スローフード、と言われても…。 「ええと、何か身体にいいものを食べること? あと地産地消がベターってことかな?」と、ざっくり考えていた。 惜しい部分もあるけれど、間違っている。お恥ずかしい。
スローフードとは。 もともと、「ファーストフード」の逆、という発想で作られた言葉だけれど、とくに反ファーストフードという意味ではなくて、大まかにいうと、
・その土地のものを食べる、土地の伝統食を見直す
・質のよい食べ物の味を、広く知らせる(コドモたちなどにも)
・質のよい食べ物を作っている、小規模な生産者を守る
……といった内容だ。 もともとは、イタリアで始まった運動なんだそうだ。80年代にイタリア人が、「全世界の料理の味が均一化されて、それぞれの土地の良さを持った、美味しい料理が無くなっちゃったら、やばいだろう!」と考えたのがはじまり。 そしてその運動が、世界中に広まったのだ。
今回、横浜で行われている、日本初の国際スローフードフェス「スローフードニッポン2009」は、スローフードに関する映画上映、ワークショップやセミナー、試食会(ピクニック)、市内の飲食店と生産者とのコラボディナーなど、さまざまな角度から、スローフードを体感出来るイベントだ。 私は10/23-25に行われた「スローフードニッポン」、いわゆるマーケットに行ってみた。 さて、スローフードって…どんな味なんだろう?
会場はみなとみらい線、馬車道駅からすぐの場所。華やかにテントが並んでおりました。
まずは何はなくともビール購入。このサンサンオーガニックビールは信州のビールで、くせがなく、まろやかで、飲みやすい美味しいビール。オリジナルホルダーが売っていたので、これにビールを入れて飲むんですか? と訊いたら、いや、普通にコーヒー入れて飲んでくださってかまわないですよ、オフィスで是非やってください、と言われました(しかしビールのデザインのものを、オフィスに持ち込んでも、いいものだろうか)。
イベントスペースでは、イタリアの大学教授による、スローフード関連のトークイベントが行われていました。イタリアの教授の皆さん、大学の先生とは思えない、ラフなファッションの方ばかりでした。「いま、そこのブースで出してるワインを、一杯飲んできちゃったんで、ちゃんと喋れるかわかりません、アハハ」とツカミで喋る先生もいて、おおらかでした、ステキ(話の内容は、ちゃんと真面目でしたよ…)。
この日の目玉イベントのひとつである、「燗酒コンテスト」。全国の蔵元・100種以上のお酒の中から、事前審査で30種にしぼりこんだ「燗酒にふさわしいお酒」をテイスティング、好みのものに投票するというもの。 500円の参加費を払うと、オリジナルおちょこ、超米ウコンプラス(←初めて飲みました)、ミニおつまみが付いて試飲し放題。私も参加しましたが、とても30種類は飲みきることが出来ず、10種類くらい、ランダムに飲んでみて投票しました。 (ちなみに大賞をとったのは、「瑞冠 純米吟醸山廃仕込 山田錦」だそうです!) 考えてみると「日本酒を見直す」って、イコール、スローフード運動なんですよね。日本での日本酒って、フランスにおいてのワインみたいなものですものね。土地に古くからある飲食物ですから。
酒蔵も普通に出店してました。この『寺田本家』さんは千葉の酒蔵で、発芽玄米酒や、鎌倉時代の古いお酒を再現したものなど、面白いお酒を出していて、昨年はイタリアにワークショップに行ったのだとか。「イタリアの方は、思っていた日本酒と違う、ワインみたいだねって飲んでくれましたよ」とのこと。私も試飲して「醍醐のしずく」というのを一本購入しました。
JA横浜のブースがあり、横浜市内でとれた野菜が売っていました。保土ヶ谷産の小麦粉で作られたというオリジナルうどん『ハマっ子』なんて商品も。ひとつ買ってみましたが…、どんな味なんでしょう、保土ヶ谷うどん。
