母子加算復活の政治 − 新自由主義官僚主導の鳩山政権の実相
昨夜（10/21）の報道ステーションで、短い時間ながら、母子加算復活をめぐる政権内での暗闘の様子が生々しく報道されていた。３日前（10/19）の夜、長妻昭は首相官邸に鳩山由紀夫を訪ね、母子加算復活の１２月実施について総理としての最終決断を要請している。翌日に閣議があるから、閣議決定するよう求めたのだろう。新聞記事には、そのときの鳩山首相の反応が示されていて、記者団に「（年内復活は）約束だから」と述べていて、記事は鳩山首相がいかにも12月復活前向きであるかのような表現になっている。だが、翌10/20の閣議では、母子加算復活の12月実施は議題に取り上げられなかった。報道ステーションの情報では、その日の夜、藤井裕久が平野博文に電話をかけ、母子加算復活で必要となる予算６０億円を半額の３０億円に削減する方針を伝えていた。具体的には、月23000円の母子加算を復活させる代わりに、生活保護世帯向けの高校就学費（15000円）や学習支援費の支給を廃止するという措置である。さらに驚くべきことに、藤井裕久は、生活保護世帯への子ども手当について、その支給額を「収入認定」させるという方針を文書で発表していた。この財務省の文書をネットで探しているが見つからない。子ども手当を収入認定させれば、その分、生活保護の支給額が削減される。つまり、生活保護世帯には子ども手当は支給しないという冷酷な方針を示し、それを押し通そうとしていた。
この動きを察した「しんぐるまざーずふぉーらむ」等の市民団体が反発、10/21の午後に緊急の院内集会を開いて、財務省方針の撤回を要求し、高校就学費と学習支援費の維持と公約どおりの母子加算復活の実施を要求していた。報道ステーションの放送に、この集会の映像が数秒間流されたが、参加者の中に福田衣里子の姿があるのをカメラが捉えていた。新聞記事には、福田衣里子出席の情報はない。これがテレビの説得力だと言えばそれきりだが、毎日新聞の記者は、なぜ福田衣里子の名前を記事に書かないのか。その事実が載っているのと載っていないのとでは、情報のインパクトが全く違う。記事の情報価値が違う。そして、10/21の夜、鳩山首相が記者団の前に出て、母子加算復活の満額実施と子ども手当の生活保護世帯への収入認定の財務省案の撤回を発表し、半ば一件落着という状況になっていた。だが、長妻昭はこの首相談話の後に、さらに首相公邸を訪ねていて、この件で鳩山由紀夫と談判に及んでいる。長妻昭が公邸を出てマスコミ記者の前に立った時刻は午後９時半で、報道ステーションの放送が始まる３０分前だった。おそらく、10/23の閣議での最終決定を目の前で平野博文と藤井裕久に電話指示するようねじ込んでいたのだろう。鳩山由紀夫は狡猾な男で、記者団の前では調子のいいことを言うが、その直後にすぐに踵を返し、平野博文と藤井裕久と一緒に裏で謀略を始める。これまで何度もそうして覆してきた。母子加算復活は、やるやると言いながらやらないのだ。
報道ステーションでは、この件についての藤井裕久の記者会見の映像も出ていた。昨日（10/21）の会見のはずだが、財務省のサイトには何も情報がない。今日（10/22）の朝日（7面）には小さく記事が出ていて、藤井裕久が、高校就学費と学習支援費の廃止を譲る意思がなく、それを残した場合、「公平という議論からどうなのか」と記者の前で堂々と言い放っている。昨日の首相談話も、注意して読むと、高校就学費と学習支援費を残すとは明言していない。長妻昭が訪れたのは官邸ではなく公邸である。まさに決死の夜討ち。これからまた、藤井裕久と平野博文の反撃があり、一悶着があり、簡単な決着にはならないだろう。財務省はこうやって巧妙に時間稼ぎをしているのだ。