民族時報 第1169号(09.10.15)


【焦点】大規模な援助提供 事実上の制裁解除

    温家宝中国首相の訪朝

 中国の温家宝首相が四日から六日まで、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を公式親善訪問した。この訪問で大きく注目されたのは、温首相と金正日国防委員長の会談で、金国防委員長がどのような発言をするかだった。

 朝鮮中央通信よると、五日に行われた会談で金国防委員長は、朝鮮半島の非核化問題に関して、朝鮮半島の非核化は金日成主席の遺訓であると強調、朝米二国間会談を通じて両国間の敵対関係を必ず平和的な関係に転換するべきだと述べた。また、朝米会談の状況を見たうえで多国間会談を行う用意を表明し、多国間会談には六者協議も含まれるとし、「朝鮮半島非核化の目標を実現しようとするわれわれの努力に変化はない」と述べたという。

 これは九月二十二日にニューヨークで行われた米中首脳会談で、オバマ大統領が胡錦濤主席に「六者協議の再開につながるなら米朝協議は有益だ」と発言したことに対して、「六者協議」に直接言及して、一歩接近させたということができる。これによって、朝鮮半島問題への影響力の喪失につながるとして、朝米直接協議に警戒感を抱く韓日両政府を説得する材料が提供されたといえる。また、オバマ政権にとっては、朝米直接協議の名分をえたことになり、同時に北朝鮮が米国に直接協議の開催をうながした、と分析される。

 北朝鮮と米国の首脳の朝米直接協議と六者協議に関連する発言を引き出したのが、ともに中国のトップとナンバースリーであることを考えるなら、中国が朝米直接協議・交渉による朝鮮半島情勢の安定化に対して、きわめて積極的であることがわかる。温首相は十日から北京で李明博大統領、鳩山首相が参加して行われた韓中日首脳会談で、朝米両政府の意向と、今後の方向性を詳細に説明したようだ。

 しかし、温首相訪朝の最大の焦点は、「対北制裁は事実上終結した」ということだろう。韓国のインターネット新聞の統一ニュースは七日付で、韓国政府の前職高位当局者の言葉として「米国は制裁を継続するというが、すでに制裁は朝中経済協力で事実上無力化した」と報道した。実際、温首相は訪朝の初日、金英逸首相と「経済援助に対する交換文書」を締結した。中国が提供を約束した食糧・エネルギーの無償援助は二千万ドル(約十八億円)の規模とされる。このほか、技術・教育・観光分野の協力協定を結んだ。その総額は二億ドルにのぼるとの指摘もあり、それも実際は経済支援だと解釈されている。

 統一ニュースはまた、別の外交安保専門家が「韓米の制裁は言葉だけのものになった。制裁によって北朝鮮を対話に復帰させるというのは無意味になった。中国がそれを解除した」と評価したと報道した。

 制裁強化より制裁解除による対話こそが、朝鮮半島の核問題解決の近道である。これが、十五年にわたる朝鮮半島核危機の歴史が示している教訓だ。


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