第1回 企画は ジェットコースターの のぼり坂。

糸井 テレ朝の番組って、このところ、
とてもおもしろいですよね。
『アメトーーク!』がはじまる数年前から、
「お金」ではなく「知恵」を使って作る、
という番組が
深夜の時間帯にずいぶん
出てきたような気がするんです。
加地 うん「お金ではなく」ってところ、
まさにそうですね(笑)。
糸井 たとえば『Qさま!!』
それから、内村(光良)さんの出てる、
えーっと‥‥
加地 『内P』(『内村プロデュース』)ですね。
糸井 自分が「ほぼ日」をはじめた頃は、
金があるわけがなくて、
かといってスポンサーもないという状態でした。
当然のことながら、まぁ、どこにもお金がない。
加地 (笑)
糸井 だけれども、何かやりたいなと思ってる。
そのいい意味のじたばたした感じが、なんだか、
加地さんがおられるテレビ朝日の
いまのおもしろさと重なって見えるんです。
加地 うれしいです。
糸井 ぼく個人的には、
「NHKってやっぱりすごいな」と
思ってる時期が、長く続いてはいるんです。
だけど、それと同時に、
テレビ朝日のおもしろさを、いいなぁと思う。
加地 番組の企画を考えるとき、
ぼくなんかは、まず、
大御所は出てくれないだろうな、
というところもあったりして(笑)、
そういう状況でいかにおもしろい番組を
作っていくかに、頭を使っています。
糸井 うん、うん。
加地 ぼくはいま、『アメトーーク!』のほかに、
『ロンドンハーツ』という
番組をやっているんですが。

『ロンドンハーツ』毎週火曜午後9時放送
糸井 ああ、あれも加地さんなんですか。
加地 そうなんです。かれこれ10年になります。
開始当時は、ゴールデンタイムでどうやって
ロンブー(ロンドンブーツ1号2号)だけで
番組を作っていくのか、
けっこう悩んでいました。
裏番組のラインナップも、すごかったんです。
どうしよう、と頭を抱えたときには、
やっぱり企画内容で
がんばるしかないんですよねぇ。
糸井 うん‥‥あのね、その感じって、
『少年ジャンプ』にも似てますよ。
加地 雑誌の。
糸井 そう。『少年ジャンプ』の創刊は
ぼくが高校生の頃でした。
当時はすでに『サンデー』や『マガジン』が
大流行していて、
そこで活躍していた大御所の漫画家──
つまり、手塚治虫さんとか
石ノ森章太郎さんとか
ちばてつやさんとか赤塚不二夫さん──は、
使えないわけです。
そのときに『ジャンプ』に描いたのが
本宮ひろ志さんです。
加地 なるほど。
糸井 それから、永井豪さん、
『トイレット博士』のとりいかずよしさん、
みんな当時は大御所というわけじゃない、
ほとんど新人だった人たちです。
つぎつぎと、『ジャンプ』は彼らに描かせました。
それで、ページの柱に
「○○先生の漫画が読めるのは『ジャンプ』だけ」
と書いてたんですよね。
加地 ああ、あの有名なセリフ。
糸井 でも、それは真実で、
ほかには描いてない人たちばかりを
使ってたんですよ。
加地 そうだったんですか‥‥。
糸井 そうやって、編集者が一緒になって
漫画を考えていったのが『ジャンプ』で、
後の、少年週間漫画雑誌の
トップになっていくんです。
いまのテレ朝のもつパワーは、
その頃の『ジャンプ』のようだなぁと思います。
大御所を番組に出したいという気持ちは
もともとは、あったんですか?
加地 出したいという気持ちは
いまでもなくはないんです。
というより、もちろんあります(笑)。
糸井 だよね(笑)。
加地 だけど、「きっと出てくれないだろうし」
というところから考えはじめると、自然に
「それじゃどうしたらいいか」の知恵が
ついてきます。
そうすると、だんだん
「あ、出てもらわなくてもできるや」
ということになっていきます。
糸井 大物の出演に頼らなくても
番組はできていくんですよね。
加地 ええ。特に、ぼくは、
いま活躍している芸人さんたちと
年齢が近いからか、
ディスカッションもしやすいし、
意見も言いやすい、という状況があります。
糸井 「頼むよ」って言えば、きっと
彼らは頼まれてくれるんですね。
加地 はい。「ごめん」と言えば、やってくれます。
これこれこうで、よろしく、と。
糸井 いいなぁ。
加地 雨上がりもロンブーも
とりあえずは
「うん」と言ってくれます。
だから、気後れしないで、
「今度、こんなのやるんだ」
と言うことができます。
おうかがいを立てるというよりも、
「やるからね、よろしく」と言い切る(笑)。
糸井 ああ、それはホントにいいですね。
加地 「この内容で、自分たちの立ち位置を考えてね」
ということも、言えます。
だけど、番組が軌道に乗り切れてないときや
裏番組が強力な場合は、ものすごく模索します。
とはいっても、いい企画って
そんなにたくさん浮かびません。
それでも、オンエアは埋めていかなきゃいけない。
糸井 番組は毎週だもんね。
加地 60点の企画でもやらなければならない場合が
出てくるんです。
糸井 はい、はい。
加地 そういう60点の企画を
ロンブーの(田村)淳にプレゼンしたら、
さすがに「むーん」。
糸井 ははは、そうだよね。
加地 「でも、いまこれをやんなきゃいけない。
 60点だけど、これを80点にしてよ」
と言って、やってもらったりしました。
糸井 芸人さんたちは、肉体の表現で
最後に点数を足せるんですね。
加地 足せます。
雨上がり決死隊にも
「今日の企画は80点だから100点にしてね」
と言ったことがあります。
糸井 肉体で足せるのは20点分?
加地 番組によりますが、
100点のものを200点にしてくれるときがあります。
だけど、点数の低い企画の場合、
伸び率は小さいです。
糸井 ジェットコースターの
上り坂のようなしくみなんですね。
激しくスピードが出る前には、
高くのぼってるんだ。
加地 そうです。
あらかじめ高くのぼった企画は
コースターのスピードがすごいから
現場が楽しいんですよ。
(続きます)

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2009-10-20-TUE

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