2009年10月29日0時9分
国内景気が回復しつつあるという。足下で生産は上向いており、実質GDPは年率2〜3%で成長している。成長率でみれば、すでに日本経済は危機を脱したようにみえる。
しかし、経済活動の水準は、回復というには程遠い。危機前のピークと比べると、生産活動は8割、実質GDPは9割の水準にとどまる。景気が現在のペースで回復を続けても、危機前に戻るには何年もかかる。日本経済は、今後しばらくの間、過剰供給力を抱え続けることになる。
その間、日本経済には何が起きるのか。設備能力を適正水準まで削減するため、企業は新規設備投資を大幅に削減するだろう。雇用や賃金はさらに抑制されるに違いない。過剰供給力の削減はまた、事業の絞り込みや企業再編、競争力を失った企業の市場からの退出、すなわち経営破綻(はたん)を不可避のものとするだろう。ちなみに、90年代後半以降のいわゆる「三つの過剰」調整期においては、約1割の企業が消えていった。その過程で金融機関が抱える不良債権が再び拡大し、金融システムに大きな負荷が加わる可能性も大きい。
つまり、最悪期を過ぎていったん回復しかけた日本経済に、再びしつこい景気停滞圧力が加わるということである。その中で海外景気の回復ペースが鈍ったり、景気対策の効果が薄れたりすれば、国内景気は容易に二番底に陥るだろう。日本経済の基盤はそれだけ脆弱(ぜいじゃく)だということである。つまり、成長率ではなく水準からみれば、日本経済は今なお危機のまっただ中にいるのだ。
英国の中央銀行のキング総裁は、「問題は成長率ではない、水準なのだ!」と述べたという。新政権の経済閣僚にかみ締めてほしい言葉だ。(山人)
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「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。