「Barred Birthday」 episode.1
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「Barred Birthday」 episode.3
「Barred Birthday」 episode.4

◇ラッキードッグ1 ジャンカルロ誕生日ショートストーリー
「Barred Birthday」 episode.4
 監修:Tennenouji

 それは……デイバン中の孤児院からご招待した、孤児たちご一行だった。もちろん、我がうるわしの聖リタ修道院付属孤児院のガキどももいる。
「え、えーっと…………。あ、ああ〜〜〜!!??」
 俺の顔に見覚えがあったらしいちびが、俺を指さして素っ頓狂な声を出した。
「よーう。よく来てくれたな。まーま、そのへんでゆっくりしていってね〜」
 ペンギンの群れの中に闖入した、煙突に住んでるスズメの群れ、って光景が広がった。
 いちおう、孤児院できれいな服は着せてもらってきたらしい子供たちだったが、礼服やドレスで着飾った役員やレディと比べると、汚れたハンカチの塊みたいな子供たち。
 だが――その姿は、ある意味、俺そのもの。俺の根っこだ。
 その孤児たちの背後には、なんだか蛮族にとらわれたキリスト者って感じの、付き添いのシスターたちの姿があった。……その中に、あのメスゴリラ……マンマの姿は無い。……ホッとしたような、少し寂しいような。
「な、なな……! なんじゃ、これは!? ジャンカルロ!?」
 ようやく、事態に気づいたカヴァッリ爺様が俺のほうに詰め寄ってきた。
「なんじゃ、って。だから、誕生日パーティーですってば。……ごめん、爺様。じつはずっと前から準備してたんだ――これ」
「な、な……」
「ちょっと待っててくれ、お客が揃ったら説明するからさ――」
 爺様に説明してなかったのは悪かったけど……言ったら、絶対反対されたしね……。
 肩をすくめた俺の目に、会場の出入り口に黒い影が揺れるのが映る。
「おーう、待ってたぜ。ベルナルド〜」
「――失礼……。まさか、俺が一番最後か? すまない、やっぱりあの村は遠いよ」
 これがお見本です、というくらいピシッと礼服を粋に着こなしたベルナルドが会場を進み――そして、背後の人々を招き入れる。それは……。
「……あ、あのーう、ホンマにわしら、こんなところに来ても……」
「な、なんか……おっかないもん、買わされるんじゃないだろうねえ……」
「……い、いえ、この旦那が大丈夫だって……」
 それは……たぶん、一番いい服を着て着た――いわゆる、田舎の紳士淑女たち。
 ……あー、見覚えがある顔が。なっつかし〜〜〜。
「ようこそ。みなさん――突然のご招待、申し訳ない、っていうか……やっほー」
 農夫のおっさんや、おかみさんがきょとんとした眼で俺を見……。
 そして、その陰に隠れていたチビすけの目が、俺を。
「……あ。あ!! ああ〜〜〜!! しましまのおっちゃんたちだあ〜〜〜!!」
 キインとするような歓喜の叫びが、会場を震わせた。
「あ、ほんとだ!! あのにーたんだあ!! おっちゃんもいる〜〜!!」
「……お、おっちゃん……?」
 約数名、幹部諸君がショックを受けていたが――俺は気にせず、ウィンク。
「やあ。待ってました、麗しのボウィック村のみなさん。本日は、俺なんかの招待をこころよく受けてくださって感謝感激。……まま、ラクにして。今日はお祭りだから」
「は、はあ。……あ、あの〜。わしら、その〜」
「いやあ……あんたたち、ホンマもんの脱獄囚で、その……やくざ屋さんだったんやね」
「な、だからワシ言ったやん。このヒトたちの迫力はホンマモンやって」
「ウソいいな。あんた、この役者たちはハムやって馬鹿にしとったくせに」
