国際結婚した夫婦の破綻(はたん)に伴い、一方の親が子を連れ去るトラブルが相次いでいる問題で、「米国に住んでいた子を日本に抑留している」として、米国の裁判所から誘拐罪で起訴された首都圏在住の50代の日本人女性が毎日新聞の取材に応じた。国際結婚の紛争解決ルールを定めた「ハーグ条約」を日本が締結していないためトラブルが多発しているとの批判が欧米から出ているが、女性は「子どもは父親を嫌がっている。条約を締結すれば子は米国に連れ戻されてしまうのでは」と、政府の慎重な対応を望んでいる。【工藤哲、田村彰子】
女性は米国留学を機に知り合った米国人男性と80年代に結婚。米国で子ども2人を出産した。一家は92年に日本で暮らし始めたが、生活習慣のギャップや夫の暴言などで不仲になったという。女性はその後夫と別居し離婚訴訟や、子との接近禁止などを求める仮処分を日本の裁判所に起こし勝訴。99年に正式に離婚した。夫は離婚前に帰国した。
一方で、前夫は帰米後「夫の法的な親権行使を意図的に妨害し、子どもを日本に抑留している」として米国の検察に被害届を出し、米国の大陪審は子どもを米国から連れ去った誘拐罪で起訴した。女性は反論する機会がなかった。
女性は米国で民事訴訟も起こされ、米国の弁護士を頼んで500万円以上の出費をした。その後、国際刑事警察機構(インターポール)が2人の子を「失踪(しっそう)人」として捜していることを知り驚いた。女性は日本の法律には違反していないため、出国しない限り逮捕されることはない。しかし逮捕を避けるため国外渡航できない。
ハーグ条約を巡っては、子を日本国外に連れ出された日本人の親の一部からは「早期解決につながる」と締結を望む声が出ているが、この女性は慎重だ。「日本が条約を締結すれば、子どもたちは意に反して父親の元に連れ戻され、私も刑事責任を問われるかもしれない。日本政府は何が子の幸せになるのかをよく考えて締結の可否を判断してほしい」と訴える。
==============
■解説
国際結婚の破綻を巡る子どもの連れ去り問題は、福岡県で先月、米国人男性が子どもを連れ去ろうとして逮捕される事件に発展。今月16日には米など8カ国の大使らが千葉景子法相にハーグ条約締結を要望するなど、日本と欧米間の新たな外交問題になってきた。
一方が外国人の夫妻の離婚件数は増加傾向にあり、同じようなトラブルは日本の各地で相次いでいる可能性が高い。しかし、子を日本に連れ戻した親の中には海外で誘拐罪などに問われたケースもあり、問題がこじれるのを避けるため声を上げずにいる人が少なくない。表面化したのは氷山の一角だろう。
国際結婚の破綻については、日本人が海外から子どもを連れ帰る例が英、米、仏、カナダだけで168件(5月現在)あることが4カ国の在日大使館の調査で判明。一方で、日本に住む子が外国人配偶者によって海外に連れ出されるケースが01年以降少なくとも9件確認されている。
この分野に詳しい弁護士が少ないこともあり、トラブルの実態はほとんどつかめていない。「まともに相談に応じてもらえなかった」と外務省や在外公館の対応を批判する当事者も少なくない。政府は早急に実態把握をする必要がある。【工藤哲】
毎日新聞 2009年10月20日 東京朝刊
10月20日 | 国際親権トラブル:日本人女性に「誘拐罪」--米で起訴 |
10月19日 | 国際親権トラブル:日本人女性に「誘拐罪」 米国で起訴 |