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回路図のどこを見ればよいか
さて、今回の回路のブロック構成は分かった。各ブロックに対応する各回路がどのようなものであるかも分かった。では、その各回路の中で重要な役割を果たしているのは何であるかを見てみよう。そこまでいけば、「この回路は大体分かった」といってもよいだろう。
まず、図2のスイッチ入力インターフェイス回路を見てみよう。
再掲:図2 スイッチインターフェイス部分の回路図 |
左端にスイッチ「SW1」があり、右側に入力「VCC」「DGND」と出力「OUT」がある。「VCC」と「DGND」は、この回路を動作させるための電圧の「プラス」と「グランド」である。「OUT」は「スイッチが押されたかどうかを出力する」という目的で設けられている。出力先はマイコンの入力ポートである。マイコンへのデジタル入力は、「HighでなければLow」「LowでなければHigh」でなくてはならない。それを確実に実現するために、トランジスタとシュミットトリガが設けられている。この回路は「SW1」が押されてONになった場合に、「OUT」の電位が「GND」になるように作られている。
ここまでを理解したところで、図3のマイコン周辺の回路図を見てみよう。
再掲:図3 マイコン周辺の回路図 ※画像をクリックすると拡大表示します。 |
この回路で最も存在感が大きいのは、マイコン「ATMEGA16」である。その周辺の回路の数々は「マイコンを動作させるための回路」と割り切ってしまって構わない。マイコンの21番ピン(PortD 7番)に「SWITCH IF」からの入力がある。先ほどのスイッチ入力インターフェイス回路の「OUT」は、ここに入力する。ブロック図によれば、スイッチが押されている(押されていない)という情報をマイコンに入力し、その結果を見てモータを回転させる(止める)という出力を行う。その出力は、マイコンの1番ピン(PortB 0番)から行っており、ここからの出力が「MOTOR IF」につながっている。その先はモータドライブ回路である。
最後に、図4のモータドライブ回路がどうなっているのかを見れば、招き猫制御回路の全貌が一通り理解できたことになる。しかし、モータドライブ回路の回路図を見てみると、左上と右下に2つの回路図がある。まず、どちらが何なのかを理解しなくてはならないのだが、実は左上はモータの電源回路である。今回は「この電源で、モータ周辺の『Vcc(M-VCC)』と『GND(M-GND)』を作って安定させる」ということだけを理解して、無視してしまおう。
再掲:図4 モータドライブ部分の回路図 |
右下が、モータドライブ回路そのものである。右側に「IN」という名前の入力がある。ここに、先ほどのマイコン回路のマイコンの1番ピンから出た出力が入力されて、モータのON/OFFを決定する。「IN」に「High」が入力されるとモータが回転し、「Low」が入力されるとモータの回転が止まる。右側の「Motor +」「Motor -」には、前回、ノイズ対策を施したモータを接続する。図4の右側「Motor +」「Motor -」に電流が流れれば、モータは回転する。「Motor +」には「M-VCC」としてプラスの電圧が印加されているので、「Motor -」の電位が「GND」になれば、電流が流れることになる。この仕組みを実現しているのが、図4中に「Q1」で示されたMOSFETである。
簡単さのあまり、「なーんだ!」と拍子抜けされなかっただろうか? 実際には、この説明で触れなかった抵抗やコンデンサの1つ1つが重要な意味を持っている。適切なタイプ、適切な値の部品を選択して回路を完成させることは、それができるなら電子回路の設計で「ご飯が食べられる」ほどのスキルである。
しかし、そこまでの道のりをたどりやすくするために、まずは「大体分かった」「何となく分かった」「分かったつもり」を経過することは重要であろう、と筆者は考えている。「なーんだ!」と拍子抜けしていただければうれしい限りである。
回路図から基板へ
回路の全容を理解できたら「早く作りたい!」という気持ちにならないだろうか。
この程度の規模の回路であれば、大型のブレッドボードで作成することも不可能ではない。実際、筆者もブレッドボードで作成して、動作を確認した。しかし、いったん動作を確認できたら、部品が簡単に外れてしまうブレッドボードではなく、専用基板に部品をはんだ付けして「この基板は動く」を前提にして以後の検討を行おうと考えるのが自然であろう。
