明日から第2戦ロシア大会が始まるというのに、未だ初戦の疲れを引きずっています。
GP初戦。しかも、浅田真央選手とユナ・キムが直接対決する試合。
なんだか最後まで純粋に楽しめないまま週末が終わってしまったような気がします。
Twitterのほうへいただいたコメントに返答する形で浅田選手のSPを
「去年のFSの短縮版。正直、若干期待外れ」
と感想を書きました。
SP終了後に感想やレポはアップできていませんでしたが、朝の練習時に見て思ったことと本番の演技を見て感じたことに大差がなかった記憶もあります。ノーミスで滑ったキムに対し浅田選手は3アクセルがすっぽ抜けてしまう大きなミスが出ましたから、単純にスコアを見る以上に、金曜夜の二人の出来は対比的でした。
金曜の試合が終わった後、近くのレストランで軽く食事をして、その後ホテルのバーで友達数人と飲んでいました。そろそろ日付もかわろうかという頃、織田信成選手や安藤美姫選手を指導するニコライ・モロゾフが声をかけてきました。自分たちのグループの一人と顔見知りだったようです。
最初は「そんじょそこらで見かける酔っ払い」という感じでした。
スイスの友人とは「俺は昔スイスに住んでたことがある」だのと他愛もない会話に終始していたのが、「日本人で・・・」と出身地を訊かれた自分がそう答え、それをきっかけに始まった会話は数分後、罵詈雑言の応酬へ。
「Parisの罵詈雑言」−語呂的にはキャッチーかもしれませんが、差別用語で罵られた側はたまったもんじゃないですよ。
"So what do you think about Japan losing to Korea today?"
(今日、日本が韓国に負けたってこと、どう思う?)
と、ニコライ・モロゾフ。
「浅田真央選手がユナ・キムに・・・」じゃなくて、「日本が韓国に負けちゃったことについてどう思うよ?」と、端っから個人名を無視していることにいやらしさを感じるも、
"Yu-Na was great today, but it's not a war. It is just a skating competition."
(ユナの出来は素晴らしかった。けれどこれ戦争じゃないでしょう。たかがスケートの試合じゃないですか)
と自分は答えました。どんな答えを期待していたのか彼、こんな暴言を吐きました。
"You're stupid to come all the way from Japan to see this competiton. Japanese people are stupid."
(こんな試合を見にわざわざ日本から来るなんて、日本人ってバカだな)
ここまではまだ苦笑いを返す余裕もありました。
熱心さも時には奇異に見られることもあるだろうし、という理由で。
彼はこう続けました。
"Japan is losing everything. What does Japan have? Toyota? Nissan? Sony? Panasonic? That's all. I hate Japanese. If I had a button to make like Hiroshima and Nagasaki, I blow up Tokyo, Osaka and the whole of Japan. Stupid country."
(日本なんてあらゆることで負けてるじゃねえか。今日本に何があるよ。トヨタ?日産?ソニー?パナソニック?それだけじゃねえか。日本人が大嫌いなんだよ。もし出来るんだったら、東京も大阪も日本中をボタンひとつでヒロシマ・ナガサキみたいにしてやりてえよ。バカな国だな)
多分このときの自分、かなり血圧が上がっていたと思います。
怒りが沸点に達して何か行動を起こしたいのに、ショックで口を開くことさえできない状態。
「Toyota?」「Sony?」と日本企業を列挙していたときには、「それだけ知ってりゃ十分だよ」と思ったし、「まだNintendoもToshibaもCanonも残ってるよ」と言いたくもなったほど、その日本バッシングを部分的に見たらまだ笑いのネタとして収まっていたかもしれません。けれど彼、自分のアルコール許容量を過信しちゃっているような気がします。ここまで悪質な酔っ払いって実際世の中に存在するものなんですね。
日本に対してそう思う人が世界中に全くいないとは思わないし、「反日感情」も時事学習では珍しくもなんともない表現だと思います。
けれど、それを実際に口に出して言っちゃうの?しかも初対面の人間に?
自分は、日本を離れて住んで随分と経ちます。
街で差別的なことばを投げられたことも何度かあります。
でも、一言二言じゃなく、面と向かってここまで侮辱されたのは初めてです。
ニコライ・モロゾフにはまだラッキーだったと思って欲しい。
被爆二世、三世の人達の前で同じことを言ったとしたら、きっと彼、無傷でいられなかったと思います。
日本のことを異常に好ましく思ってないようすの彼に、友人がこう彼に訊きました。
"But you've got some Japanese students. What about Miki (Ando)?"
(でもあなた、日本人の生徒何人も持ってるじゃない。安藤美姫はどうなの?)
それへは、笑っちゃうくらい即答。
"Miki is exceptional."
