◇ 一流騎手の調整ルーム入室時間 ◇
・競走に騎乗する騎手は、その競走に関して全力を発揮しなければならない。
・競走に騎乗する騎手は、騎乗する馬の全能力を発揮させなくてはならない。
・競走に騎乗する予定の騎手は、出馬表の発表後、2時間以内に所定の調整ルームに入室しなければならない。
多少の表現の違いはあるが、競馬施行規定に騎手が競馬に出場する上で、行なうよう義務づけられていることだ。義務づけられているということは、定められていることを行なわなかったり、行なえなかったりした場合は、なんらかの制裁、いわばペナルティーが科せられるということだ。ペナルティーは、免許取り消しから口頭で少し注意するだけという軽いものまで色々だ。レース中の出来事で制裁された騎手のことは、競馬ファンの方も直ぐに分かるだろう。一番やっかいなのが、調整ルームの入室時間に遅れたりしたときだ。1時間くらいならなんてことはないだろうが、平気で2、3時間遅れる者もいる。私が騎手をやめて、7〜8年くらい経つが、私が騎手だった当時の騎手と、今の騎手が色々な面で大きく変わったかというとそうでもない。騎手は所詮騎手、いい意味騎手であり、悪い意味騎手である。調整ルームの入室時間に5時間くらい遅れても「レースで乗る馬が心配で、心配で、厩舎でずっと見ていました」なんてことを躊躇せずに平気でいえるくらいじゃないと、一流の騎手にはなれない。
10数年前のことだ。土曜日のレースが終わってから、GTに騎乗する予定の騎手数人が京都から東京に向かった。誰かが「早く調整ルームに着いた者は、明日はどこにも(5着以下を意味する言葉)こないやろ、馬場掃除やな」そう言った。どういう訳か、一番に着いた者は、本当に勝負にならないような気に、その場にいた者はなったらしい。
数人の騎手がレース当日に裁決委員に呼び出され、レースの前で忙しいのに20分も注意されたらしい。そりゃそうだ。府中の調整ルームに到着したのが、GTが行なわれる当日、つまり12時を過ぎていたということだ。みんなはどこに調整をしにいっていたのか。裁決委員が20分かけて話したこととは、前日の夜、GTに騎乗する予定の騎手数人が、銀座周辺を歩いているのを見かけたという電話が十数件かかってきている。中には新聞社に電話した者もいる。記者が事実かどうか聞きにきている・・・・。
裁決委員からは「前日は、銀座で酒なんか飲んでいない、東京駅から直ぐに府中に向かった。そう答えるように」「何事もなかったのだから、事を大きくしてもなんにもならないからな。今後は、直ぐに調整ルームに入室するように」そんな内容のことだったらしい。勿論それ相応の注意もうけたという。
騎手だって、たまには、入室が遅れることもあるんですよ、調整ルームへの。
でも、レースでわざと負けようなんて思って遅れる騎手は一人もいません。レースになれば全力です。勝つことを考えているから、調整ルームに一番に着いた者は負けるなんていわれると、規則まで破る。絶対に一番には入室しないと。それほど勝ちにこだわるから一流に成れるんです。
ちなみに、聞いたところによると、調整ルームへの入室が遅い者が、今でもリーディングの上位らしいですよ。まあ遅れても2,3分ですけどね。今度、どうですか。「おまえ調整ルームの入室時間は守っているか、遅れんじゃないぞ」パドックで、買おうと思っている騎手に、こんな風に声を掛けてみては。苦笑いしたり、エッという表情をして顔色が一瞬でも変わったら、その騎手は買いですよ。その時のレースでこなくても、そのうちきっといい馬券を取らせてくれますよ。ゆっくり調整ルームに入るくらい落ち着きがあれば、レースでのミスは少ないし、展開もよく見えるはず。一流のウデを持っている証拠です。うまい騎手、下手な騎手。調整ルームの入室時間で見分けてみるのも一つの方法かも・・・。
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