生きのいい珊瑚に蝟集する熱帯魚のように金融機関や投資家が我先にとネットベンチャーに群がる時代は、とうに過去のものとなった。
よほどの将来性と堅実なビジネスモデルがなければ、証券会社はおいそれと上場の主幹事を引き受けてくれない。上場できたとして、ネットバブル崩壊とライブドア事件を経た投資家の目は相当に厳しい。
しかしこの逆風下で、グリーだけは威勢がいい。主に携帯電話向けにソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)とゲームを提供するサイト「GREE」を運営する、創業5年目のベンチャーだ。
グリーが東証マザーズにデビューしたのは、世界中の市場が金融危機の影響で冷え込んでいた2008年12月のこと。それでも、公募価格を大きく上回る初値が付いた。その後、株価は右肩上がりの曲線を描きながら、今年9月末には上場来高値の5330円に至った。
10月23日時点の株価は4940円。それでも上場時の倍の水準であり、その時価総額は約2210億円と、東証マザーズで堂々1位を誇る。全ての市場の銘柄、約3200の中でも上位10%以内。横河電機やヤマハ、TOTO、博報堂DYホールディングス、小林製薬といった蒼々たる顔ぶれが、時価総額で後塵を廃している
ライバルと似たサービスとビジネスモデル
グリーが市場から評価されているのは、並み居る強豪を追い抜かんばかりの勢いで急成長しているからだ。今年7月末、グリーは驚愕の好決算を発表した。2009年6月期の通期決算は、売上高が前年比4.8倍の139.5億円、営業利益が前年比8倍の83.6億円である。
この決算の期間、グリーはわずか1年間で会員数を700万人以上も上乗せし、1260万人にまで伸ばした。さらに、9月末までのわずか3カ月間で1500万人の大台に乗せ、先行く最大のライバルだった「モバゲータウン」に並んだ。並んだのは会員数だけではない。
今年4月から6月までの四半期、グリーの売上高はモバゲータウンに肉薄し、営業利益は辛勝した。SNSで国内最大の会員数を誇る「mixi」の運営会社、ミクシィについては、軽く抜き去っている。時価総額に至っては、ミクシィが1153億円(10月23日現在)、モバゲータウンのDeNAが1237億円(同)と、グリーに遠く及ばない。
グリー急伸を称えたメディアやアナリストは、その主な理由を携帯電話向けのSNSと連動したゲームがヒットしたこと、そこから広告収入だけでなく課金収入も得ていること、そして、旺盛なテレビCMが大量のユーザーを引き込んでいること、の3点に求めた。
しかし、それだけでグリーの強さを語ることはできない。それだけでは、どうも腑に落ちない。
携帯電話向けSNSとゲームの組み合わせは、そもそもモバゲータウンを運営するDeNAが始めたことで、両社のサービスは非常に似通っている。「無料」と謳いながら、ハマったユーザーから少額課金を頂戴するビジネスモデルも同じだ。テレビCMを大量に打ったのも、モバゲータウンが先だった。
要は、サービスやビジネスモデルにおいて、目立った新規性はない。にもかかわらず、グリーはモバゲータウンを追い抜かんばかりの勢いで急成長を成し遂げている。なぜか。
グリー急伸の本当の理由、あるいは、グリーの本当の強さとは何か。延べ8時間のインタビュー取材を基に、前後編を通して紐解いていく。なお、グリーによるDeNA訴訟の件は、別掲記事で報じる。
(以下、文中敬称略)
日本中が冷夏に拍子抜けしていた8月末の某日。東京・六本木の高級ホテルのロビーフロアにある日本料理屋。45階の大きな窓から眼下に東京の夜景が見渡せる角の席に、その男はいた。
取材には滅多に応じないシャイな女房役、グリーの創業時から社長の田中良和、32歳を支えて来た副社長の山岸広太郎、33歳である。
山岸は約10年前に同じ入社式の場にいた同期の旧友でもある。もっとも今では、上場時に得た7億円以上の現金に加え、約4%のグリー株を保有する成功者であり、近付きがたい存在となって久しい。
だが今回、旧知の縁もあり、山岸は多忙にもかかわらず食事に付き合ってくれた。山岸は酒を嗜まないが、場の空気には酔う。この機を逃すまいと、本題を切り出した。
「何でグリーって、ここまで急成長を遂げることができたのか、その本質を知りたいと思っている」
「それは、SNSとゲームの組み合わせという新しいモデルを生んで、ユーザーに認められたからでしょ」
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