社説

新臨床研修制度/医師定着にはパンチ力不足

 国家試験に合格した新人医師に2年間義務付けられる臨床研修制度が来年度、大きく変わる。必修科目を7から3科目に減らして2年目から専門分野に進めるようにしたことと、都道府県ごとの募集人員を地方に厚く振り向けたことの2点が柱だ。
 研修先の病院は若い医師を早くから戦力として活用できるほか、都市部に集中する研修医を全国に分散させる狙いがある。地方の医師不足対策の一つとして厚生労働省が5月に見直しを決定した。

 しかし、総合的な診察力を持つ医師の育成は医療の根幹だ。必修の負担減が診療科による医師の偏在解消に寄与するとも思えない。募集の枠組みの変更も、大都市圏への集中を排除する効果が上がるのか疑問だ。新制度はパンチ力不足に見える。
 現行制度は2004年度に始まった。それまでは多くが卒業した大学に残って研修していたが、教授をトップとする診療科(医局)の下働きとして扱われ、教育指導に不安があった。そこで最初に内科、外科、救急、小児科、産婦人科、精神科、地域医療の7科目を16カ月かけて学び、後半の8カ月は自分が選んだ専門科に進むこととした。

 どんな患者にも対応できる医師育成に比重を置いていたと言える。希望する病院を選べるようにもなり、学生は「施設が整い、優れた指導医が多い」と評判の東京などの民間病院に集中した。敬遠された地方の大学病院は研修医を確保しにくくなり、公立病院などに派遣していた医師を引き揚げた。現在につながる「負の連鎖」の始まりだ。
 今回の見直しで必修は内科、救急、地域医療の三つに減り、外れた科目のうち2科目を自由に選択する。医師は早々に現場で働ける。厚労省は「労働力の確保」という即効薬を選んだ形だが、総合力育成の観点からすればどうか。

 そもそも医師不足の一因に診療科ごとの偏在がある。東北大病院(仙台市)では一時、研修後に産科、小児科に入局する医師が激減した。激務と訴訟リスクが影響し、今は内科離れが顕著だ。研修時に幅広い科目にかかわっていないと、ますます偏在が進む恐れがある。
 募集人員の見直しは、都道府県ごとに定員の上限を定める。東京、京都など5都府県の定員を減らし、地方の枠を増やす。昨年度、研修医の採用実績が63人にとどまった青森県は上限が130人と大幅増。岩手53人、宮城29人、福島75人など東北6県は大幅に増やした。

 地方に環流させる誘導策として一定の評価はできる。課題は実効性の確保だ。魅力のある病院の少なさが大都市集中を招いたとすれば、今後は優秀な指導医や教育プログラムをいかにそろえるかにかかる。もっと踏み込んだ方向付けが必要だった。
 大都市圏は削減されたとはいえ、激変緩和措置が取られ、東京は採用実績(1300人)より51人減らしただけ。根本的解決には程遠い。地方の病院は新制度の利点を生かしつつ、自助努力で若手が根付く環境づくりを進めてほしい。

2009年10月28日水曜日

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