山本化学工業のバイオラバーについて、関西の私立大の医学部教授らが、科学的にがんの増殖を抑える効果があるとする論文をまとめたり、記者発表したりしていた。山本化学工業はこれらの発表を製品の宣伝に使っていた。
ある研究者は泌尿器科教授だった昨年6月、バイオラバーから放射される遠赤外線がヒトの前立腺がんの細胞の増殖を抑えるとする論文を発表。遠赤外線ががん細胞の温度を上げて、細胞の自然死を導く遺伝子が活性化されると発表していた。この研究者は当時の会見で「今後、治療に応用できる可能性がきわめて高い」と説明していた。
この論文は、英科学誌ネイチャー関連の「ネイチャー・プリシーディングス」というサイトに載った。しかし、このサイトはネイチャー本誌とは違い、編集部が専門家に依頼して内容の妥当性などを点検する「査読」という作業をしない。登録すれば、誰でも無料で投稿でき、そのまますぐに掲載される。
山本化学工業は論文掲載後、山本富造社長名で「世界最高峰の科学誌『ネイチャーの6月23日付電子版』にて承認掲載された」と書いた文書を報道機関に配布。「世界初で人体外部装着のみでがん抑制効果のある、全く新しい『がん抑制』『がん予防』素材であり、副作用も全く考えられない新素材であります」と強調していた。
この研究者は20日、朝日新聞社の取材に「新聞記者に話すつもりはない。薬事法違反の疑いについては、私には関係ないことだ」と話した。
別の私立大学医学部の教授も今年9月28日、動物実験によってバイオラバーにがん抑制効果があると発表した。この教授は、朝日新聞の取材に「サイエンスとして研究しているだけ。人のがんに効くかどうかは臨床試験をして初めていえることだ」と説明している。
国立がんセンターの津金昌一郎予防研究部長は「がんが治ると主張するからには、細胞や動物の実験ではなく、人を対象とした臨床試験で証明が必要だ。質の高い複数の科学的証拠がそろって初めて効果があったといえるが、そのレベルに達していない」と話している。