筑紫哲也が「朝日を辞めてＴＢＳに行きたい」と語った夜

●回顧録

　筑紫哲也氏が亡くなって１１月７日ではや１年――。一周忌を迎えるこのタイミングで、氏をテレビ界に誘った、“ニュースキャスター筑紫哲也”の「生みの親」といえる人物の回顧録が出版されるというので話題になっている。「無名記者の挽歌」（中央公論新社　１０月２５日発売）だ。

　著者の中島清成氏は、朝日新聞に３１年、日刊スポーツに１９年勤務したマスコミ人。中島氏が朝日時代に「テレビと新聞の共生」を目指して誕生した番組こそ“キャスター筑紫”のデビュー番組となった「こちらデスク」（テレビ朝日）だった。

　同番組の名付け親でもある中島氏によると、筑紫氏は当時から「『こちら――』を多事争論の場にしたい」と語るなど、やる気マンマン。後年「ニュース２３」（ＴＢＳ）のキャスターとして活躍する片鱗（へんりん）がうかがえたという。

　不思議なのは、当時は朝日のエース記者だった筑紫氏が、ライバル関係にあるＴＢＳの看板キャスターに転身した経緯。中島氏はこうつづる。

〈筑紫君自身、その後朝日ジャーナルの編集長として華々しく活躍したものの、編集局の記者としては必ずしも重用されていなかった。むしろくさっていた〉

　四谷のスナックで筑紫氏から「朝日を辞めて、ＴＢＳに行きたい」と相談を受けた中島氏は懸命に慰留したそうだが、筑紫氏の決意は固かったという。

　畏友（いゆう）の“挽歌”を、泉下の筑紫氏はどんな思いで聞いているのだろうか。

（日刊ゲンダイ2009年10月21日掲載）