 さすがボウィック村の皆さんはノリがいい。完全に場違いに見えるこの会場で、すっかりくつろいでいらっしゃる。
「あー、みんな、好きなモン飲んで、食って。をーい、ボーイさん。あとウチの兵隊。くれぐれも、お客人に失礼の無いように――な」
 かわいそうなのは、俺にガンを飛ばされたボーイと、兵隊たちだった。カポである俺の命令と、そして文句たらたらのオーラを放つ役員たちとの板挟みになり……最終的には、死人のような顔になって、孤児たちと、名も知らぬ農ソンのカッペさんたち相手にご奉仕を始める。……すまないねえ、でもこれが――組織ってヤツでして。
「さあて。お客人もそろたっところで……そろそろ始めるか?」
 ルキーノが俺に新しいグラスを渡して、笑う。
「そうだな――予定では、あと数人駆けつけてる予定なんだけど……マ、いっか」
 俺はイヴァンを呼んで、司会用のでっかいマイクスタンドを持ってきてもらう。
 そして――
「あー。アー。テスト無し、ぶっつけ本番で。音、通ってる?」
 会場の出入り口で、デカイ空き缶を抱えて立っている掃除屋が手を振った。
「ン、よし。――……いきなり驚かせて、ごめん。
 今日は俺の誕生日に集まってくれて、本当にありがとう。サンクス。そんで……いきなりで驚かせちまった役員会のドンたちと、レディたちには、本当にごめん。
 なんか、組織以外の人間がいっぱい来てるけど――まあ、ちょっと早いハロウィンだと思って許してくれ。じゃあ、誕生日パーティー、始めるとしようか。まず……」
 そこに、正義の件でも振るう勇者のようなツラして、あのガルデルリ氏が数歩前に進み出て、大きな声を俺に向けた。
「これ、一体どういうコトですかな? 若者の悪ふざけにもほどがある!! ここに集まった諸氏は、皆、多忙の中わざわざ貴重な時間を割いて、二代目を祝福するために参じたのですぞ。二代目は、その我らを愚弄するおつもりか?」
 俺に斬りつける口実が出来て、よろこんでいるようなそのジジイに――俺は言った。
「まさか。愚弄? とんでもない、その逆さ――」
 俺は、ジュリオが渡してくれたコーラで喉を洗い……。
「……俺のあだ名は、しってるな。ラッキードッグ。ラッキー・ジャンカルロ。
 俺は、ちょっと前まで街のチンピラ、野良犬だった――それが、今は二代目ボスだ」
 その言葉に、ざわめいていた会場が、シンと冷えた。
「もちろん俺は、この幸運――二代目になれたのを、自分のラッキーと実力のせいだなんてこれっぽっちも思っちゃいない。今の俺が居るのは、俺がまだ息をして、この場に立っていられるのは……俺を支えてくれた諸君、幹部会のみんな、そして役員会の諸兄たち。そして…………」
 名前を呼ばれてギョッとしたペンギンたち、そして……訳がわからず、きょとんとしている孤児たちとシスター、そして村のみんなに、俺は声と顔を向ける。
「――俺を守って、支えて、生かしてくれたのは、ちょっと前まで会ったこともなければ顔も名前も知らなかった、フツーの人たち、デイバンの街、そしてこの合衆国のみんなだ。俺がこんなところで誕生日に浮かれていられるのは……この世界、みんなのおかげだ。
 ――ありがと。サンキュー」
 シンとした会場で、俺は息を吸い、言う。
「……俺は、やくざだ――マフィアの、ぽっと出の二代目ボスだ」
 その俺の言葉に、役員会がざわっと揺れたが俺は構わず続ける。
「その俺を、俺たちを生かしてくれているのはこの街、この土地だ。だから俺は、この土地で生きて、そしていつか、死ぬ――だから、その前に、少しは……俺をここまでにしてくれたこのセカイに、せいいっぱい、サンキューをしておきたいんだ」
 俺の視界の隅で、ベルナルドが小さくうなずき――部下を呼び、俺の背後にあるステージに何かの機材を運び込む。
