証言台に座わる押尾被告から約7メートル。香織さんの父は傍聴席の最後方中央に。押尾被告が香織さんとの薬物のやり取りや性交渉について証言するたび、悲しみと怒りに顔がゆがんだ。
閉廷後、報道陣約50人にもみくちゃにされながら東京地裁前の路上へ。押尾被告の印象については「姿を見ても何も言うことはないが、(MDMAを飲んだ香織さんに異変が起きてから)なんで3時間も救急車を呼んでくれなかったのか。(岐阜県の自宅に遺骨が安置してある)娘には、まだ何も報告できない」と号泣しながら、胸の内を語った。
さらに、傍聴した感想については「判決がまだ先なので何も言えないが、(裁判で明らかになった事実などが)こんなにひどいことやとは思いませんでした」と険しい表情。「押尾被告の誠意や謝罪を感じましたか」という質問には「そんなことは考える余裕がないが、それ(謝罪)はなかった」と振り絞るような声で語るのが精いっぱいだった。
この日、遺族は両親と香織さんの弟夫妻が岐阜県から上京したとみられ、父だけが傍聴。「娘が亡くなったことについては、いまだ深い悲しみが消えない」という遺族の心情を綴った文書も報道陣に配布した。さらに、その中で報道各社が香織さんの実名や写真を報じることについて「真実の報道が目的なら」という意向を初めて示したほか、「もう少し早く適切な医療措置が講じられていれば、娘が亡くなることはなかったのではないか」と綴った。
押尾被告の裁判はあくまで薬物使用に関することが主体だが、警視庁は香織さんに対する保護責任者遺棄致死容疑を視野に押尾被告の聴取を続行中。遺族は、その立件に祈るような期待を寄せている。