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きょうの社説 2009年10月28日
◎八ツ場ダム問題 治水検証が中止の大前提
八ツ場ダム(群馬県)の建設中止問題で、前原誠司国土交通相が流域6都県の知事との
会談で治水効果の検証を実施する方針を示したのは当然である。いつまでも「中止ありき」の硬直的な姿勢では地元の理解は得られないし、明確な理由 を示さぬまま中止に踏み切る強引な手法は事業費を分担してきた関係自治体にとっても受け入れられないだろう。ハツ場ダムが不要と主張するなら、河川工学や気象学など最新の知見を結集して治水、利水面からその具体的な根拠を示すのが筋であり、それが見直しの大前提ではないか。 そうした厳密な検証はハツ場ダムに限らず、凍結対象になった他のダム、あるいは道路 などの公共事業の妥当性を判断するうえでも欠かせない。鳩山政権が八ツ場ダム中止を「公共事業見直しの入り口」と象徴的に位置づけるなら、見直しのプロセスも極めて重要である。方針転換の理由については説得力を伴った合理的な説明がほしい。 前原国交相は6知事との会談で「(ダム中止の)基本的な方針は堅持する」としながら も「知事から意見を聞き、しっかり再検証して最終的な結論を得る」と述べた。国交相就任と同時に中止を明言し、本体工事の入札も止めた一連の言動からみれば軌道修正を図ったようにも受け取れる。ダムに頼らない治水の代替案を提示する考えも伝えたが、中止に持ち込ませる代替案でなく、治水という目的に照らしてどちらがふさわしいか判断できる中身が求められよう。 八ツ場ダムは計画発表から既に半世紀が過ぎた。こうした長期プロジェクトの場合、歳 月とともに計画の前提が変化することは十分に考えられる。建設の意義が薄れたのであれば見直すのも分かる。 前原国交相は治水計画の基礎となる洪水ピーク時の流量想定の見直しにも言及したが、 ゲリラ豪雨などが頻発する近年の異常気象を考えれば、この際、河川行政の在り方について徹底的に議論し直してほしい。そうした作業を経て出した結論こそ今後の公共事業見直しのモデルになり得るだろう。
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