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きょうの社説 2009年10月23日
◎クラフト・ツーリズム 世界工芸都市発信の切り札に
工芸の魅力を通して旅の感動を提供する「クラフト・ツーリズム」は、金沢の資源を最
大限に生かせる有望分野であり、取り組む価値は十分にある。金沢市内の工房で2日間にわたって試行されたが、参加した外国人からは精緻な技に感 嘆の声が上がり、完成された作品だけでなく、作り手の顔や制作過程を積極的に公開することが工芸の魅力発信に効果的であることが証明された。クラフト・ツーリズムとは、金沢が培ってきた「創造」のエネルギーを分かりやすくみせる試みと言ってよいだろう。 クラフト分野でユネスコの創造都市ネットワークに登録された今年は、金沢にとって「 世界工芸都市」としての知名度を高める新たな出発点である。クラフト・ツーリズムは工夫次第で工芸都市の発信力を強め、海外誘客の切り札にもなろう。 クラフト・ツーリズムは「クリエイティブ・ツーリズム(創造的観光)」の一つで、こ の言葉は日本ではまだなじみが薄いが、ユネスコが推進し、観光の新たな概念として関心が高まっている。 金沢では「おしゃれメッセ2009」の一環として17、18日に行われ、世界創造都 市フォーラムなどに出席した外国人が、金沢卯辰山工芸工房や加賀友禅、陶芸の工房などを巡り、作家から工程や技法などの説明を受けた。 こうした「工芸体験」はこれまでも単発的に行われてきたが、クラフト・ツーリズムと して魅力を高めるには感動を与える仕掛けがいる。工芸のジャンルごとに見せ場も違ってくるだろうし、場の雰囲気を重視するなら外国人に関心の高い町家の工房も効果的である。 作り手との触れ合いは、訪れる人に強い印象を与えるに違いない。そのことによって工 芸品を見る目も深まり、購入意欲につながっていくだろう。作家や職人など工芸界を巻き込み、従来の工芸体験を超えた質の高いプログラムを官民一体で練り上げていきたい。 クラフト・ツーリズムは主に海外客が想定されているが、そのノウハウや具体的なプロ グラムは国内観光客や修学旅行の誘致にも役立つはずである。
◎新過疎法制定 野党案も入れ早期成立を
来年3月末で期限切れとなる現行の過疎法に代わる新法の制定作業が政権交代で滞って
おり、石川、富山県など全国の関係自治体をやきもきさせている。民主党は、政府・与党の政策決定一元化、政府による法案提出を原則としているが、これにとらわれず、新過疎法の今年度内の成立を期してもらいたい。これまで与党として超党派の議員立法を主導してきた自民党は、衆院選前に新過疎法の 概要をまとめ、ソフト面の過疎対策を充実させる方針を打ち出している。「公共事業に偏らない振興策」を主張してきた民主党としては、ソフト事業重視の考え方で歩調を合わせられるはずであり、先行している自民党案の良いところを生かして法案づくりを急いでほしい。 新過疎法の制定は、攻守ところを変えた民主、自民両党が是々非々の立場から協力し合 って国会の立法機能を発揮できるかどうかの試金石ともいえる。 過疎法は、過疎地域に指定された市町村に対し、地方交付税で補てんされる過疎債の発 行や公共事業の補助率かさ上げなどの財政支援を施すことを規定している。1970年に10年間の時限立法で制定され、3回にわたり超党派の議員立法で更新されてきた。 民主党政権は政策決定の一元化を基本としているものの、新過疎法に関しては、原口一 博総務相も従来通り与野党の議員提案での制定が望ましいとの見解を示している。妥当な考えであるが、民主党の法案づくりはまだ手付かずの状態という。来年度の政府予算に新たな過疎対策を反映させるには、過疎地域の指定要件などを早急に詰めておく必要があるとされ、作業を急ぐ必要がある。 自民党が概要をまとめた新過疎法案は、過疎債を活用して新たな基金をつくり、医師の 確保や巡回バス運行などのソフト事業にも使えるようにするのが特徴である。民主党内には自民党案に乗ることに抵抗もあるようだが、新法制定の主導権争いに時間を費やす余裕はないのであり、自民党案をたたき台にして与野党調整を進めるのもよいのではないか。
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