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社説

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JR西日本―歴代の社長にも問いたい

 次々に明かされるJR西日本の隠蔽(いんぺい)体質には驚くばかりだが、司法の場でも歴代のトップに対して責任を問う可能性が出てきた。

 05年のJR宝塚線(福知山線)脱線事故をめぐり、神戸第一検察審査会が井手正敬(まさたか)氏と南谷(なんや)昌二郎氏、垣内剛(たけし)氏の元社長3人を業務上過失致死傷罪で起訴すべきだという結論を出した。

 神戸地検は、96年当時に鉄道本部長だった山崎正夫前社長だけを同じ罪で起訴した。その年に現場付近のカーブを半径600メートルから304メートルに変えたにもかかわらず、自動列車停止装置(ATS)を置かなかったことを問題視したものだ。

 審査会は、3氏を「安全対策の最高責任者」と位置づけた。急なカーブに変えたのに、時速約120キロで走る新型車両を大量に導入し、余裕のないダイヤへの改定を重ねた。それで危険が格段に増したとわかったはずなのに、ATSの整備を部下に指示しなかったことに過失がある、というのである。

 国鉄が分割・民営化され、JR西日本は経営基盤が弱いところから出発した。不採算のローカル線が多かったため、私鉄王国と呼ばれた京阪神で、運行サービスを高め、競争力を強めて反転攻勢に出る戦略をとった。

 問題は収益を重視するあまり、公共交通機関が最優先すべき安全が後回しになったのではないか、という点だ。それがATS整備の遅れに結びついたのなら、井手氏らは判断を誤ったことになる。

 地検が再び不起訴にしたとしても、審査会が改めて起訴すべきだという結論を出せば、裁判所が指定する弁護士が3氏を起訴する。市民感覚を背に、従来なかった裁判が始まるわけだ。

 公判の場では、刑法上の責任だけではなく、悲惨な大事故を引き起こすに至った背景も詳しく明らかにされていくに違いない。この会社の経営姿勢がはらんでいた危うさも浮かび上がることだろう。井手氏らがどう語るのかを聞きたい。

 原因調査にあたった国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(現・運輸安全委員会)の委員に不明朗な働きかけをしていた問題では、佐々木隆之社長が記者会見で「組織的な行動と思わざるを得ない」と認めた。働きかけの中心だった山崎前社長と土屋隆一郎副社長は、取締役を辞任した。

 JR西日本は、宝塚線事故と同様にATSが不備だった96年の函館線脱線事故の資料を、事故調査委員会や兵庫県警に提出していなかった。こちらの問題でも、実態を調べている第三者委員会が「会社側に何らかの作為があったのではないか」とする中間報告をまとめた。

 JR西日本が問われるべきものはあまりにも多い。

アフガニスタン―困難な現実を見据えつつ

 北大西洋条約機構(NATO)加盟の国防相が一昨日、スロバキアで会議を開き、アフガニスタンの国軍と警察の訓練強化などで合意した。

 反政府勢力タリバーンの軍事的な攻勢のもとで、米国のオバマ政権は兵力増派の決断を迫られている。だが、米国内の世論の支持は低下している。派兵する欧州諸国には撤退を望む空気が広がりつつある。国防相会議の合意は、米欧とも出口戦略が見えないまま、とりあえず一致できることだけを決めた苦渋の選択だ。

 大統領選の投票から2カ月間、選挙の不正をめぐる混迷が続いたアフガンでは、カルザイ大統領とアブドラ前外相による決選投票の実施が決まった。

 カルザイ氏の得票は、不正票を差し引くと当選に必要な過半数を割り込んだとされる。決選でも不正が続けば収拾のつかぬ混乱に陥る恐れもある。タリバーンの妨害も予想される。

 パキスタンでは、アフガン国境地帯にある武装勢力の拠点制圧を目指して軍が大規模な地上攻撃を始めた。この地域には1万人以上の武装集団が潜み、自爆テロなどでパキスタンの治安を急速に悪化させている。

 軍はこれまでも何度も制圧を試みながら失敗を重ねてきた。その結果、アフガンの武装勢力や国際テロ組織アルカイダの聖域と化し、両国を不安定化させ、世界にテロをもたらす震源地になってしまった。

 対立するインドを牽制(けんせい)するために武装勢力を利用しようとするパキスタン軍部の思惑や、大土地所有制による深刻な貧困も背景にある。

 大軍を動員しても、冬に向かう時期に山岳地帯で行う作戦は困難だ。制圧の失敗は、核を保有するパキスタンの一層の動揺につながりかねない。

 オバマ政権の戦略は、アフガンとパキスタンを一体ととらえ、軍事と民生支援の両面からテロとの戦いを進めることだ。

 軍事力による解決が難しい以上、アフガンの安定化策やパキスタンでの貧困撲滅のための社会開発などで国際社会が連携し、テロの温床となっている条件を民生支援で取り除いていくことが急務といえる。

 両国の危機が連動して深まることだけは避けたい。

 アフガン大統領選の決選投票では、世界から正統性を認められるよう、しっかりとした監視が必要だ。再選されるとしてもカルザイ政権の信頼はすでに傷ついている。大統領選後のアフガン統治のあり方は、国際社会としても再考の必要があるだろう。

 たとえ時間がかかっても、民心が武装勢力に向かわないような策を重ねていくしかない。日本も地に足のついた支援策を打ち出していくには、こうした現地情勢を踏まえねばならない。

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