民主党こそ“官僚丸投げ”/山形浩生(評論家兼業サラリーマン)Voice10月21日(水) 12時19分配信 / 国内 - 政治◇詰めの甘さが露呈◇ 民主党が政権の座に就くことになってから、執筆時点で1カ月弱が経過している。いまのところ、あらゆる点で迷走している、といわざるをえない状態だ。 二酸化炭素排出を1990年比で25%減らすという(絶対にできるわけがない)旗印だけ掲げて、それをどうやって実現するかという中身については見せられるものがないという惨状で、それなのに首相は国連に出掛けて、目処もついていない数字を国際的に約束してしまう。 高速道路無料化は、じつは選挙のための方便で、やっぱり有料のところは残すという豹変ぶり。補正予算の執行中止もどんどん尻すぼみになる一方だ。 八ツ場ダムも、建設中止するほうがお金が掛かることがわかり、何のための建設中止だかわからない状態だ。 子ども手当も所得制限で揉めており、その他各種政策も政府内のあちこちで内紛状態で、詰めの甘さが次々に露呈している。そして調整なんか何も要らずに、すぐにできるはずの記者会見開放も、一向に進まないようだ。 そしてぼくが最もダメだと思うのは、官僚主導から政府主導へ、というお題目を掲げつつ、そもそもそれがどういう意味かわかっていないらしいという点だ。 いまの進め方を見ていると、基本的には官僚たちの話を聞かない、というのが基本線らしい。そして大臣さんなどが、思い付きで何の裏付けも根拠もない個別の政策をメディアに向かって華々しく宣言してみせる。でも、その具体化方策は官僚に丸投げする、ということらしい。高校無償化、という政策を大臣と側近が官僚たちとの事前の打ち合わせもなくぶち上げて、なぜそれが必要かという説明も一切なしに、その財源ややり方は官僚が勝手に考えろ、ということのようだ。 さてぼくが官僚なら、そんなバカな話にまともに対応したりはしないだろう。官僚だってない袖はふれない。 それにいまだと、できませんといっておけば民主党はすぐにへっぴり腰になるようだから、ぼくなら徹夜したふりして、いまは無理だけど5年後ならできるかもしれませんとかいう結果を出してお茶を濁しておく。大臣さんは何もわかってないから、いうこと聞くしかないでしょ。 もし政府主導にしたいなら、できないわけじゃない。でもそのためには、それぞれの大臣さんが、自分の担当する省庁の政策バランスをどう考えるのか、という全体像をまず提示しなくてはならない。 どの分野を増やし、どの分野を削るのか。それをどういう考え方に基づいて行なうのか。友愛だの生活重視だのというお題目じゃない、価値観とその優先順位を示してもらわないと。 ◇「無駄」など出てこない◇ それを行なったうえでなら、その具体的なかたちとして個別の政策を推進してもいいだろう。そして、その全体像があれば、どこに力点を入れてどこを薄くするか、という指針があるので、官僚だってあれこれ動く余地がある。 もちろんそのためには、大臣さんたちがかなり勉強しないとダメだ。その担当分野で何が大きな課題であり、いまはどういう考え方でそれに対応しているのか。ほんとは政権取る前にそれをやっておいてほしいんだけど、民主党は明らかにそれをサボっていたようだから。 で、財源の話になると必ず出てくるのが「無駄をなくす」というバカの1つ覚えだ。でもどう考えてもぼくは、いまの政府予算で「無駄」なるものがそんなには出てこないと思う。 いまだって、部局間、省庁間で予算の取り合いは熾烈だ。財務省だって予算を厳しくチェックする。その網の目をかいくぐって明らかな「無駄」を残すのは、そんなに楽じゃないんだから。 いまいろいろ無駄があるように見えるのは、結果としての無駄だ。道路建設でも空港建設でも、実際につくってみたら全然使われませんでしたというケースは多々あって、それを見てみんな無駄が多いという。でも後知恵なら何とでもいえる。八ツ場ダムの1件で、民主党政権はすでに実施中のプロジェクトの費用計算さえまともにできないことを露呈してしまった。 事前の無駄を見つけることなんて、できるわけがない。まして、いまの様子だと、予算の「無駄」を見つける仕事は、そもそもその予算をまとめた官僚たちがやるらしい。あほくさ。官僚たちが自分の間違いを積極的に探すと思う? そんなこんなで、このままだと民主党政権はおそらくほとんど何も実現できないだろう。それを彼らは「官僚の妨害に遭った」と責任転嫁するだろうけれど、でもそれはひとえに、民主党の政権担当能力不足のせいでしかない。 今後、それが急速に改善されることをぼくは本当に願っているけれど、でもまったく期待はしていない。 【関連記事】 ・ 「日本航空」問題は氷山の一角 伊藤元重 ・ 「派遣禁止」による失業率10% 池田信夫 ・ 家計を36万円痛める「CO2削減」北村 慶 ・ 国家戦略局は役に立つ? 若田部昌澄 ・ ふんぞり返る老人たち 高山正之 ・ 55年目の悲願達成へ 上杉 隆 ・ 情報産業に明日はあるか 山本一郎 |
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