「な、なにを……する気、ですかな……!? カポ、デルモンテ……?」
「――ン、俺たちみたいなのが、カタギさん相手に出来る恩返しっていったら……あれだ。浄財、っていうかチャリティー? 役員会の皆さんもご協力してもらえる、よね?」
 グッ、っとうめいてガルデルリ氏が後ずさる。
「さあて! じゃあ、お待ちかね! ビンゴゲーム、おっぱじめようか!!」
 キンとマイクから響いた俺の声に――役員の皆さんは、自分たちに配られていたカードをギョッとした目で、見……ベルナルドたちも、ため息をついたような目で自分たちのカードを取り上げた。
「な、なにを始める気じゃ、ジャンカルロ!?」
「あー、カヴァッリ爺様はお客と言うことで。それとも、ビンゴしてみる?」
「く、ぬ……なにか、わしに隠し事をして居ると思ったら――ベルナルド、おまえたちまでいっしょになって……!! どういうつもりじゃ!?」
「あー、いや。あいつらは俺の命令で動いてるかわいそうな部下ですので。責任は、ぜーんぶ俺に」
 わなわなしているカヴァッリ爺様を押しのけるようにして、デカいペンギンが来る。
「ビ、ビンゴ、だと……? それが、何かの寄付だとでも――」
「そう。まさにビンゴ。いや、最近は財務省もうるさいじゃん? フツーに金庫から金を出して寄付に回しても、痛くない腹まで開腹手術させられるご時世だからさ。こうやって……公衆の場で、みんなにゲンナマで寄付してもらった方が話が早いのよ」
 俺はそう言いながら……ビンゴのドラムを回す。
 ぽろっとこぼれ落ちた一発目は……。1。ワン。
「はい、最初は〜1!! さあ、皆さん、ポチッと穴あけて、ほら」
「な、な……これのどこが、寄付だと――」
 まだ噛みついてくるガルデリル氏に、俺は2発目のドラムを回しながら、
「言ったろ? ちょっと早いハロウィンだって。ビンゴ!になったヤツから順番に、1ドル寄付してもらうついでに――ちょっと仮装でもしてもらおうかとおもってるワケよ」
「な、なに!? か、仮装……」
「そう。ちょーっと、年甲斐もないことしてもらおうかなーって」
 俺が合図をすると、背後でルキーノが肩をすくめたのがわかった。
「……さあて、ボスの命令だ。はじめるぞ――」
 ルキーノの命令で、さっきから奥に控えていた兵隊と何かの職人たちが動く。
 持ち込まれていたカートの上のコンテナが開けられると、そこから、ド派手な色彩の衣裳がぞろぞろと引きずり出され、ハンガーに並べられる。
 わあっ!!と子供たちと、村のみんなが歓声を上げた。そして、ひっと、自分たちの運命に気づいた役員たちが悲鳴を漏らした。
「えーっと。いろいろあるぜ。海賊、魔法使い、あとこりゃ白雪姫と子分か。おお、最近はやりの火星のお姫サマもあるぜ」
「……ったく、とんでもないカポだぜ。まさかこの俺を、こんなトンチンカンな衣裳の手配なんかで手こずらせるとはな」
「いやー、さすがルキーノ。俺が見込んだだけのことはあるねえ。カンペキだ」
 ぞろぞろと並んでゆく衣裳に……死に神のカードを渡されたような役員たちが、じりじりと出口のほうに後ずさっていっていた。
 だが――閉じられた扉の前には、缶を手にした掃除屋が、居た。
「な、なんだ、こいつは……?」
「そ、そこをどけ、わしはこんな馬鹿げたことに――」
 もちろん、ラグトリフは微動だにしない。だが、その彼を乱暴にどかせることも出来ず、うろうろしている役員たちの目に――恐ろしいものが、映る。
「こっちも準備完了。いつでもいいぜ?」
 ステージの傍らでは、機関銃の銃座のようなでっかい記念撮影カメラが何台も組み立てられようとしていた。
「な、なんのつもりだ……!? わしらに、恥をかかせる気か!?」
 俺はずらり並んだ衣裳の方に歩きながら……言う。