(美姫は特別だ)
だそうで。そうなんですね。
その後一旦は自分のテーブルに戻るも、その10分後再び戻ってきたニコライ・モロゾフ。
スイスの女の子の肩や首を触り始め、言葉の暴力以上のことに発展しそうになり、語気を強めて「ここから消えて!」と一人が言うと、「お前こそ失せろ!」と彼はアグレッシブになりました。男性ファンが「もう部屋に戻って寝たほうがいいよ」と諭すと、「うるせえ、てめえこそ部屋に戻ってマスターベーションでもしてろよ」と手を丸めて上下するジェスチャーつきで挑発。この時点で自分はホテルのセキュリティを呼びにレセプションに向かいました。自分が席に戻るまでの間、ニコライ・モロゾフは男性ファンに「外に出ろよ。歯を全部折ってやるから」と誘っていたようで。強いロシア訛りで語彙力に富んでいるとは思えない彼の英語だけれど、喧嘩英語はかなり得意なようす。普段どんな生活を送ってるんだろう。彼がキャンプを持つ地ってそんなに殺伐としたところなんでしょうか。
この10数時間後。彼は織田信成選手の逆転優勝に立ち会っていました。
同一人物なのか、と不思議な思いで自分はキス&クライを眺めていました。
短時間でアルコールを解毒できちゃう彼の肝臓にを少し嫉妬を覚えながら。
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今季のエリック・ボンパール杯を終えての一番の感想は
「気がついたら勝手に(勝手な)日韓戦に巻き込まれていた」
でした。以前、親しいスケート関係の友達に
「浅田真央選手のライバルが韓国以外の選手だったら、ここまでライバル物語が大きくなってるだろうか」
と話したことがあります。LAの世界選手権の前だったと思います。
カタリナ・ヴィットにはデビ・トーマスがいて、みどりさんにはクリスティ・ヤマグチが。
長野五輪のミシェル・クワンにはタラ・リピンスキーが。
ソルトレイクはクワンVSスルツカヤのはずだったのが、サラ・ヒューズが。
2004年のワールドは荒川さんVSサーシャ・コーエンでしたね。
で、トリノは「コーエンVSスルツカヤVS荒川」の三つ巴。
どの時代の五輪にも優勝を争う2人、3人の間には「対決」が用意されてしまうもの。
けれど、「東独VS米国」や「日本VS米国」なんていう表現は聞いたことがありません。
「カタリナVSデビ」であり「ミドリVSクリスティ」、「ミシェルVSイリナ」というように、VSの前後は国名じゃなく必ず個人名であるのがフィギュアスケートだ(った)と思います。
いつから「浅田VSキム」は「日韓戦」になっちゃったんだろう。
スポーツだから勝ち負けは避けて通れないもの。
負けるのが嫌なら絶対的なスキルと実力を持つか、端から勝負の世界に顔を覗かせないこと。
4年に一度の五輪ではさらに「国の威信を」なんていうフレーズも聞かれることになるんでしょう。
伊達公子さんが何度対戦しても勝てなかったシュティフィ・グラフを「倒した」のとも、杉山愛さんがかつてのナンバーワン、マルティナ・ヒンギスをウィンブルドンのセンターコートで「倒した」のとも違って、フィギュアスケートの本質って「誰々に勝った」じゃなくシンプルに「勝った」かどうかだと思います。そしてその「勝った」も各選手によって基準は異なるもの。アイルランド代表のクララ・ピーターズが9月のネーベルホルンで跳んだダブルアクセルがダウングレードされることなく認定されたことも彼女にとっては「勝ち」です。
けれど
「キムが浅田に圧勝」「浅田がキムに勝つには」
と個人対個人にととまらず「韓国が日本に」「日本は韓国に」と国レベルでスケートを見てしまっては、しかもシーズン初めでこんな状態では、2月の本番までに選手以上にファンが燃え尽きてしまうような気がします。そしてその煽りに便乗して「Japan is losing to Korea」と表現したコーチは、「国対国」の思想と対極にいなければいけない人だと思います。
「ロシア人が日本人をアメリカで教える」
国の枠を超えて共に戦っている人が、「バカだ。大嫌いだ」と言う国の選手を指導しているって、チャンチャラおかしい話です。
「パリにスケートを見に来た日本人は浅田真央ファン」
その思考回路は決して間違ってはいないと思うけれど、織田選手の応援バナーは浅田選手へのものより多くあったと思うし、中野友加里選手へも観客席からは大きな声援が送られていました。国内での「浅田VS安藤」「高橋VS織田」というような、自分が受け持つ選手の(国内での)ライバル選手を応援していると思われるファンには辛辣にあたってもいいと彼が思っているのなら、アルコール依存症治療施設への入所、もしくはAAへの参加を早々に勧めます。酒の席で表れるエゴの大きさってきっとシラフのときと変わらないはず。「酔っ払っていたから」では済まされない一線を踏み越えた責任をとるのは、公人としてはもちろん、一大人として当然のことだと思います。
で、どうでもいいけど自分、ボンパール杯で一番楽しみにしてたのはペアでした。
特にカナダのデュベ&デビソン組の演技に心奪われました。
FSの「The way we were」なんてチージーな選曲ですが、あのベタさ、大好きです。
ブライス・デビソンの白セーター。首元はあいてるものの、
「まんまロバート・レッドフォード!」
と思わせる70年代さ加減も計算か、なんて思いました。
昨シーズンはどうなるのやらと思われた二人の競技パートナーとしての関係も、オフ期にカウンセリングを受けるなどして劇的に改善されたようすが窺えました。
長くなりましたが、最後に・・・。
とりあえずブログに書くことで受けたショックの緩和と気持ちの整理は出来ました。
SPを新調したという浅田真央選手へはもちろん、安藤美姫選手の健闘を願います。
心から「ダバイダバイ!」を送りたいと思います。
あー。長時間キーを激しく叩きすぎて、腕がダルイダルイわ。