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谷垣自民党―新たな自画像を早く描け

 自民党の谷垣禎一総裁が、野党として初めての衆院代表質問に臨んだ。

 かなり、やりにくかったに違いない。借金ばかりが膨らむ財政を健全化しようという姿勢がみられないと政府を批判すれば、鳩山由紀夫首相に「あなた方に言われたくない。こんな財政にしたのはだれか」と切り返される。

 沖縄の米軍普天間飛行場移設問題で閣僚の足並みの乱れを突けば、「いままで10年以上、結論を出さなかったのはどの政権か」と反論を浴びる。

 鳩山政権を批判すれば、そのままかつての自民党政権への批判となって跳ね返ってくる。自らの過去を総括し、捨て去るべきものと決別したうえで新たな足場を築かない限り、この悪循環からは抜け出せない。谷垣氏はそのことを痛感したのではないか。

 政府の政策の誤りや矛盾、あいまいさを指摘し、問題点を突くのは野党の大切な役割だ。そこに有権者の期待がある。ただ同時に、自民党が再び政権を握ればどうするのかも聞きたい。この点で、明確なメッセージが感じられないのだ。

 谷垣氏は、地元の理解を得ないまま八ツ場ダムの建設中止を表明した政府の手法を「政治主導という名の政治暴走」を感じると非難した。では、自民党なら従来通り巨費を投じて建設を継続するのかどうか。態度を決める必要がある。

 閣僚と副大臣、政務官の「政務三役」が予算編成などを仕切っている現状も批判した。だからといって、以前の官僚依存型に戻せと言うわけにもいくまい。

 自民党が選挙で敗れたのは、これまでの政治のやり方、ありようへの有権者の不満が臨界点を超えたということだろう。この民意に自民党は応え、新しい回答を用意しなければならない。かつての政治への逆戻りで活路が開けないことははっきりしている。

 長期政権時代への郷愁や惰性は、抜けにくいのだろう。政権奪還への道を探るために、谷垣氏をトップに創設した「政権構想会議」では、古参議員から「自民党は政策の失敗をしてきたのか」といった声があがった。現実の厳しさを直視するのは容易ではない。

 必要なのは、これまでのやり方を否定するところから議論を始めることではないのだろうか。それなしに新たな自画像を描くのは難しい。

 野党になって40日余り。その現実、重さが党内に浸透するにはまだ時間がかかるかもしれない。だが、自らに切り込む総括の作業を急がない限り、反転攻勢の足がかりはつかめない。立ち位置を定めないまま新政権をいくら批判しても、天につばするだけに終わりかねない。

 政権を目指す2大政党の一翼として再生するには、その覚悟がいる。

斎藤郵政始動―説明なき逆流を憂える

 日本郵政の新社長に斎藤次郎・元大蔵事務次官が就任した。取締役は西岡喬会長と奥田碩・トヨタ自動車相談役を除き一新された。

 副社長4人のうち元官僚が2人という「官依存」であり、説明なき逆流がさらにあらわになった。

 社外取締役には、作家の曽野綾子氏、元政府税調会長の石弘光氏のほか、元NTT東日本社長の井上秀一氏ら経済人、新潟県加茂市長の小池清彦氏や西陣織工業組合理事長の渡辺隆夫氏など地域に足場を置く人たちも選ばれた。まるで政府の審議会のような構成でもある。

 これで24万人の大所帯を漂流させずにきちんとかじ取りできるのだろうか。不安を禁じ得ない。

 経営論の大家ピーター・ドラッカーは、使命が明確でない組織は瓦解すると喝破した。日本郵政は今、そうした危機に直面しているといえよう。

 創設以来の本業である郵便は電子メールに押され、低落傾向が止まらない。物流事業もライバルがひしめく。収益の柱は金融だが、預金と国債の利ざやを取るだけに等しい。

 本業は何か。それを明確にしないまま、西川善文社長時代の日本郵政は金融偏重に走った。子会社のうち銀行と生保の上場が目標になったが、大半の社員が働く郵便や郵便局の事業は空回りしていた感がある。

 斎藤氏は就任会見で「政府の見直し方針を受け、どんなサービスがあり得るのか、どんな事業モデルがあり得るのか、徹底して考えたい」と述べた。問題は検討の結果、何をするかだ。

 政府は地域の行政サービスの拠点など、さまざまな役割を日本郵政に担わせようとしている。委託契約で手数料が入るかもしれない。だが、本業がしっかりしていないのに副業ばかり増やすと、組織は行き詰まる。

 鳩山政権は閣議で郵政改革の見直しを決めたが、民営化の何をどう変えるのか、明確ではない。このままでは国民の懸念はぬぐえない。

 来年の通常国会に郵政改革法案を提出するまでに、鳩山由紀夫首相も亀井静香郵政担当相も、郵政に関する新政策をきちんと説明しなくては無責任のそしりを免れない。

 むろん、経営陣も日本郵政が昔の「親方日の丸」的な組織に戻ることなく自立した経営として発展する道筋を語らねばならない。斎藤社長らは、国民に対する重い説明責任を負った。

 社員の力を引き出すことも大切だ。指揮官としての力量を示すと同時に、共感を得ていかねばならない。

 西川氏はこの点で失敗した。有能な辣腕(らつわん)バンカーも、孤立しがちで力を発揮できなかった。

 かつて剛腕で鳴らした斎藤新社長は、その轍(てつ)を踏んではならない。

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