社説ウオッチング

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社説ウオッチング:郵政社長に元大蔵次官 読売のみ批判を抑制

 ◇毎日、鳩山政権に不審の念 日経、辞任の西川氏を擁護

 鳩山由紀夫首相もその人事を聞かされた瞬間は驚いたそうだ。日本郵政の西川善文社長の後任に亀井静香金融・郵政担当相が選んだのは元大蔵事務次官の斎藤次郎・東京金融取引所社長だった。20日、鳩山内閣は郵政事業の見直しに関する基本方針を閣議決定。西川氏が辞任を表明した翌21日朝、亀井氏が間髪を入れずに発表したサプライズ人事ではあった。

 だが、元大物官僚の起用は、鳩山政権がアピールする「脱官僚」の方針や、これまで旧大蔵省・財務省官僚の天下りを拒否し続けてきた経緯と矛盾しないか。新聞各社の社説は、この人事問題をこぞって取り上げた。

 結論から言えば毎日をはじめ各社が「斎藤新社長」に批判的、懐疑的な社説を掲載したのに対し、読売だけは批判を抑制し、「適材適所であれば元官僚といえども、起用をためらう理由はない。民主党が人材活用の手法を転換したのなら歓迎である」と書いたのが目を引いた。

 ◇「脱官僚」と矛盾

 おさらいをしておく。

 斎藤氏は93年から95年まで大蔵次官を務めた。よく知られるのは小沢一郎民主党幹事長との太いパイプだ。いずれも失敗に終わったものの小沢氏が自民党にいた時代の91年、湾岸戦争での国際貢献を訴えて提唱した「国際貢献税」構想や、94年、細川連立内閣時代の「国民福祉税」構想は小沢氏と斎藤氏が連携したものだった。

 その後、斎藤氏はこうした小沢氏との関係が自民党にうとまれて退官後もなかなか再就職できず、00年、東京金融取引所のトップに就任。そして一昨年秋、当時の福田康夫首相と、民主党代表だった小沢氏との間で自民、民主の大連立構想が浮上した際、官邸と小沢氏をつないだ仲介役の一人として斎藤氏の名が取りざたされたのは記憶に新しい。

 確かに亀井氏が言うように退官後14年が経過している。しかし、各社が指摘したのは、民主党の「脱官僚」方針と整合性はあるのかとの疑問と、官僚OBの起用で郵政は元の「官業」に戻ってしまうのではないかという懸念だ。

 「鳩山政権への不審の念がわく」と記した毎日はまず「民主党が日銀人事で元大蔵次官の武藤敏郎氏や元財務官の渡辺博史氏の総裁、副総裁案などを拒否したのは昨春のことだ」と指摘。今回の人事を「本当に能力のある方ならば認めるべきではないかとの結論に達した」と語った鳩山首相の発言に対しても「これまでの対応との落差についての疑問を解消するものではない」と断じた。

 加えて、毎日は斎藤氏は郵政問題について公の場で目立った発言はない点を指摘し、「自民党に煙たがられた政治的センスや剛腕は10年以上前の話で、健在かどうか」と斎藤氏の力量も不明だと書いた。首相が言うように「適材適所」かどうかの判断もできないというわけだ。

 ◇東京「斎藤氏は渡り」

 朝日は郵政見直しについて「民間との公平な競争を確保するという民営化の基本原則は守られるべきだ」と書き、「そのためには、民間出身の優れた経営者の下で組織を活性化させることが必要条件」と官僚OB起用に否定的な見解を表明。そのうえで「政治家主導の政治」を目指している鳩山政権に対し、「政権公約の理念に背くのではないか」と批判した。

 日経はさらに激しい。「政権の意に沿わない民間出身の西川氏を任期途中で追い出し、大蔵次官経験者を三顧の礼で迎え入れる。そんな組織が民間会社なのか。郵政民営化を撤回し、官業に戻すなら、そうはっきり説明すべきだ」といささか感情的なトーンだ。

 元々、日経は麻生前政権時代に「かんぽの宿」の売却をめぐる問題で西川氏の進退が取りざたされ始めた時から人事への政治介入に反対してきた。西川氏の辞任に関しても21日の社説で「総務省などの調査では明らかな不正は出なかった」と記し、「民間人に経営を委嘱しておきながら、いじめに近い仕打ちをし、果ては方針転換を理由に辞任を迫るのでは今後、民間人が進んで来てくれるだろうか」と書いている。

 例えば毎日が21日の社説で「郵政民営化の道筋が西川氏の描いていたものとは大きく異なることになるのは明らかだ」「辞任は当然の帰結だろう」と書いたのとは対照的だ。

 このほか、産経は「これでは脱官僚を掲げながら、『結局官僚依存を強めている』と批判されても反論できないだろう」と手厳しく批判した。東京は「斎藤氏は単なる天下りではなく、複数ポストを転々とする『渡り』になる」と断じて、「今回の人選と小沢氏との関係の有無も気にかかる」と書いた。

 ◇臨時国会のテーマに

 こうした中で異色だったのが読売だ。見出しは一見、他紙と同様、批判的かと思わせる「意外な大蔵次官OBの起用」で、本文では「民営化が後退するのではないかと懸念する向きもあろう」「今回、一転して大蔵OBの起用に踏み切ったことで、一貫性を欠くとの見方もある」とも書いている。

 だが、結論的にはこうした見方を社説として肯定するのではなく、「『官から民へ』という郵政改革の原点に沿った経営を望みたい」と斎藤氏への注文に重きを置いた社説となっている。従来、読売は「官僚OBを排除するな」と主張してきたからだろうか。

 26日から始まる臨時国会ではこの人事も論点となろう。高い内閣支持率を維持している鳩山政権だが、こうしたご都合主義のような話から風向きが変わっていく可能性もある。引き続き、首相らの説明を注視していきたい。【論説委員・与良正男】

毎日新聞 2009年10月25日 東京朝刊

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