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人間を重視する

2009年10月24日0時11分

 最近M・アルベール氏の「資本主義対資本主義」(邦訳竹内書店新社)がいろいろの場で話題になっている。

 1992年に出たこの本が取り上げられるのは、そこでアングロサクソン型の資本主義として取り上げられた米国経済がつまずき、当時「ライン型」としてドイツ、日本の資本主義の特長を示し、アングロサクソン型に比べると、派手ではないが長期的にはこれをしのぐものとして指摘したからだろう。社会主義が崩壊し、米国型資本主義には対抗するものがなくなった、と誰もが思った時に出された重要な提言だった。アングロサクソン型が個人の成功を重視し近視眼的なのに対し、ライン型は働く人たちの教育を重視し、投資においても中・長期の展望に立ち、社会貢献にも配慮するとした。

 残念ながら日本はその特長を自ら評価せず、その後は急速にアングロサクソン化してきた。それはアジアを中心とする新興国経済が拡大した中で、国内でも海外でも金融の拡張作用を限りなく発揮して成長した米国経済が、短期的には目を見張る成功となったことから選んだことだろう。しかしそれが長続きするものではなかったのは明らかである。

 ならば大きな痛みを伴うことではあろうが、その修正はライン型への方向ではないか。良く考えればライン型資本主義は、公益や社会的な公平、使命感などを大切にし、長い目で見て良いパフォーマンスを生み出す基である「人間を重視する」面が大きな特徴だと言える。今では日本にとってもこの方向転換はハードルが高いが、元々備わっている特質である。政治が思い切って意志を立て、その方向に資源配分を変えれば道はひらくのではないか。(瞬)

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 「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。

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