「畑懐の土」という土を売っているブースにて、衝撃だった「ルッコラの葉っぱの食べ比べ」。良い土と、そこらへんのホームセンターで買ってきた土で育てた野菜を味見させてくれるんですが、確実に味が違う! 安い土のほうは、ピリッと苦みばしって美味しくないんです。当たり前なんだろうけど、あんなに違うものなんですね。
「こだわりフード」を出す、たくさんの移動屋台が出ていたんですが…、あまりの匂いの良さに、Bambinaというブースの「岩手県、短角牛の熟成ビーフシチュー」を購入。この牛が美味しかった! 自然栽培の牧草を食べている牛で、シモフリではなく、さっぱりした肉本来の肉の味がするビーフ、らしいのですが、脂身の部分も嫌なねっとりした感じがなくて、スッととろけるようないい味がするんです。750円ほどしたのですが、それ以上の味がしました。
青森道の駅も「津軽カフェ」として出店、りんごがバケツで売っていました。りんごドレッシングなど、変わり種も。考えてみれば道の駅って、スローフードてんこもりの場所ですよね。
いろんな土地の「地大豆」を売る、変わった店も。納豆を売っていたので、ちょっと高かったんですが、思いきってひとつ購入(値段のぶん、やはり美味しかったです…)。
日本では、食料自給率向上のため、米を使ったものをもっと食べよう、という運動をやっているんだそう。 お米で出来た油「こめ油」、お米で作ったバンズ「玄米ライスバーガー」なども売っておりました。なぜお米から油が出来るのか? どうやって作るんだろう!?
地方の、見たことがない野菜、というのが、多数アピールされておりました。こういう「食べたことないもの」って、単純にそそります。どんな味がするんだろう、どんな調理法なんだろうって興味がわきますよね。
見たことがない地方の食材も出展していました。これは茨城の特産「凍みこんにゃく」。こんにゃく版こうや豆腐のようなものらしいです。試食させてもらったんですが、しょうゆの味をつけだけなのに、ダシがしみたような深い味がしました。うーん、不思議だ。煮物に入れたい。
ふぞろいの大根たち。変な形な野菜ほど、味は美味しいような気がするんですが、気のせいでしょうか。
「何か地元の、スローフード的な名物を!」と考えて作られたであろう、地元の古代米と米粉で出来た「姫路おでんケーキ」。ちょっと迷走している感じが…。いや、こういうの、決して嫌いじゃない(というかむしろ好き)ですけれど。
結局、いろいろなもの試食し、いろいろなものを買ってしまった。 でも帰宅中の電車の中で、いろいろと考えてしまった。 今、私は、住宅が密集している、都内の安アパートに住んでいる。この区内でとれる野菜なんか、ほとんどないだろう。 毎日の食事は自炊。でも買う材料は駅前の激安八百屋、きっと農薬で管理されて育ち、遠くから輸送された野菜だと思う。中国産のシイタケなんかも、もちろん買う。 肉だってブラジル産の鶏ムネ肉が安ければ、ブラジル産のを買う。 美味しい、そして安全な食品を気軽に買うには、今の倍の収入が必要じゃないだろうか。
でも「知ること」は無駄ではないと思う。 ああ、良い土で育てた野菜のほうがこんなに味がいいんだ、とか、自然栽培の牧草で大切に育てた牛が、やたら美味しいんだとか、知っていて無駄ではない。 毎日食べることが出来なくても、「選択して、時々食べる」ことは、出来るのだから。
スローフードも、スローフード以外も食べることが出来る人生って、考えようによっては、豊かなんじゃないだろうか。 地球と地域と、自分の身体とお財布をながめながら、食べ物を真剣に選択すれば、いいんじゃないだろうか。
選択を放棄さえしなければ、スローフードと、どこかで繋がっていけるんじゃないのだろうか。
まずはゆっくり、買ってきた日本酒なんか飲みながら、もっと考えたいと思う。
【参考サイト】
スローフードニッポン2009 横浜ベイエリアにて、11月1日(日)まで開催中
大塚 幸代(おおつかゆきよ) |
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