巨人−中日 7回表2死二塁、ブランコの右前打でホームに荒木突入、無事に生還。捕手阿部、左から2人目は次打者和田=東京ドームで(由木直子撮影)
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中日が2年ぶりの日本シリーズ出場へ、崖っぷちに追い込まれた。4−2、2点リードで迎えた8回、セットアッパーの浅尾拓也投手(25)が逆転を許し、4−5で敗れた。これで対戦成績は1勝3敗。王手をかけられ、残る3試合、全部勝つしかなくなった。
竜は死んでいない。体内にはまだ熱い炎が燃えている。選手会長・荒木が前を向いた。「みんな、一生懸命やってますよ。向こうも一生懸命やっているワケだし…」
全員が死力を尽くした。ナインの声を代弁した荒木。そのユニホームはアンツーカーの赤い土がこびり付いていた。「一生懸命」。その熱い象徴が荒木だった。
バットでは白球に食らい付いた。1回、森野の先制2ランの呼び水となる右前安打を放った。3回は右前に落ちるテキサス安打で二塁まで走った。7回は1死二塁から左前打。勝ち越し劇のおぜん立てだった。すべて2ストライクに追い込まれた後で打った。必死で食らい付いた、気迫の3安打だった。
足は全力で回転させた。7回2死二塁。ブランコの右前安打で二塁からホームへ向かった。まるで獲物に食らい付く野生動物。敵の“急所”を逃さなかった。「あそこしか空いてなかったから。走りながら見ていました」。ブロックする捕手・阿部の背後にわずかな空間があった。頭から飛んだ。恐怖心などみじんもない。左腕を差し込んだ。間一髪、セーフだ。
守っても必死のダイブが一時は危機を救った。2点リードだった8回1死一、二塁。ラミレスの一、二塁間への打球に飛び付いた。捕った。抜けていれば適時打確実の打球だった。
「この間、一度あそこを抜かれていましたから。2試合前に。少しだけ寄ってました」
心は熱く燃えても、頭は冷静にさえた。21日の第1戦。3回2死一塁でラミレスに一、二塁間を破られていた。記憶がよみがえった。ほんの少し、一塁側へ守備位置をずらした。気迫のダイブ。アウトにされたラミレスが、信じられないというように首を振った。
目の前に突きつけられた現実は厳しい。まさかの逆転負け。もう後がない。3戦3連勝しか、日本シリーズへ進む道はない。土俵際。徳俵かもしれない。だが、あきらめない。熱い思いは荒木の姿が物語る。
もう言葉はいらない。「何も言うことがないです。監督が言っていることの意味が分かりますよ」。荒木はそう語った。落合監督が繰り返している言葉。それは「勝つか負けるかだけ」。それがすべて。勝つだけだ。 (生駒泰大)
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