シリーズ9冊で計約560万部を売り上げる人気となった若者向けの学園SF小説「涼宮ハルヒの憂鬱(ゆううつ)」がアニメ化された際、背景にしばしば登場した西宮市の喫茶店に、ファンが押し寄せているという。作者の谷川流(ながる)さんが同市出身というのが縁らしい。「ハルヒたちと同じ席に座ってみたい」と、その喫茶店「珈琲屋ドリーム」(同市甲風園1)を訪ねた。【加藤美穂子】
「涼宮ハルヒの憂鬱」は、日常に退屈しとっぴな行動を起こしてばかりいる女子高生の涼宮ハルヒが、クラスメートの宇宙人や未来人らを巻き込んで大騒ぎを起こす……といったストーリー。テレビアニメは今秋まで放送された。
作品に関連する場所を訪れることをファンらは「聖地巡礼」と呼び、インターネット上には巡礼報告サイトが多数存在する。登場人物の通学路とみられる阪急甲陽園駅周辺や、休日の待ち合わせ場所である阪急西宮北口駅周辺などを回り「ドリーム」で休憩するのが定番コースのようだ。
自家焙煎(ばいせん)のコーヒーが売り物の同店は、地元住民やビジネスマンが主な利用客。しかしアニメの放映が始まった3年ほど前から、週末にカメラを持った若者たちの集団が目立つようになったという。マスターの細海研一さん(55)は当初驚いたが「礼儀正しい人が多く、今は大事なお客さん」と話す。人気メニューは作品にも登場するアイスエスプレッソ(400円)や、作者の谷川さんのお気に入りだというホットドッグ(サラダ付き700円)だ。
「常連客が関連本やフィギュアを置いていく」といい、店の入り口にはいつのまにか「ハルヒ」スペースもできた。9月からはファン用のサイン帳が設置され、キャラクターらのイラストで埋まっている。関東や東北など遠方から来た人のメッセージもあり、「韓国からのお客さんもいましたよ」と細海さん。
細海さんは「今の若者はファストフード店がたまり場なのかもしれないけど、喫茶店で渋くコーヒーを飲むのはいいものですよ。ハルヒたちを気取りに来ては」と話していた。
〔阪神版〕
毎日新聞 2009年10月23日 地方版