鳩山由紀夫に曖昧な指示をさせ、藤井裕久と平野博文に巻き返しをさせ、厚労省官僚に長妻昭の足を引っ張らせ、マスコミに長妻昭への嫌がらせ記事を書かせ、刻一刻と時間を稼ぎ、母子加算復活の実施時期を１か月ずつ遅らせ、遅らせることで「支給額削減」の実効的成果を得ているのである。姑息で卑劣で悪辣としか言いようがない。母子加算復活の民意に対する反動工作に躍起になっている。われわれが見抜かなければいけないのは、政権の本質であり、政権中枢がどういう思想や立場で政治を行っているかである。結論を言えば、鳩山由紀夫と藤井裕久と平野博文は三位一体の新自由主義者なのだ。財務省事務次官の丹呉泰健は、小泉純一郎の首相秘書官をずっと務めた筋金入りの新自由主義官僚で、竹中平蔵の腹心の部下であり、「聖域なき構造改革」の中心人物だった。
社会保障費を毎年２２００億円削減する新自由主義政策（＝「聖域なき構造改革」）は、竹中平蔵と丹呉泰健が計画し着手し遂行したものである。今、まさに同じ政策が丹呉泰健によって再現されていて、要するに、竹中平蔵の代わりに上が藤井裕久に変わっただけだ。政策路線の本質は変わっておらず、キャッチフレーズだけが「構造改革」から「国民の生活が第一」にすげ替えられ、ヨリ欺瞞的で倒錯的な政治実態になっているのである。一言で言えば、弱者いじめの政治。藤井裕久や平野博文や丹呉泰健からすれば、生活保護を月１４万円もらっている世帯には、子ども手当２万６千円は不要であり、それを支給することは、社会政策として「公平ではない」のである。藤井裕久と丹呉泰健にとっての子ども手当の公平な支給とは、年収１千万円以上の世帯にも子ども手当２万６千円を毎月出してやり、月１４万円の生活保護の世帯には、子ども手当２万６千円を出す代わりに生活保護を１１万４千円に減らすことなのである。弱者には与えないのだ。それが彼らの「政策の公平」の常識なのである。この思想を新自由主義と呼ばずして何と呼ぶのか。この事実について、マスコミはほとんど真実に切り込んだ報道をしない。現場の記者たちは実態と意味を知っている。だが、キャスターやコメンテーターは解説をせず、長妻昭がなぜ孤立させられているかを言わない。本来なら口を開くべき福島瑞穂が何も言わない。ブログ左翼たちは、鳩山由紀夫や藤井裕久を批判しようとせず、相変わらず政権翼賛の記事ばかりで群れ遊んでいる。この政権の歴然たる新自由主義的性格を正視しようとしない。
この問題は、果たして平野博文の暴走なのか。藤井裕久と平野博文の個性の問題なのか。平野博文は悪者になっている。だが、平野博文を官房長官に据えて権力を振るわせているのは誰なのか。平野博文の発言は誰の意思なのか。平野博文は只の茶坊主であり、平野博文の発言の一言一句は、すべて鳩山由起夫から指示を受け、内諾を得て、鳩山由起夫の意思が形になったものである。鳩山由紀夫の内諾や了解なしに、平野博文が勝手に内閣の意思を国民の前に表明することなどできるはずがない。つまり、鳩山由起夫は、汚れ役を平野博文にやらせている。自分の意思だが、国民の反応が悪く返って来る政策発言は、平野博文の口を使ってやらせる。批判は平野博文に向かうようにする。自分はいかにも総合調整役のフリをして、「国民の生活が第一」に忠実な演技をして立ち回る。狡猾だ。本当は違う。母子家庭復活を妨害しているのは、最高権力者である首相の鳩山由紀夫であり、鳩山由紀夫が自らの政策路線を国民に伝え、経団連に本当の（同志としての）姿を見せているのだ。長妻昭だから、この路線に抵抗をしている。もし仙谷由人が厚労相に就いていたなら、これほど紛糾することなく、財務省（藤井裕久・古川元久・丹呉泰健）の思惑どおり、母子加算復活は来年度に先送りされていただろう。藤井裕久は嘘ばかり言っている。財務相就任が決まってテレビの政治番組に出たとき、母子加算復活（６０億円）は本年度予算の予備費で十分に対応できると断言していた。口でそう言い、国民を安心させていながら、実際には、そんな意思は毛頭なく、巧妙に騙していたのである。藤井裕久は、母子加算復活を遅らせながら、遅らせている理由について説明しない。マスコミも問い質さない。
