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読む政治:長妻厚労相、1カ月(その2止) 広すぎる守備範囲

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 <1面からつづく>

 ◇厚労相「年金以外分からない」「忙殺される」

 「あまりに膨大で、業務に忙殺されます……」。9日、国会近くの中華料理店で開かれた民主党国対委員との昼食会で、長妻昭厚生労働相は同僚議員を前に思わずこぼした。

 野党時代、消えた年金問題を掘り起こし、「ミスター年金」の称号を得た長妻氏。厚労相就任後は10年度予算の概算要求で、年金記録問題対策費として前年度の6・3倍、1779億円を計上した。16日には記録解明に向けた有識者会議を発足させ、同じ日の省内の会合では「私は記録問題に(火をつけた)責任がある」と全面解決に意欲を示した。

 それでも、長妻氏の厚労相就任は政官界では「意外」と受け止められたのが実情だ。厚労省は医療、介護、労働から援護行政まで幅広く、麻生政権では分割論も浮上したほど。長妻氏は年金実務にこそ強いものの、他の分野の手腕は未知数と見られていたためだ。

 記者団には「検討中」としか語らないことも多いなど、慎重な姿勢が目立つ。完全失業率の公表を翌日に控えた1日、政務三役会議で長妻氏は「失業率の数値は知っているが、言えない」と告げ、雇用担当の細川律夫副厚労相や山井和則政務官らを沈黙させた。

 実は鳩山由紀夫首相は、「行政の無駄」を追及してきた実績を買い、ギリギリまで長妻氏を行政刷新担当相に据える調整を進めていた。しかし、長妻氏のもとには、国民から「年金の信頼回復を頼みます」といったメールが殺到していた。

 「年金一本でやってきて期待されている。ここで年金担当から外れたらオレはもたない」。組閣直前、周囲にそう漏らした長妻氏は、首相に「副大臣でいい。年金担当を」と働きかけ、土壇場で厚労相に決まった。

 9月17日、大臣室であった引き継ぎ業務の直前。長妻氏は前任者の舛添要一前厚労相に、頭を下げた。「年金以外は分からないんです。役人がいないところで、40分以上の時間を下さい」

 2人きりで行われた引き継ぎで、舛添氏は各分野の進め方を細かく説明し、長妻氏は無言でメモをとり続けた。長妻氏が強い不安に駆られていると感じた舛添氏は、「何かあったら、手伝いますから」と励ました。

 しかし、問題は待ってくれない。新型インフルエンザは猛威をふるい、8月の完全失業率は5・5%と高止まりしたまま。長妻氏の10年度予算の概算要求への対応ぶりを横目に、厚労省幹部は「財務省にも官邸にも味方を作れず、苦労している」と危惧(きぐ)する。同僚議員は「膨大な厚労行政に押しつぶされてしまわないか」と気遣う。

 ◇無駄排除では手腕発揮

 長妻氏が挽回(ばんかい)策として、年金問題のほかに力を入れるのは、無駄遣いの追及だろう--。厚労省内ではそうささやかれる。事実、長妻氏は就任早々、経費節減目標を達成した職員を評価する制度の導入を表明するなど、そうした姿勢を鮮明にしている。

 「さらなるコスト意識を。優先順位が低い業務は徹底的に見直し、高い業務も工夫すればもっと安くなる」

 8日、省内であった全国労働局長会議。長妻氏は本来触れるべき雇用対策はそこそこに、コスト削減を強く呼びかけた。

 その2日前には、省内に大臣名の文書が行き渡った。10年度予算編成を巡り、天下り先の公益法人への補助金を2割削除することを求めたものだった。「法律で補助金支給を定めています」。厚労官僚は食い下がるが、長妻氏は条文が「補助金を受け取ることができる」となっている法人には容赦しない構えだ。

 従来厚労省は大臣が就任すると、各部局ごとに懸案を1週間近くかけて説明し、大臣を「洗脳」してきた。しかし長妻氏はこれを拒否し、個別に担当者を呼び出すスタイルをとる。過去数年分の予算書をめくりながら細かい費目を挙げ「これは不要」「この支出は疑問だ」と次々指摘するという。

 さらに長妻氏は、印刷は紙の裏表▽午後8時以降のエレベーターは制限▽昼休みの消灯--と細かい指示も出し、結局、天下り法人への補助金1013億円を含め、8月の概算要求に比べて1868億円を減らした。

 ただ、したたかな官僚は転んでもただでは起きない。厚労省官房部局の幹部は「天下り先の整理は所管の局には酷で、難しかった。だが、予算を作る立場では切りたい補助金もある。大臣の威を借り、一気にやってもいい」とささやく。

 長妻氏は早々に、後期高齢者医療制度の廃止をぶちあげた。民主党は年金制度の抜本改革もうたう。だが、現行制度を根本から変えることに関しては厚労官僚は面従腹背だ。

 「医療や年金の制度改革は、与野党協議に持ち込むよう大臣を説得しろ」

 ある厚労省OBは、現役幹部との会合でそう忠告した。政権運営を知る自民党を交えた場なら、現実的な改革に落ち着くと踏んでのことだ。省内でも与野党協議案は有力視され、「本音では民主党も求めている」との見方が出ている。

      ◇

 佐藤丈一、塙和也が担当しました。

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 ◇長妻氏の厚労相就任後の主な言動

 9月16日 鳩山内閣で厚労相に就任。会見で「厚生労働省を国民に奉仕する組織に生まれ変わらせるのも私の任務」。

   17日 初登庁。天下りの凍結や、後期高齢者医療制度廃止後のプラン検討を指示。マニフェストについて「国民と政府との契約書、命令書だ」と訓示。

   19日 政務三役の初顔合わせで「大方針は政治、この政務三役会議が決める」。記者団に、障害者自立支援法の廃止を明言。

   25日 行政の無駄削減を巡り仙谷由人行政刷新担当相らと意見交換。「優先度が高くともカットできる」

10月 1日 新型インフルエンザ対策本部でワクチン接種の基本方針を決定。「舛添要一前大臣がある程度道筋を付けていた。感謝している」

    5日 国民の経済格差を表す指標「貧困率」の調査を指示。菅直人国家戦略担当相と会談し、緊急雇用対策の策定で一致。

    8日 社会保険庁の後継組織、日本年金機構について「熟慮の結果、(予定通り来年1月に)発足させる」と表明。

   16日 記者会見で就任1カ月を振り返り「新型インフルエンザなど緊急的判断が求められ、神経を張りつめて仕事をしている。ありがたいタイミングで政権交代が起きた」。

毎日新聞 2009年10月18日 東京朝刊

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