「もちろん、役員会の皆さんがお忙しいのはよっく承知している。……で、だ。どーしても忙しくって、途中退席したい方々は、お止めしないから。そのかわり、ビンゴカードの代金をそこの掃除屋に払ってから、お帰りを――お一人様、100ドル。な」
 これが、怨嗟のうめきというやつか。
 会場に満ちた恨みがましい空気を無視して、俺はドラムを回す。
「はい、お次は……また1、ワン〜。ビンゴは……まだいるワケねーな」
 ――計画通り。会場の出口では、うなだれ、あるいは札を掃除屋に叩き付けるようにして、ぞろぞろとペンギンの群れがお帰りを始めていた。
 だが、まだ……しぶとく残っている役員と、その連れのレディたちも、いた。
 ……そんなにラッキードッグを種馬にしたいかね。
「さあて。じゃあ三つ目、ワクワク四つ目、ドキドキ五つ目〜……――…………。
 ……さあて。いくぜ、ベルナルド、イヴァン、ジュリオ」
「……ああ、やっぱりやるのか……」
「おう。楽器はどこだ?」
「……前と、同じでいいのですね、ジャンさん?」
「あー、そう。ルキーノ、楽器と着替え、頼む」
「わかってる――ったく、とんでもないボスの下についちまったモンだ」
「暴君でごめんなさいねえ。じゃ……いくか!!」
 俺はマイクスタンドを置いて――
「ヒャア!! なっつかしいが見たくねえガラだぜ!!」
 ……バサッ!!と、一着の衣裳をひっつかんで広げる。
 ――白と黒のシマシマ、ご存じおなじみ、監獄の囚人服ワンセット。
「な、ななな、なんじゃ!? ジャンカルロ、いったい!?」
「いやさ、コイツを着てね、ちょっと懐かしー気分で一曲いってみようかと思ってさ」
「きょ、曲ぅ?」
「ああ。……昔、ちょっとした縁があってね――俺が、俺たちが生きていられるのもそのおかげなんだ。だから、ちょいとね……」
「……申し訳ありません、顧問……。ジャンカルロの悪ふざけに見えてしまうかもしれませんが――これも慈善事業の一環と言うことで、お許しを……」
 慈善!?とオウム状態のおじいちゃんを置いて、俺は――
「……!? きゃああああああ……!!」
 会場のレディたちが、俺と、幹部たちの様子に気づいて悲鳴を上げた。
 俺は上着と、ネクタイを脱ぎ捨て……ルキーノはコートを脱ぎ、部下に着替え用のカーテンを持ってこさせ……ベルナルドもため息をつきながら上着を部下に渡し、ジュリオは何のためらいもなくド高そうな服を床の上に落とし……。
 そして全員が、洗濯してあるとはいえボロボロごわごわの囚人服を、着てゆく。
 俺がズボンの着替えを始める頃……残っていたレディと付き添いの幹部たちは、残らず全員、ラグの空き缶に100ドルか代わりの名刺を投げ込んで、会場から姿を消していた。
 残ったのは……かわいそうなカヴァッリおじいちゃんだけ。
「――おっしゃ。んー、ひさしぶりにこのシマシマ着ると身が引き締ま……らねえな」
「……これは貸しにしておくからな、ジャン。……クソ、嫌な思い出だ」
「なんでこんなものをオーダーメイドせにゃならんのか。もうごめんだからな」
「ジャン、おめーは着慣れてるからいいかもしれねーけどよ……あー、なんかくせえ」
「……なんだか、懐かしい、です。……あの運動場のこと、いまでも――」
 俺たちが囚人服に着替えると……。
「あ〜〜!! しましま、シマシマ〜〜!!」
「ねーねー、またあれやって、あれ!! おっちゃん、あれ〜〜!!」
 ボウィック村のちびたちが、眼をきらきらさせて俺たちに駆け寄り取り囲む。孤児院のガキたちも、訳がわからないままそのテンションに釣られて俺たちを取り囲んだ。
「うひゃあ、あのときのまんまだねえ。なんか、なっつかしいねえ」
「……あんたらが、まじもんのマフィア屋さんだったとはねえ。いやー、夢みたい」
