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建国祭の熱狂に消された阿鼻叫喚
誰も語らない「中国格差社会」の深淵

――中国の農村事情に詳しい早稲田大学准教授・阿古智子氏に聞く

　拙著『貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告』（新潮社刊）でも詳しく解説しているが、この制度があるために、もし第二次、第三次産業が成長しても、「農民」が減少して「市民」が増えることはない。

　中国人はたとえ都市戸籍を持っていても、北京から上海へと自由気ままに移住することはできない。一般的に親が農村戸籍なら、子供も自動的に農村戸籍となり、変更することは難しい。

　近年、都市建設の労働力需要を満たすため、農村から都市に移住してきた「農民工」と呼ばれる出稼ぎ労働者が増え続けており、その数は約2万人に達している。農民工は戸籍を出身地の村に残したまま、都市部で生活している。

　しかし、中国の法律では、医療や教育などの社会サービスは戸籍地で受けることになっており、都市部では、彼らは「二級市民」のような存在だ。
農民工のほとんどは、いくら働いても都市社会の主流から外れたままであり、市民としての待遇を享受することはできない。

　近年は、都市にも農村にも定着できない第二世代の農民工が急増し、社会問題化している。

――具体的には、どのような問題が生じているのか。

　私が調査したところによると、農民工は、より高い収入を求めて都会に出るばかりではない。「農村の生活に満足できない」または「トラブルを抱えていて農村に戻って来られない」といった理由で、生活が次第にどっちつかずとなり、中小都市に漂泊している人が増えてきているように感じる。

　かつて農民工といえば、労働で得たお金を全て家族に送金しているというイメージがあったが、現在では給料の多くを自分が楽しむために使う人もいる。だが、農村戸籍しか持たず、特別な技能もない彼らが都市に定住することは、ほとんど不可能だ。

　非正規就労（労働契約を結ばずに、長時間・低賃金の労働条件で就業）の状態にある農民工の多くは、トイレも風呂もない部屋で、集団で生活するなど、不安定な状態にあり、社会的な差別を受けている。

　環境が全く異なる農村と都市を行き来するうちに、考え方や価値観のズレを調整するのが難しくなり、家族や地域社会との間に亀裂が入ってしまう夫婦や親子も珍しくない。

　複雑なアイデンティティを持つ若い農民工たちの先行きが、心配だ。差別的な制度は一刻も早く廃止すべきだと思うが、ことはそう簡単ではない。地域間の格差は、すでに調整がほとんど不可能なレベルにまで達している。中国政府も戸籍制度改革を進めようとしてはいるが、難航している。