|  | きょうのコラム「時鐘」 2009年10月26日
 堺屋太一さんの小紙連載小説「三人の二代目」は50回を超え、主人公のうち、上杉景勝と毛利輝元とが表舞台で活躍する 堺屋さんの筆は分かりやすい。輝元を後見した毛利元就を、「二十代の孫を社長にし、老相談役が会長兼CEOに復帰したようなもの」と書く。羽柴秀吉の側近の増田長盛は、「経理と法令に詳しい…総務課長のような立場」と紹介する 小説はいま、上杉家の後継争いと、織田対毛利の中国戦線の2つが舞台である。「義か利か」の章。敵を金で切り崩して勝利を手にした景勝は、「利で購(あがな)っても、義は義」と言う。羽柴秀吉と戦う輝元は、義に背き、利に走って味方の武将を見捨てた秀吉の姿を目にする 歴史の勉強だけを目的に、小説を読む向きは少なかろう。激動の時代に生きた登場人物に、現代のあれこれを重ね合わせるようにして文字を追う。歴史小説という鏡は、いまと未来も映す。それを読み取る楽しみがある 章が改まっても、「義か利か」の物語が進んでいくだろう。利を求めることでは戦国乱世に劣らぬいまの世である。義の旗印の行方を、じっくりと読み味わいたい。 |