糸井重里は、以前から テレビ番組の『アメトーーク!』のことを おもしろいなぁ、どうやってできてるのかなぁ、 と思っていました。 お笑い番組って、 おもしろさを言葉にしづらいぶん、 どう生まれてどう仕上げていくのか、 ちょっと不思議です。 『アメトーーク!』や『ロンドンハーツ』などの 総合演出をつとめる加地さんと糸井の話は、 言葉が含む情報量の多い、 スピード感ある対話となりました。
アメトーークとは

もくじ
2009-10-20
第1回 企画は ジェットコースターの のぼり坂。
2009-10-21
第2回 俺たちはずっと 攻め続けなければ いけないのか?
2009-10-22
第3回 この番組は、 テレ朝では やらないほうがいい。
2009-10-23
第4回 はたしてぼくらは 企画書の競争を したいだろうか。
2009-10-26
第5回 競争してきた筋肉を使って 協調しろよ、と 今度は言ってるんだ。
2009-10-27
第6回 場所が変われば クリエイティブも変わる。 それをまぜこぜにするたのしさ。
2009-10-28
第7回 テレビがちょっと忘れてる、 雑な場面で 誕生するもの。
今日の更新
第8回 ひ弱なものを守るため、 パンチを持った もうひとりの自分。
2009-10-30
第9回 負で反抗するのでもなく、 正で権威を ふりかざすのでもなく。



第8回 ひ弱なものを守るため、 パンチを持った もうひとりの自分。

糸井 加地さんがキョロキョロしてる場所を
ぼくは、お客さんとして
一緒になって忙しく見ています。
まんまとやられてますよ、ホントに。
加地 いえいえ。
糸井 いまは、芸人さんたちが
スタッフの心になっちゃってる時代、
とでもいうのでしょうか。
以前から(萩本)欽ちゃんみたいな、
演者でありすごいスタッフでもあるという人が
ときどきいたんですけども、
いまは、もしかしたら
3分の1ぐらいの芸人さんが
頭の中でスタッフをしてるかもしれない。
加地 そうですね。
糸井 この傾向は、まだまだ続く感じがします。
加地 10年くらい前までは、視聴率のことなんて
芸人さんは気にしなかったのに、
いまはみんな、視聴率はもちろん、
編集のことまで考えたりする人もいます。
「こういうふうにやっていかないと番組が終わる」
とか、そういうことまで。
糸井 それは一種のマーケティングですよね。
加地 それがもう、すごくなっちゃってる。
糸井 うーん。
危ないと言えば危ないですね。
加地 芯がなくなっちゃうので、これは
どちらかというと危ないです。
ですからぼくは、
『ロンハー』や『アメトーーク!』の収録中、
特にチャレンジ企画では、
数字を気にしなくていい、と
言うようにしています。
糸井 うん、うん。
加地 番組の構成的にも、
ゲストを早めに画面に出すほうが
数字がいいことはわかっています。
「後輩の山崎に憧れてる芸人!!」の回でも、
山崎をすぐに出すほうが
数字はよかったに決まってます。
でも、その前にきっちりトークをして
山崎が出る用意ができてからの登場でないと
ほんとうは成り立たないんですよね。
そのあたりは気をつけて
構成し、編集するようにしています。
糸井 数字だけにひっぱられた結果、
とんでもないことになっちゃったり。
加地 ええ。例えば、
ある芸人さんがすごくがんばって
企画がおもしろくなって、
その芸人の名物企画になったのに、
数字が見えるということだけで、
ほかの芸人にやらせて
企画を平気で使いまわすような場面を目にします。
その企画は、その芸人さんだから成立してたし、
その芸人さんがヒットの立役者なのに。
糸井 そのほうが新鮮だと思ったら‥‥ダメですよね。
加地 もしもそこの場所で何度かやって飽きられたら
勇気を持ってやめて
新しい企画を考えなきゃいけないんです。
それがやっぱり
作り手の気持ちだと思うんですよ。
制作側は、番組を作っていく上で
毎週「視聴率」という数字で判断されて
まわりからとやかく言われる状況があります。
それは、しかたない。
ふつうの人間は、そこで折れちゃう。
だけど、山崎のあのハートの強さのように(笑)、
そこに打ち勝っていく気持ちが必要です。
どれだけ強いハートで闘えるか、ということが
いまのテレビの状況を乗り越えさせて
いくんじゃないかなぁと思うんです。
糸井 クリエイティブとかアートとかいうと変ですけど、
ものを作るということは、
ある意味ではひ弱なことです。
だけど、それを守るもうひとりの
パンチを持った自分がいてなんぼ、
というところがあると思います。
加地 うん、そうですね。
糸井 殴られても痛くない自分を
もうひとり作らないと、
いまの時代、アートができないですよね。
加地 いま、テレビになかなか
芯のある企画が出てこないのは、
以前から、どこの局でも、
毎週高い視聴率を取らなければいけないという
偉い人たちからの追い込みが
強くなっているからです。
現場の子たちは余裕がなくなってるし、
殴られても平気なんだという
強さも持てないでいるんです。
糸井 「もうちがうんだ、負け側にいるぞ」と
思ったほうがいいんだよね。
そういうときに、テレビの人たちって
意外とパワーを出すでしょう?
フジテレビの三宅(恵介)さんがやった
『27時間テレビ』は、そうですよね。
加地 はい。あれは反抗ですよね。
糸井 (明石家)さんまさんとのスクラムの組み方は
『がんばれ! ベアーズ』みたいだったよ。
加地 (笑)
糸井 最高に力のある人がベアーズになったら
勝つよね。
加地 勝ちますね。
すばらしかったです。
最後のシーン、
CMを入れなかったんですよね。
糸井 はー、そうなのかぁ。
加地 スポンサーを入れちゃうとできないことがあって、
あそこはノー提供だったらしいです。
それは、会社が動かないとできない話なんですよ。
糸井 あれは、三宅さんが
陰腹を切ってたんだろうね。
加地 三宅さんが、やっぱりすごいです。
糸井 三宅さんはパンチで闘うというのではなく、
のらりくらりとアホなふりを
したりしてるけど(笑)。
加地 そうですね。アホなふりをするって
すごいと思います。
ぼくもなるべくやるようにしてます。
正論だけぶつけても、やっぱり勝てないから。
糸井 論争で勝っても一銭にもならないもんね。
加地 そのとおりです。
自分がやりたいことを通すためには
へらへらすることも必要ですし、
顔はいくつか、持っておかなくてはいけない。
糸井 ケンカも必要、アホも必要。
加地さん、忙しいよね。


(続きます)

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2009-10-29-THU

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