画像2 ブレッドボードでの製作 |
そこで、筆者らは基板「neko-no-hitai」を製作した。今回製作した基板「neko-no-hitai」は、はんだ面が画像3、部品面が画像4のようである。基本的には図2〜4の回路と同じものなのだが、「ブロック間をジャンパ線で接続する」など若干の改良と修正を行っている。その最終的な回路図を画像5に示す。
画像3 はんだ面 ※画像をクリックすると拡大表示します。 |
画像4 部品面 ※画像をクリックすると拡大表示します。 |
画像5 最終的な回路図 ※画像をクリックすると拡大表示します。 |
この基板に部品を実装した様子を画像6に示す。
画像6 基板「neko-no-hitai」に部品を実装した様子 |
製作に必要な時間は、筆者らの場合、基板そのものの製作も含めて2日程度であった。なお、基板は自分で製作しなくてはならないわけではない。「P板.com」のような基板製作サービスを利用すれば、データを送った数日後に基板を手にすることができる。「感光手段は?」「エッチング液の入手は?」「エッチング液の後始末は?」「エッチングは薬剤の処理が面倒なので基板加工機が欲しいけれど、1台数十万円ではちょっと……」といったことで頭を悩ませる必要はない。基板製作サービスを利用した独自基板の開発は、連載「イチから作って丸ごと学ぶ! H8マイコン道」を参考にしてほしい。
参考までに、基板製作の発注に必要なガーバーデータを配布する。
▼「neko-no-hitai」のガーバーデータ「gerber-data.zip」のダウンロード
(※右クリックで「対象をファイルに保存(A)...」でダウンロードしてください)
http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/articles/miconkiso3/05/gerber-data.zip
これらのガーバーデータは、プリント基板CADツール「Eagle」(注)で作成した。その基になった回路図ファイル・基板レイアウトファイルも併せて配布する。必要に応じてダウンロードしていただきたい。
▼「neko-no-hitai」の回路図ファイル「neko-no-hitai.sch」のダウンロード
(※右クリックで「対象をファイルに保存(A)...」でダウンロードしてください)
http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/articles/miconkiso3/05/neko-no-hitai.sch
▼「neko-no-hitai」の基板レイアウトファイル「neko-no-hitai.brd」のダウンロード
(※右クリックで「対象をファイルに保存(A)...」でダウンロードしてください)
http://monoist.atmarkit.co.jp/fembedded/articles/miconkiso3/05/neko-no-hitai.brd
注:「Eagle」はCadsoft Computer社の製品であるが、非商用利用であれば、「Light Edition」を無償で利用できる。 ▼Cadsoft Computer社のサイト http://www.cadsoft.de/ ▼日本代理店であるサーキットボードサービスのEagle紹介ページ http://homepage3.nifty.com/circuitboards/v2_software/EAGLE/v2_software1.html |
◇
今回の回路に対して、この基板レイアウトが唯一の正解というわけではない。あくまでも一事例を示したに過ぎない。
外国語を読めるようになるために必要なことは、外国語の学習そのものではない。もちろん、外国語の学習は必要不可欠なのであるが、「読んでみたい」「読めるようになるんじゃないかな」「読んでみよう」という意識の動きがなければ、どれだけ学習しても読めるようにはならないのだ。本稿が、回路図に関する「読んでみたい」「読めるようになるんじゃないかな」「読んでみよう」の一助になれば幸いである。
さて、次回は完成した回路を基に「スイッチが押される」の周辺の信号の動きを追ってみよう。お楽しみに!(次回に続く)
謝辞:本回路と基板「neko-no-hitai」の設計・製作は、執筆協力者の小椋 秀一氏の全面的な協力によって実現した。ここに感謝の意を表明する。 |
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