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シベリア抑留国賠訴訟:「判決も棄民政策」 原告敗訴「仲間、今も凍土に」 /京都

 28日、京都地裁であったシベリア抑留者による国賠訴訟の判決。原告側の主張は全面的に退けられた。原告団の平均年齢は85歳に達し、27日にも大阪府内の原告が死亡した。「救済には一刻の猶予も許されない」との願いは切実だ。原告団は「たまたま今日は負けたが、必ず勝つ」と決意を新たにした。【広瀬登】

 「原告の請求をいずれも棄却する」

 吉川慎一裁判長が主文を読み上げると、原告と支援者らで埋め尽くされた101号法廷は静まり返った。原告団長の林明治さん(84)は裁判長をじっと見つめ、そしてうつむいた。

 「老いぼれは早く死ねという今日の判決は完全な棄民政策。断固として戦っていきたい」。判決後の集会で林さんが声を上げると、集まった約60人から大きな拍手が起きた。

 原告団は「権利侵害を救済すべき司法の責務を放棄するものとして厳しく批判されなければいけない」と判決を批判する声明を発表。会場からは「裁判官には歴史認識が欠如している」などの意見が相次ぎ、ある男性は「多くの仲間がシベリアの凍土に眠っている。その事実をもっともっと知ってほしい」と声を震わせた。

 弁護団長の村井豊明弁護士は「判決がシベリア抑留の甚大な被害を認め、(国が)政治的判断をすべきとしている点は前進」と一定の評価も与えた。

 ◇無念継ぐ--急逝した原告・佐々木さんの妻

 今年1月に急逝した原告、佐々木栄三郎さん(当時87歳)の訴訟を引き継いだ妻清子さん(78)=奈良県王寺町。口頭弁論の度「結果を夫に報告したい」と京都地裁に足を運んできただけに、判決には「残念」と肩を落とした。

 栄三郎さんは約3年間、シベリアに抑留。戦後の混乱で家業の仕出し屋はつぶれ、一から出直して自身の喫茶店を持つまで20年かかった。「抑留されなければ商売を続けられた」。悔しそうに語っていたという。

 栄三郎さんが裁判に加わってから、記憶をたどるように書き始めたノートがある。終戦後、中国で放置された日本兵らの遺体について「勝ち戦なら丁寧に葬られたはず。遺族の無念さを思えば言葉になりません」と書き残した。他界した後、清子さんは読み返し、悲惨さを再認識した。「難しい裁判だが控訴して頑張りたい」。清子さんはこう話した。【熊谷豪】

 ◇司法の限界、記録に刻印を--ノンフィクション作家・保阪正康さん

 裁判官にとって先輩たちが積み重ねた判例を覆すことは難しい。予想通りの判決だ。判決文には原告の苦しみや悔しさを酌む情がにじんではいた。だが、それでも棄却するところに司法の矛盾、限界がある。

 司法に期待できない以上、判決でも触れられたように、今後の救済は政治、立法の責任だ。補償や抑留に関する資料調査、実態解明なども含めて、積極的に進めるべきだ。

 体験者が次々亡くなる中、抑留は歴史の中に位置づけられてゆく。今後は我々後世の者たちが抑留を記録し、語り継がなければならない。その中で、甚大な被害に遭った人々をついに救済できなかったという司法の実態も刻印されるだろう。【聞き手・栗原俊雄】

 ◇政治が動かねば--戦後補償ネットワーク世話人代表の有光健さんの話

 最高裁で確定したものを覆すには、よほど説得力のある新しい証拠が必要。今回はそうしたものがなく、予想通りの判決だ。補償問題は政治が動かなければだめだということが改めて明らかになった。そのための法案提出を今、民主党などが準備しているが、早急に実現させるべきだ。

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 ■解説

 ◇被害受忍論、また壁に

 シベリア抑留の経験者が国に賠償や補償を求めた同種の訴えは過去3例、いずれも敗訴が確定している。原告側は「これまでのような未払い労働賃金の支払いではなく『棄兵・棄民』政策そのものの責任を問う」などと主張したが、かなわなかった。

 原告らの損害は「国民が等しく負担すべき戦争損害で、これに対する補償は憲法の予想しないところ」などとする「戦争被害受忍論」がこれまでの裁判と同様、壁となった。

 一方、今回の判決は抑留の損害を「深刻かつ重大」「戦闘状態が継続していた時期の戦争被害とは区別され得る」と認定。通常の戦争被害と一線を引きつつ、救済できないところに司法の限界が現れている。

 抑留されたおよそ60万人のうち生存するのは9万人、平均年齢は80代後半とみられる。2年弱にわたる今回の裁判の中でも原告5人が亡くなった。だが、京都訴訟の原告団以外にも立法による補償実現を民主党などへ働きかけている組織もあり、元抑留者の「声」は弱まっていない。司法にせよ政治にせよ、早急な解決策が求められている。【栗原俊雄】

毎日新聞 2009年10月29日 地方版

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