ。外から見ると何ともおかしい。夏になるとミニスカートの女性が助手席に乗り、運転手が事故を起こしたという。これは明らかに女性の側にも責任がある。何も後部座席に乗ったところで咎められるわけもなく、運転手に気を使うこともなかろうに。これも相互扶助精神の一端なのか。

休日のある日、ソウルに4000台あると言われる模範タクシーに乗った。料金は一般タクシーの2倍半だが、相乗りはさせない、安全運転、領収書も出る、予約もOKと外国人には評判が良い。行き先を告げたところ、車は反対方向に走り出した。最初は通常ルートで無い新たなルートが発見出来ると思っていたが、やはりコースがおかしい。運転手に「どこへ向かっている」と尋ねたら、行き先は間違いない。そこで一喝「私はソウルに住んでいる、道は良く知っている、何故このコースを走るのか」。彼はソウルを知らない外国人と思い遠回りして稼ごうとしたのだ。目的地に着くまで、片言のハングルで怒りをまくし立てた。怒っているのは相手も分かるもの。しかも自分が故意に回り道した罪悪感もあり、途中で料金メーターをリセットした。運転手は謝罪しながら料金の受領を断ったが、
ただ乗りは出来ず、却って多い目に料金を支払った。「運転手さん、うるさいことを言ったけど、外国人でも誠実に対応して下さい」と言いたくて。

韓国の車は1000万台を超えた。しかも韓国製自動車が全国の97%を占める。世界でも国産車がこれほど多く走っている国は他に無い。自動車産業は活発で生産台数では世界5位である。性能、価格、デザイン、サービスも良く、欧米、アジアへの輸出は目を見張るものがある。街角で故障車が立ち往生している光景はほとんど見掛けない。時々見かけるのは例の悪バスだけである。お客は降ろされ、次ぎのバスが来るのを待っている姿は他人事とは思えず腹立たしい。私は運良く未だその経験はないが、整備に神経を使うまでになって初めて、韓国のバスも正常になろう。

韓国の交通事情で周辺アジア諸国と様相が異なるのが二つある。一つはオートバイ、自転車の少ない国であることだ。オートバイは殆どが商業用であり、大きな荷台にダンボールを高々と積上げて走っている。自転車は一般自動車道では見掛けない。もっぱら住宅地周辺で買い物、健康用で使っているようだ。もっとも冬の寒さの厳しいソウルでは、道路の凍結もあり、とてもこの二輪車では動けない。どうやらこの辺が真相かもしれない。今の韓国で中国、台湾、その他アセアン諸国のように、二輪車が沢山走っていたらどうなるか。想像するだけでも恐ろしい。
二つ目は交差点手前でのUターンが可能なこと。右側通行だから、左側道路へのターンとなる。例えば、ある交差点で左折したい場合、車は一旦次ぎの交差点まで走り、赤信号でUターンをし、曲がりたかった交差点まで戻り右折する。この方式は意外と馴れると便利である。しかし道路幅が狭い日本ではこの方式を採用したら大混乱となる。

TVでも交通事故のニュースは多い。事故現場がTV画面に映されるが、スピードがある為、ほとんどが大破である。恐らく即死状態と思う。一番多く見掛けるのが追突による接触事故だ。車間距離が無いから、ちょっとした弾みで接触する。面白いのは追突した方が怒っているケースである。「急に止まるから当たった」とでも言っているのだろう。普通は後ろの車に100%責任あり、怒るなどとんでもないことだ。しかし、気の早い韓国人だけに、ぶつけた方が怒る。何となく納得出来る。

それでも韓国の交通事情は徐々に良くなってきた。安全ベルトの使用率は90%を超える。1年前は30%以下との報道があった。今や警察は事故での安全ベルトの効果をPRし、その取締りに懸命である。しかし、事故を起こしたらでなく、起こさないための啓蒙活動にもっと主眼をおいて欲しいものだ。経験的に言えば「スピード減速」と「車間距離保持」が事故撲滅のキーポイントと感じている。
「安全は全てに優先する」は単に建設工事現場だけの標語で終わらせたくない。

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