きょうの社説 2009年10月29日

◎加賀繍の着物 伝統工芸の可能性追求を
 金沢市の希少伝統工芸「加賀繍(ぬい)」と加賀友禅の技法が融合した着物が誕生した 。伝統の繊細な技に裏打ちされた格調の高い図柄が好評だという。近年、担い手減少などで加賀繍の着物は工芸展への出品が中心だったが、市場への流通で産業化に期待がかかる。

 金沢市はことし、ユネスコの「創造都市ネットワーク」にクラフト(工芸)分野で登録 された。国内外に「世界工芸都市金沢」を発信する好機といえるものの、原動力となる伝統工芸の業界は高齢化と後継者不足、需要の伸び悩みなどの課題を抱えている。地元産業の振興に向け、今回の加賀繍をはじめ、各種分野で現代に通じる伝統工芸の可能性をさらに追求してもらいたい。

 加賀繍の着物は石川県加賀刺繍(ししゅう)協同組合が金沢市内の加賀友禅メーカーと 共同製作し、同組合はこの着物で金沢市から「金沢ブランド工芸品開発促進事業」に選ばれた。これまでも同組合は、加賀繍を使ったインテリアの開発を図るなど、工芸品の幅を広げる取り組みを行ってきた。

 金沢の20種を超える伝統工芸は、全国的にも貴重な工芸である。加賀繍と加賀友禅の 融合のように、互いのよさを引き出して地元業界の安定につなげる工夫もより求められる。

 ことし7月に報告された金沢市の伝統工芸品に関する調査は業界の厳しい現状を浮き彫 りにした。金沢九谷、加賀友禅、金沢漆器、金沢箔(はく)、金沢仏壇、加賀繍の職人を対象に行われたもので、60歳以上の職人が全体の4割を超え、30歳代は4・4%、20歳代は0・6%だった。売上高については約77%が「減少傾向」と答えている。活性化に向けて官民が手を携えて、新製品の開発や販路開拓、後継者育成、技術の伝承などにこれまで以上に効果的に取り組む必要がある。

 今月開かれた「おしゃれメッセ“かなざわごのみ”」では地元企業や組合、デザイナー などが共同開発した伝統工芸の商品が並び、注目を集めた。創造的な「金沢ブランド」を生み出す素地を十分に生かしてほしい。

◎国会論戦スタート 攻めあぐねる自民党
 突っ込みどころはたくさんあるはずなのに、どうにも攻め切れない。臨時国会の代表質 問に立った自民党の谷垣禎一総裁は、やりにくさを感じていたのではないか。「野党慣れ」していないという理由もあるのだろうが、政策財源の問題や赤字国債の発行などを「約束違反」「言行不一致」と追及しても、ブーメランのように2カ月前まで政権を握っていた自分たちに批判の刃が返ってくるやっかいさに、いささか手を焼いたようにもみえる。

 自民党総裁が野党として質問に立ったのは1994年の河野洋平氏以来15年ぶりであ る。谷垣総裁は気負わずに、あえて正攻法に徹したのだろう。米軍普天間飛行場の移設問題や来年度予算編成をめぐる閣内不一致、鳩山首相の発言のブレ、政治資金問題などについて真正面から切り込んだ。

 ただ、答弁に立つ鳩山由紀夫首相が窮するような場面はなく、のれんに腕押しの印象が あった。谷垣総裁が「政権を取ったらがらりと変わるご都合主義が許されるのか」と批判したのに対し、「マニフェストは国民との契約だ。もし4年たって、国民の多くから政策を達成していないと思われたら当然、政治家として責任は取る」と切り返した場面などには、高支持率を背景とした自信と余裕がうかがえた。政権交代の余韻が残る「ご祝儀相場」が続くうちは、自民党はじめ野党が攻めあぐねる場面が続くのかもしれない。

 もっとも与野党論戦の主戦場となる衆院予算委員会には、自民党のベテラン議員が手ぐ すねを引いている。95兆円を超える10年度予算や米軍普天間飛行場の移設見直し、首相の献金虚偽記載問題などは、ここで徹底的に追及されるだろう。

 民主党はできるだけ審議を急ぎ、無難に乗り切って予算案の編成作業に専心したいだろ うが、野党になって影の薄い自民党にとっては勝負どころである。鳩山首相の献金問題を反転攻勢への足掛かりとして、ぜがひでも存在感を示したいはずだ。鳩山政権への順風が逆風に変わる兆しが見えてくるかどうかが、最大の注目点である。