60年ぶりに行われた桜井市外山の桜井茶臼山古墳(全長約200メートル、3世紀末~4世紀初め)の石室内調査。最大の難関は、石室から木棺を取り出す作業だった。古墳は国指定の史跡で、なるべく現状を変更せずに行う必要があるため、県橿原考古学研究所は実験を繰り返した。その結果、石室を覆う天井石12枚のうち、動かす石を最小限にして、そこから木棺を安全に取り出す作業を成功させた。【高島博之】
8月に始まった石室内調査で、木棺は60年前とほぼ同じ形で確認された。しかし、石室内に残すと腐食が進む可能性が高く、取り出して保存処理することになった。
9月初め、奥山誠義主任研究員が石室と木棺の20分の1模型を製作し、実験を繰り返した。その結果、南側の石3枚分のすき間から木棺を取り出せることが判明した。
本番の10月4日午前9時。発掘調査を指揮する豊岡卓之総括研究員ら4人と作業員10人が石室のある後円部に集まった。ビニール製の緩衝材を巻き付け、木製の台に木棺を固定し、取り出し作業を開始。機械のつり上げなどに使うチェーンブロックで、台ごと木棺を持ち上げながら、徐々に石室の外に出していった。
木棺と天井石のすき間がわずか数センチになることもあったが、作業は1時間10分かけて無事終了した。奥山さんは「計算通りだったが、ほっとした。このような大きな古墳で木棺を取り出す機会は、今後もないかもしれない。いい経験でした」と笑顔で話した。
木棺を取り出したことで新たな発見もあった。これまでは木棺を直接石室に置いたと考えられていた。しかし、木棺を置くために岩盤をU字型に掘り下げ、その上に水銀朱を塗った石や土を重ね、丁寧に据えつけていたことが判明した。
木棺は橿考研に運び込まれ、約2年かけて保存処理される。
毎日新聞 2009年10月23日 地方版