 ――脱獄して立ち寄った、あの村の光景が俺のアタマの中にもよみがえる。
 ……あの村でなにかポカやったら、あるいは村の誰かが俺たちを疑っていたら、今、俺とあいつらはここに立っていない。
「サンキュ、ベルナルド。みんな連れてきてくれて。なんか俺泣きそう」
「なんの。我らがカポの誕生日に、たとえ1ドルのモノでもプレゼントが禁止となれば……――これくいらいしないと、ね」
 俺は軽くベルナルドの背中を叩く。その俺の目に……。
「オ。……やるねえルキーノ」
 めかし込んだ小さなおばあちゃんが、その頬に遠い火事のような紅を浮かべ――そして真っ赤なバラの花の森に包まれているのを見て、俺はすごく昔のことに思えるあの夜を思い出し、笑う。
「さあて、みんなはじゃんじゃんやってくれ。俺たちは――……おーい、楽器は?」
「俺は、準備できました」
 ジュリオは、バイオリンを――「あのとき」とは違う、なんか凄みのあるツヤで輝いているバイオリンを、囚人服姿で手にしていた。
 ベルナルドは、部下にセットさせたドラムのほうへ長い髪をかきながら移動、ルキーノはこれもまた渋い風格のギターを抱え、弦を鳴らしていた。
「おい、俺もなんかよこせ――って……?」
 楽器を手配していた部下のほうに向かったイヴァンを、
「ねーねー!! トライアングルのおっちゃん!! チーン!!ってやって!!」
「な、なあああ!? だ、だれが――」
「往生際が悪ぃぞイヴァン。いまさら他の楽器、触れるとおもったかよ」
 俺は、再びマイクスタンドを取り、
「――よっしゃ。ベルナルド、録音機材は?」
「ああ、いつでもいいぞ。リテイクは10回までだ。円盤も高くてね」
「オッケー。ルキーノ、カメラ屋さんもスタンバってる?」
「まかせろ。最高のジャケットに仕上げてやる」
「エクセレンテ。そんじゃ軽く……」
 そこに――……ごめんね……10歳くらい年取って見えるカヴァッリ顧問が詰め寄ってきた。
「だ、だから! な、何をする気じゃ、そんなカッコで、バンドのマネなど!?」
「だーから。俺の誕生日だからさ、パーッと。ね。……コイツが、俺の……なんていうか、根っこ、本質? エッセンシア? ――だからさ。忘れないようにしようかと」
「ぬ…………。カポに、なっても――か……?」
「そういうこと。ものわかりのいいおじいちゃん、だーいすき」
「や、ややや、やかましい!!」
「……申し訳ありません、顧問――あと、これがチャリティーだというのは……」
「そうなんです、こいつを録音して、匿名でラジオに売り込んでですね――そいつを、全額寄付に当てようと言うことになりまして」
「アホくせえけど、まあ誕生日プレゼントってことで乗ってやることにしたのさ」
「……寄付は、少額でも自らの手で糧とした金銭のほうが価値があるとジャンさんが」
「ぬ、ぬううう……」
「ゴメン、爺様。なんか、ガキっぽくって――……役員の面々を怒らせちまったけどさ、全員均等に怒らせて、角を立てない方法って、これしか思いつかなくって」
「だ、だからといって……もうちょっとだなあ……」
 カヴァッリ爺様の難しい顔にウィンクをして、俺は…………。
「じゃあ、一曲いってみようか!! 最初は、なつかしの、アレ!!」
 ベルナルドのドラムがリズムを取り――
 ルキーノが伴奏を鳴らし、ジュリオがそれに答え――
 イヴァンが、何かものすごく複雑な顔をして銀色のスティックを構え――
 俺は――
 自分のビンゴカードを――真ん中スルーで、ストレートでビンゴが11730と揃ったラッキーなカードを、ひとまずポケットの中にしまった。
(…………サンキュー…………)
 ――胸の中で、まだ知らない様々の世界に向けて愛をこめて…………。
 そして、ボーカルの俺は大きく息を吸い込んだ。

END