石破茂は、先週、こう言って民主党政権を批判した。「民主党は、選挙の前に無駄を削れば財源はいくらでも出てくると言いましたよね。でも、結局、財源は出てきませんでしたよね。嘘を言っていたわけですよね」。この批判は明快で、そして論理として当を得ている。石破茂の言うとおりだ。補正予算の削減も、来年度予算の概算要求も、確かに作業の期間は短かった。だが、政務三役は休日返上で深夜まで電卓を叩き、電卓を叩いている姿をテレビカメラに撮影させ、官僚が組んだ予算の無駄を切り込んでいたはずだった。サスペンダー姿の鈴木寛と、傍らで仲睦まじいカップルのように侍っていた高井美穂の夜の文科省の一室での姿は、何度テレビで放送されたことだろう。そして、補正予算の削減でも、概算要求の提出でも、閣僚たちはキッパリと「もうこれ以上削れるところはない」と言い切っていた。「無駄を削る」と選挙で言い続けた民主党政権の閣僚が編成した予算が、９５兆円の水膨れになっているのは、「無駄がある」と言っていた主張が嘘だったか、閣僚たちが無能で官僚に巧く騙されたか、あるいは、自公政権の閣僚と同じく、省益の代弁者になり果てたかのどれかある。この問題について、私は二つの謎解きをしている。一つは、野党時代の民主党が、政府予算の全体と詳細を熟知しているようなフリをしながら、本当は予算の中身について厳密な検証と分析を行っておらず、それをゼロベースで見直す知識と能力を持っていなかったという事実である。テレビ番組に出演した原口一博は、大きな顔をしてこう言っていた。「僕らは、国の予算が何にどう使われているか、１円単位まで全部分かっているんですよ」。私はよく覚えている。だが、この言葉は真っ赤な嘘だった。嘘だったが、当時は、それがさも本当にように聞こえていた。
私は、昨年の通常国会が始まったときに、民主党に、政府予算案に対して野党予算案を作れと記事で書いた。それが、自公政権をリプレイスする能力を国民に説得する上で最も有効な方法だと言ったが、民主党はそうした方向には動かず、ワンフレーズの暫定税率廃止に戦略をフォーカスさせ、ガソリン国会の不毛な政争の泥沼に引きずり込んで政局を混乱させた。民主党は、あれほど「政策通」の議員がいて、スタッフがいて、元官僚の政策専門家がいて、省庁との人脈もあるのに、実は見せかけほどには行政の全体を理解把握していない。虚仮威しを国民の前で言っている。私はそう確信したが、その確信が正しかったと証明された感を抱いている。だから、概算要求にメスを入れることができなかったのだ。官僚の言う「これ以上削れない」の言葉を、大臣の言葉にしてしまう（自公政権と同じ愚の）図に陥ってしまったのである。大臣は飾りでも、若い政務官は役所の行政事業を細部まで知っていなくてはいけない。政務官になった時点で、予算（事業）の何を削るかの構想と計画が頭の中にあって当然だ。夜中に部屋に籠もって電卓を叩いているようでは話にならない。そして、その作業を最初から官僚に丸投げしたら終わりだ。官僚に「無駄の削減」をやらせて、「これが無駄でした」と持ってくる官僚などいない。政治家である政務官が、予算項目の中で「これが無駄だ」と具体的に指摘しなければいけないのである。もう一つの問題は、前に指摘したが、鳩山政権の派閥均衡人事の問題である。行政の専門知識を持った人間が大臣に配置されていない。農水相の赤松宏隆もそうだし、国交相の前原誠司もそうだし、文科相の川端達夫もそうだし、防衛相の北沢俊美もそうである。国交省の予算はもっと削減できるはずだ。官製談合を廃した金額が再計算されていない。だが、それを財務省が指摘していない。財務省は、国交省や農水省や防衛省の官製談合の無駄はそのままにして、厚労省の母子加算復活を必死になって削っている。民主党政権の「コンクリートから人へ」の政治の真実の姿がここにある。
