1回なのか。2回なのか。医療従事者や妊婦への接種回数をめぐり、方針が迷走した新型インフルエンザのワクチン。流行期に入り感染が広がる中、1回接種で人数を倍にしたい厚生労働省事務方に、政治主導で「科学的根拠がない」とする足立信也政務官が“待った”をかけた形だが、既に接種が始まった医療現場には困惑が広がっている。
▽二転三転
「一体何の科学的根拠があってそこまで言えるんだ!」。接種回数を検討する厚労省の意見交換会が開かれた16日夜。結果報告を受けた足立氏は声を荒らげた。
交換会では、これまで免疫獲得には2回必要としていた接種を、13歳以上は妊婦や持病がある人も基本的に1回とする方向で専門家の意見が一致。前日夜、足立氏は同省幹部から「明日の会議で接種は1回でも有効という意見がまとまりそうです。方向転換の発表をしていただきたい」と報告を受けた。
「すぐに結論を出す必要はない。専門家が意見を言うのはいいが、厚労省が決定したという誤解は与えるな」。医師でもある足立氏は「1回接種」は健康な成人での調査が根拠だったことから、妊婦や持病がある人に適用するのは拙速と判断、幹部に念押しした。しかし、結果は厚労省の方針とほぼ同一視する形で各メディアで報じられた。
▽省内不一致
足立氏は19日夜、急きょ専門家会議のメンバーに別の感染症専門家を加えた意見交換会を開催。「慎重に検討して判断する」と事務方案を事実上ひっくり返し、翌20日、20代から50代の健康な医療従事者については接種を1回にするものの、妊婦や持病を持つ人は当面2回とする方針を公表した。
外科医の経験があり、多くの医師や研究者らとネットワークを持つ足立氏は、新型インフルエンザ対策をめぐって事務方と対立。「つまりは、政治主導ではなく事務方が接種回数を決めたように見えて、不愉快だったんだろう」。ある幹部は強く憤る。2度目の意見交換会についても「われわれは信用されていないということだ。この先が思いやられる」とため息をついた。
別の幹部は「医師だからといって専門知識を振りかざしたり、自分に近い専門家らの意見ばかり重用するなら、医療行政の私物化につながる」と指摘する。
▽困惑の現場
省内の対立で翻弄された医療現場には困惑が広がる。妊婦と中高生は新たな臨床研究も予定され、今後また接種回数が変わる可能性もある。
「2回で約6千円という金額に接種をためらう人もいる。1回か2回かというのは大きな問題」と話すのはさいたま市内のクリニック院長。「多くの人にワクチンをという考えは分からなくもないが、あまりにも現場の混乱を考えていない対応」と批判する。
ワクチンの準備に追われるある政令市の担当者は「厚労省は現場のことが頭にないのではないか」と憤る。「ぎりぎりのスケジュールで準備をしている。こんな基本的なことがころころ変わるのでは計画が立てられない」。
|