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きょうの社説 2009年10月27日
◎キリン北陸閉鎖へ 企業再編の大波は容赦なく
キリンビール北陸工場(白山市)の閉鎖決定は、不況の出口が見えない北陸経済にとっ
て大きな衝撃である。キリンホールディングス(HG)とサントリーHGが経営統合交渉を進めるなか、世界最大級の飲料メーカーを目指すそのダイナミックな企業再編の大波に、北陸工場も容赦なくのみ込まれたのだろう。今回の工場閉鎖は生産の効率化による収益力の強化が狙いとされるが、未曾有の不況を 乗り切るため、生き残りをかけた企業の統合再編はこれから加速する可能性がある。地方の工場もむろん例外でなく、誘致したからといって永続的に残ってくれる保証はない。 キリン北陸工場は出荷製品に「北陸でつくる誇り」というラベルを張るほど「地域密着 」を表看板にしてきた。し烈さを極める企業間競争のなかでは、地域との長年にわたる付き合いも通用しない厳しい現実を思い知らされる。県や各自治体は、地域経済や雇用などに深刻な影響を及ぼしかねない進出企業の動向にこれまで以上に目を凝らしていく必要がある。 キリン北陸工場は1993年に操業した県誘致企業の代表的な存在で、「先端産業立地 促進補助」として2億円が助成された。製品に白山の伏流水を使うなど水の恵みをアピールし、地域イメージの向上にも一役買ってきた。工場見学を積極的に受け入れるなど産業観光の先駆けといえ、白山市の主要な観光資源でもあった。その存在感の大きさを思えば、税収や雇用の面は言うまでもなく、地元にとって幅広い分野で影響は避けられない。 キリン、サントリーHGは好調な業績を維持する食品業界の、いわゆる「勝ち組」であ る。それぞれ単独で生き残れる力がありながら経営統合を目指す背景には、国内の収益基盤を盤石にし、海外市場でも積極的な攻勢に出る狙いがある。世界市場で新たな成長戦略を描く布石として、国内の工場再編が位置づけられたのだろう。 そのスピード感や経済合理性を追求するドライさは地方としては戸惑うばかりだが、企 業の論理やそれに伴うリスクは自治体の誘致戦略や企業支援策のなかでも常に頭に入れて置く必要がある。
◎鳩山首相の所信表明 意気込みは伝わったが
鳩山由紀夫首相の初めての所信表明演説は、政権交代の勢いそのままに、通常の倍近い
異例の長さを感じさせぬ意気込みと高揚感が伝わってきた。感情を込め、平易な言葉で国民に直接訴え掛けようとしたスタイルは好印象を持たれたのではないか。ただ、自身の政治理念や国家観については、多くの時間を費やしたわりには抽象的で、 特に「友愛政治」の中身や「東アジア共同体」「緊密かつ対等な日米関係」などはイメージ先行で具体性に乏しく、物足りなさも残った。 鳩山首相は、職が見つからず自殺した息子の母親の訴えや障害者を多数雇用する企業の 例を引き、「弱者、少数者の視点の尊重」が友愛政治の原点と述べた。弱者に優しい社会を目指すことにだれも反対しないだろうが、多くの困難に直面する日本のリーダーとしては、いささか頼りなげにも映る。子ども手当の創設、後期高齢者医療制度の廃止など、民主党のマニフェスト(政権公約)の実現により、弱者重視の友愛政治が具現化できるというなら、政策の優先順位や財源、実施時期についてもっと踏み込んだ発言がほしかった。 「官僚依存から国民への大政奉還」をうたい、「戦後行政の大掃除」を断行するとした 場面は、国民の「変革」への期待を意識した力強さが感じられた。税金の無駄遣いの洗い出しや硬直化した財政構造の転換といった民主党の訴えは、政権奪取の原動力になっただけに、鳩山演説のハイライトでもあったが、やはり理念優先で、その理想へ向かう道筋は示されず、「隔靴掻痒(かっかそうよう)」の感が否めなかった。同じことは、「他の地域に開かれた、透明性の高い協力体」と位置付けた「東アジア共同体」についてもいえる。 経済情勢については、子ども手当の創設やガソリン税の暫定税率の廃止、高校の実質無 料化などによって家計を支援し、経済を回復軌道に乗せると述べた。相変わらず予算の配分論に終始し、経済成長を促して税収を増やす成長戦略に乏しい。以前から指摘されていた民主党の「弱点」だけに、ほとんど言及がなかったのは残念だ。
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