きょうのコラム「時鐘」 2009年10月24日

 俳句や短歌には縁遠い身だが、先ごろ北國文芸十月賞一位に選ばれた短歌は、思わず口に出して読んだ。「老い母がメールにつづる『ばていそぶ』ようよう解るボディーソープと」

メールに挑む好奇心に満ちたおばあちゃんである。片仮名は、確かにてこずる。ほほえましい光景だが、腹立たしくもなった。暮らしに押し寄せる片仮名言葉に、悪戦苦闘する人がいるのである

作者の母は、78歳とか。いわゆる「後期高齢者」。「後期と呼ぶとは何事ぞ」とあれだけ物議をかもした言葉が、いまもまかり通る。慣れは恐ろしい。当初抱いた不快感をさらりと忘れた鈍感さに、あらためて気付かされる

新型インフル騒ぎでも、耳障りな言葉が出てきた。ワクチンが優先接種されるのは、「基礎疾患を有する人」だとか。「基礎疾患」という言葉に、たまらない息苦しさを感じる。そう呼ばれて、懸命に持病と闘う人は、どんな思いを抱くだろう。専門用語なら、身内だけで使えばよい

自戒を込めてだが、大切な日本語が乱れに乱れ、気にもとめない鈍感さが広がる。新型インフルに劣らず、事は深刻ではないか。